表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/35

14. 出発 間近


「八月十二日、決行じゃからな」 源さんが言った。

あと、一週間もなかった。

「満月の日に、メノウに入って、新月の八月二十七日に帰ってくる予定じゃ」

「絶対、戻れるの?」

俺はノートを閉じて尋ねた。

「もし戻れなければ、休学届を出すようにと、お前たちの親には伝えてある」

源さんは立ち上がって、ズボンのお尻をはたいている。

親まで丸め込んで、段取りを組んでいるようだ。ご丁寧なことで。


源さんが去ったあと、俺はぼんやりと考えた。


茜や風太の心情を思うと、察するに余りある。

そして、源さんが時々ため息交じりに、ふっと寂し気な顔をするのは、俺たちを巻き込むことへの罪の意識ではあるまいか。


このままだと契約書とか承諾書なんか、交わすこともなさそうだな。

でも、もういいや。乗りかかった船だ。

俺は缶コーヒーを飲み干した。



いよいよ出発を明日に控え、俺たちは事務所で会合していた。

源さんは忙しそうだった。

庭に高級車が十台以上は止まっていた。

様子を覗いてきた風太が、偉い人がいっぱいいたよ、と言っていた。

 

しばらくして、やっと源さんが戻ってきた。

適当にあしらって帰らせたそうだ。

 

源さんは神妙な面持ちで席に着いた。

「いよいよ、明日、出発することになった」

そして、机に両手をついて、

「お前たちには、申し訳ない」

 と深々と頭を下げた。


「それより」 

俺が話題を変える。しんみりした話は、性に合わない。

「あのキャンピングカー、バス、トイレ付だけど、飲み水は足りるの? 宇宙飛行船なんかじゃ、小便を浄化して……その」


「いや、タンクの分で大丈夫じゃろう。宇宙食も困らんくらい積んであるし、ろ過装置や滅菌剤も完備している。ただ長引けば、バッテリーがちょっとな」

源さんの顔が一瞬、曇った。

バッテリーの容量を源さんは気にしている。

電気自動車でバッテリーが切れれば、ただの金属の塊だ。

この不安は、残念なことに、的中してしまうのだが……。


「サスケたちも連れて行く?」

いつのまにか、風太の横に柴犬のサスケがいた。

さっと、飛んできたのは、八咫烏のヤッターである。

「いや、置いていく」 

源さんは即答した。

サスケは寂しそうに、鼻を鳴らした。


風太はサスケの頭を撫でた。続いて、体を撫でた。

 そして、抱きついた。力強く抱きしめた。

 もう会えないかもしれない。

 風太はそんな予感がしていた。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ