11. 座敷童子 ~ アマビエ
メノウの外に帰還するのには、タイミングがあるという。
すぐ戻るのは問題ないが、機を逸すると、時期がずれ込むらしい。
「妖怪がまだ五体、この中におる。早く彼らを連れ戻さないと、この世のバランスが壊れて災いが降り注ぐ。一体だけは、戻って来たがね——ほれ、そこに」
源さんが風太のほうを見た。つられて、俺も視線を向けた。
「う、っわ——!!」
風太の背後に、人影があった。風太と同じくらいの身長で、着物姿だ。
「座敷童子、じゃよ」
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源さんにうながされて、俺たちは、もとの部屋に戻った。
風太はまだ隣の部屋にいて、座敷童子と話している。
笑い声が聞こえてくる。
——あのバーカ、何の話で、盛り上がってんだ?
茜が叱りながら、風太を連れ戻してきた。
「座敷童子が言うのには、メノウの中には、恐竜らしきものがいたらしい。鬱蒼とした森や不気味な湖が見えたようだ。短時間だったから、データが少ないのは仕方ない」
座敷童子だけが難を逃れた理由は、咄嗟に岩陰に身を隠して恐竜たちをやり過ごしたからだという。
座敷童子は、わりとよく知られている妖怪だ。
しかし俺が意外だったのは、座敷童子も参加していたということだ。
あのような非力で小柄な妖怪が、何の役に立つんだろう。
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源さんが棚から分厚い本を取りだして、テーブルで開いた。
妖怪絵図だった。
これこれ、と開いたページには、『アマビエ』の木版画と説明書が掲載されていた。
現物は、どこかの大学に保管されているそうだ。
アマビエは、肥後国の海中に出現し、光り輝いて豊作や疫病を予言したらしい。
「へたっぴーな絵だな」
俺には子供が描いた絵に見える。
「ばち当たるよ」
風太に、たしなめられた。
「このアマビエが知っていた。昔、山の神から海の神に受け継がれたメノウが、海底に眠っていたことを」
メノウに入る方法、出てくる方法。
妖怪以外でそれが可能な人間は妖術や忍術に秀でたDNAを引き継いでいる者であること。
いろんなことを源さんはアマビエから教わり、全幅の信頼を寄せていた。
先祖帰りを繰り返し、妖気人間のDNAは、受け継がれることがあるという。
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「そこでまず、妖怪たちの協力を得て、勇者を探すことになった」
源さんと俺の目が合った。
勇者という言葉は、まんざらでもないが、妖気DNAって聞いたことがない。
「座敷童子に仲間を集めさせて、子泣き爺たちを助けに行けばいいじゃない?」
勇者の俺は源さんに一応、疑問を投げかけた。
「メノウの中には、九尾の狐や恐竜がいる。彼らじゃ無理だ。どうしても妖気DNAを受け継ぐ者たちを探さねばならなかった」