2☆パラシュート
「空港?……でもどっちへ向かってるんだ」
一般の離発着場には向かわず、レンタカーの前を通り過ぎ奥へ奥へ。
寂れた建物へ囲いをくぐり抜けて向かう。
ポルシェを駐めて、古ぼけたこじんまりとした事務所に入る。
ゴオオオオオ。
窓の外をジェット機が離陸してゆく。
「古谷さんはいる?」
「ああ、愛さん。古谷さんならガレージで燃料補給してるよ」
「その人は?」
若い男が聞いた。
「この人は……」
愛は耳元で聞いた。
「あんた誰?」
俺は苦笑しながら、
「ジェームズボンド」
とふざけて言った。
「ただのアホよ」
と愛はそっけなく紹介する。
ここは小型機が整列して格納されている。こんな場所があるのか、と物珍しく眺める。
「今から飛べる機体ある?」
「30分後にあるよ。古谷さんはスケジュールぎっしりだから、多田さんって人の操縦で東へ」
「上等だわ」
俺たちは多田さんという人と引き合わせられた。
「今日初めて会った人に命を預けるのか……」
さっきの若い男がぼそっと言った。
俺は上の空でことの成り行きを見守っていた。
多田さん操縦の小型機に愛と俺は乗り込む。
荷物は機体の横に乗せないのか?と聞かれたが、飛んでいる最中に蓋があいて落ちるかもしれないから、と愛は例のA4サイズの封筒が入ったショルダーバッグを持って機体の後部座席に座った。
俺は前の席に座った。
「海上を飛ぶのなら不時着したとき用に救命胴衣を着たほうがいいんだけどね」
若い男が言った。彼は俺たちが乗り込んだのを確認がてら、パラシュートを3つ渡してくれた。
「ありがとう。またね」
「はーい、愛さん」
若い男は機体から離れた。
上部のハッチを閉めて、プロペラが回りだす。がくんがくんがくがくがくがく……。
管制塔と通信する多田さん。離陸の許可がおりる。飛行場内を3つのタイヤで走る。離陸するため滑走路に着く。
「行くよ」
「お願いします」
黒いイヤホンマイクで耳が変になりそうだ。
ぐらぐら揺れながら速度があがり、離陸。ふわりと浮かぶ。
「左!」
愛の声に俺と多田さんは左側を見る。燃料キャップがはずれている!!!
「もう間に合わない。途中で機体を捨てて脱出する」
空港から東は山岳地帯だった。
多田さんはパラシュートの使い方を教えて、俺と愛を先におろそうとした。
俺がまごまごしていたら、愛が先にハッチをこじ開けて飛んでいる機体から外へ出た。俺も続く。早くしないと多田さんが危ない。
夢の中みたいだ。手足がもつれる。
うわあああ!
落下。
気が動転してパラシュートを開くのを忘れる。愛が先にパラシュートを開いたので、やっと俺も開く。がくん!衝撃。
なんで俺は今こんな目に合ってるんだ?!