15. お守り
インターホンが鳴った。
茜が女性を一人連れて戻って来た。
何気なくその女性の顔を見て、俺は驚いた。
——若尾美恵子。
「なんで?」
俺の絞り出すような声に、美恵子は頬を赤らめた。
「忘れ物をしちゃって」
源さんから隣の部屋にいくよう促され、俺と美恵子は移動した。
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「どうしたの……」
俺は訳が分からなかった。
「この間まで、ここで、お手伝いしていたんです」
聞けば、俺と初めて話した後、夏休みに入ってすぐにここに来たという。
コンピューター室も、車の整備も、数日前から、誰もいなくなっていた。
源さんは、メノウに入ったあとは、誰に頼ることもできないんだから、用事が済んだ人たちには、順番にお引き取り願う、と言っていた。
美恵子は、人の紹介で手伝いに来たが、大したお役に立てなかったと謙遜した。
「じゃあ、だいたい知ってるんだね?」
俺が聞くと、美恵子は頷いた。
美恵子はバッグから、お守り袋を取り出した。
「二十七日、無事に帰って来てくださいね」
礼を言って受け取り、俺は聞いた。
「休学届を出したって、言ってたよね」
「ええ。留学するんです、九月から」
「へえー、そうなんだ。……俺も、休学するかも、わからないんだけどね」
本心を言えば、俺の休学届は必要ないと思っている。
生きて戻って来られなければ、それまでのことだ。
生死を分けた戦いになるような予感があった。
しばしの沈黙が流れた。
みんなのいる部屋に戻って、美恵子は挨拶をして帰っていった。
「ミエちゃん、何を取りに来たの?」
トイレから戻ってきた風太が尋ねた。
確かに、何か忘れ物をしたとか言っていたのだが……。
それより、風太がミエちゃんと呼んだことが、俺には驚きだった。
風太によると、俺が来る前に、ここで知り合ったとのことである。
しかし、源さんは少し違う観点から疑問を持っていた。
「お前たちは、どれほど親しいんじゃ?」
俺は、同じ大学に通っていて、先月初めて話しをしただけだと説明した。
「ここに来る話を、したのか?」
「いいや」
俺は首を横に振った。
「それはおかしいの。お前がもうすぐここに来ることを、彼女は知っておったぞ」
(ウソだろ?)
俺は返答できなかった。
「さらに彼女が不思議なことは、妖気レーダーが時々反応することじゃ。もうこればかりは、アマビエに聞かねば分からんな」