9. 玉藻前
『——映ってます、九尾の狐が!!』
車内無線に茜の声が流れた。
妖気レーダーは激しく点滅していた。意外と早いご到着だ。
『アルタイル、了解!!』
『ゼウス、知ってたよ』
知ってたのかよ。その割には、少しもビビッてないな。
『岩場のほうに、人が——』
またもや、茜の声が流れてきた。
見上げると岩山の中ほどに、豪華絢爛な着物を身にまとう女性の姿があった。
『さあ、行こうか』
源さんが静かに言った。緊急警報もうるさいから切るようにとの指示があった。
三台の車が岩場を上がっていく。
後ろ足を長くしたので、グラスホッパーの蹴りに力が入った。
着物の女性のいる所は、小石が転がっているが、わりと平坦だった。
俺たちが近づくにつれて、ほほ笑みながら、徐々に後ずさりする。
まるで俺たちを招き入れるかのように。
妖艶な雰囲気が漂う着物の女性は、岩山を背にして立っていた。
俺たちは横に並んで、向かい合った。
『みんな、車から出るなよ』
そう言い残して源さんが、車を降りて女性に向って歩を進める。
俺たちは、戦闘態勢に入り、様子を見守った。
源さんは、着物の女性と対峙した。
『玉藻前じゃの?』
——あ~ら、懐かしい名だねえ。覚えていてくれたんだ。
二人の会話は、源さんのピンマイクが拾っている。
『殺傷石が割れて、息を吹き返したか』
——そいつは、ごあいさつだね。酷い言い草じゃないか。オホホホホ。
玉藻前が、なまめかしい笑い声をあげた。
『わしらは、お前と争うために来たんじゃない。邪魔はしないでくれ』
——おあいにくさま。
穏やかな口調は、ここまでだった。
いきなり眉間にしわを寄せ、鬼のような形相に変貌する。
——ふざけるんじゃないよ! こんな所に閉じ込めやがって。
玉藻前は源さんを睨みつけた。
——やすやすと逃がしてやるほど、お人好しじゃないんだよ。
俺たちの妖怪救出作戦をお見通しのようだ。
——こしゃくな奴らめ!
玉藻前は、着物の袖で顔を隠すと、くるりと回り始めた。一回、二回、三回と回転すると、体はみるみるうちに大きく膨れあがった。
やがて化身が本来の正体を現した。