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三人目のメイド

「ちょっと怜介様? 蒼唯にデレデレしすぎじゃないですか? 小さい子が好きなんですね……」

「おい、人をロリコンみたいに言うな。ていうか高二だろ」

「だから合法だ、って言いたいんですか!?」


 珠季が、蒼唯を庇うように覆いかぶさる。

 なんでそうなった……。ちなみに、二人がいるのは俺のベッドである。いい加減どいて欲しい。


 蒼唯は上に人が乗っているというのに、気にせず目を閉じたままだ。もしかしたら熟睡しているのかもしれない。


「はぁ……。で、なんで部屋に戻って来たんだ?」

「あ、そうでした。お食事の準備ができたので、呼びに来たんです」

「ああ、悪いな。任せちゃって」

「いえいえ、私たちの仕事ですから~」


 ニコニコと笑う珠季。


 仕事、か。

 料理を作るのも、メイド養成高校の特別実習のうちということか。

 俺は自分のことは自分でやりたいタイプなので、メイドにやらせるというのはあまり気持ちよくない。とはいえ、今日来たばかりで屋敷のことに口を出すのも不作法だろう。


 ありがたく甘えることにして、珠季と一緒に部屋を出る。


「ダイニングは一階です」

「蒼唯はいいのか?」

「んー、お腹空いたら勝手に降りてくると思いますよ? 小食なので一日一食しか食べませんが」

「そうなのか。学科が違うのに、仲いいんだな」

「はいっ。私たちの代は全部で十八人しかいませんし、一年生の頃は寮生活でしたから」


 結構少ないんだな。

 まあ、現代日本でメイドを目指そうという女生徒がそれほど多いとは思えない。そもそも、学校の存在自体、ここに来るまで聞いたことなかったくらいだし。


 珠季や蒼唯も、上流階級と関わりのある子女だったりするのだろうか。


「ここです」


 考え事をしながらぼーっと階段を降りていると、珠季の声で意識を戻された。


 通されたのは、リビングの隣に位置するダイニングだ。

 六人掛け程度のテーブルが一つ、中心に置いてある。空間を広めにとった、ゆったりとした部屋だ。


 屋敷と言っても、内装は一般家庭とそう代わりない。

 別荘のように見えても、ここはあくまで実習用の施設なのだ。上流階級に雇われて働くシミュレーションのためなのか最低限の調度品は揃っているが、絢爛というほどではない。


 ちょっとしたシェアハウスくらいのイメージだ。


 珠季が椅子を引いてくれたので、そこに座る。


「ただいま料理をお持ちしますね!」

「ありがとう。……ん!? 待て、珠季が持って来るのか?」


 というか、そもそも珠季が作ったのか?

 お茶を出すだけで惨状を作り出した彼女が、料理をして提供する。なんだろう、悪い予感を通り越して確信する。


「もー、心配しすぎですよ!」

「むしろ足りないくらいだと思ってる」


 スカートを翻して、意気揚々と扉へ向かっていく。おそらく、その先にキッチンがあるのだろう。

 一歩出遅れた俺は、慌てて立ち上がり手を伸ばす。間に合え……! 俺には食材を守る義務がある……ッ。


「お待たせしたっす!」

「ちょっとセーラ! 私が運ぶって言ったじゃないですか!」

「ははは、面白い冗談っすね」


 冗談じゃないですよ、と怒る珠季の横を通り過ぎて、三人目のメイドがテーブルに料理を運んでくる。


 珠季は和風美人だし、蒼唯は人形のような美しさを持っていた。

 しかしこの少女は、また別種の美しさを誇っていた。


 西洋風の端正な顔立ちに、青い瞳。キラキラと輝き透き通るブロンドの髪。

 まさに本場イギリスのメイドのようだ。

 絵画からそのまま出てきたような光景に、思わず息を呑む。


「初めまして。キッチンメイド学科の松雪(まつゆき)セーラっす」

「お、おおお! やっとまともそうなメイドが!? ……失礼。取り乱した」


 丁寧に腰を折るセーラに、自分の名を名乗る。


「私もまともですよ?」


 という戯言がどこからか聞こえたが、たぶん気のせいだ。


 無視して、テーブルに並べられた料理に目を向ける。

 これは料理も期待できそうだ。


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