夢の最後とカセットテープ
私は今日、夢を諦める。
もしかしたら、夢なんて大層なものじゃなかったかも。
最初は夢だったそれが、意地や欲で汚れていくことは自覚していた。でも気付かないフリをして来た。
身なりだけ綺麗だけど醜いままか。
醜さを認めて綺麗になるか。
どちらかを選べるのなら、私は後者を選びたい。
ということで、いつもの場所で最後の弾き語り。
綺麗に見せようとはせず、ありのままの私で歌う。だけど立ち止まる人は相変わらずいない。
適当に切り上げて横断歩道を渡ると、背後で大きな音がした。
驚いて振り向いて、更に驚いた。
歌うためにさっきまで私がいた場所。そこに車が突っ込んでいた。もしもう少し長くあそこにいたら、私はどうなっていただろう。
…なんてことがあったことを、カセットテープを見て思い出した。
私はいつも自分が弾き語りする様子を録音していた。
あのときも、それだけは変えなかった。
「ママ!これなに?」
大学を卒業するあの頃でも廃れ気味だったし、今の子は知らないか。もう随分前のことになるんだな…。
「カセットテープっていってね、昔のママがお歌を歌ってるのが聞けるんだよ」
関心がない様子で適当な返事をして、弄び始める。
「ちゃんとお片付けしてよ?」
一丁前なのは返事だけで、早速放り出している。そのままどこかへ行こうとしたその手を捕まえようと、一歩踏み出す。
その瞬間、一瞬だけ揺れたような気がした。
いつもは気にしないけど、何故だか今日は気になってスマホで地震速報を見た。そんなニュースはないから、気のせいだったのかな。
「あっ、ママの大切な物なんだから大切にしてよ」
テープの部分を出して遊び始めてる。慌ててその手を掴もうとしだけど、なにも掴めなかった。あ、夕立かな。…なんだろう。景色になにか違和感が―――
***
ということで、いつもの場所で最後の弾き語り。
綺麗に見せようとはせず、ありのままの私で歌う。だけど立ち止まる人は相変わらずいない。
歩き出した私のほぼ真後ろに、なにかが飛んで来た。持っていたギターが巻き込まれた勢いで、結構な距離を転がった。
…なんてことが昨日のことのよう。雨が降ると、傷が痛む。
建設が随分進んだマンションを窓から眺めながら、ぼんやりと思った。
「ママ!これなに?」
懐かしい。あれ?どうして伸びているところがあるんだろう。
「ママ!」
そういえば、前にもこんなこと…
***
ということで――――――――――