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12. 九尾の狐 №3 ~ 妖怪 収納
この時、目前の攻防以上に、俺を驚かせたことがあった。
茜と風太が岩壁に向って走っているのだ。
風太の手には、あのカプセルが入ったアタッシュケースがあった。
そして、彼らの行く手、大きな岩の傍に、子供のような姿が見えた。
——アマビエだ!
茜と風太は、アマビエを発見したのだ。
アマビエが岩陰に見えなくなった。
洞穴でもあるのだろうか?
まるで、天岩戸に守られている妖怪たちが目に浮かぶ。
茜と風太は、パルクールの熟練者のように、いや目にも止まらぬスピードで、岩を駆け上がり、吸い込まれるように、岩陰に消えた。
九尾の狐は、うずくまったままだ。
俺はアルタイルから出て、源さんのもとに駆け付けた。
左腕から、ひどい出血をしている。
巨大カエルは、いつのまにか姿を消していた。
❖
茜と風太が戻ってきた。
「源さん、しっかりして!」
茜の顔に悲壮感が漂う。
自分の服を裂いて、源さんの左腕の止血をする。
「ちゃんと、カプセルに入れたからね」
小脇にアタッシュケースを抱えた風太は涙を拭った。




