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夜の昔ばなし

ウサギのカメさん

作者: ノイテ

『ウサギとカメ』




「もしもしカメよ、カメさんよ


 うさ。


 世界のうちで、おまえほど歩みのろいものはないうさ。

 どうして、そんなにのろいのか~うさ」

「そんなに、のろいかのー、ウサギさん」

「なんと、おっしゃるカメさんうさ。

 それならカメさんと一緒に駆けっこうさ。

 むこうの小山の天辺まで、どちらが先に駆け着くかだうさ」

「とおいのー。

 ウサギさんは、なんで、そんなに、駆けっこ、したいんかのー」

「ムシャクシャしてるんだうさ。

 カメさんに駆けっこで勝ってウサを晴らすんだうさ」

「なら、しかたが、ないのー」




 駆けっこを始めるとウサギさんはどんどん先へ行き、とうとうカメさんが見えなくなってしまいました。

 ウサギさんは少しカメさんを待とうと居眠りを始めました。

 その間にカメさんは着実に進み、ウサギさん追い付くと…。


「もしもし、ウサギよ、ウサギさんよ。

 駆けっこは、どうしたんだい?

 …。

 どうした、もんかのー。

 こんなに、気持ちよさそうに、寝ているウサギさんを、起こすのは忍びないのー」

 カメさんはそう言うと、ウサギさんを起こさぬようにカメの甲羅にのせ、小山の天辺を目指し、また歩みを進めました。




「はっ、

 ここはドコうさ?

 いまはイツうさ?

 なぜ気持ちよく揺れてるうさ?」

「ああ、起こして、しまったかい、ウサギさん。

 そこは、カメの甲羅の上で、いまは、駆けっこの真っ最中、だよ」

「なんで眠っているウサギを置いて行かなかったんだうさ!」

「一緒に、駆けっこを、しようと言ったのは、ウサギさんじゃないかのー」

「意味が違うんだうさ!

 またカメさんをブッちぎってやるうさ!」

 ウサギさんは、そう言うとカメの甲羅から跳びおりて、どんどん先へ行き、またカメさんが見えなくなってしまいました。




 またカメさんは着実に進むと、川の前で立往生しているウサギさんに追い付きました。

「ウサギさん、どうしたんかのー」

「川に阻まれて先に進めないうさ。

 ウサギはこの川辺でリタイアうさ。

 駆けっこはカメさんの勝ちなんだうさ」

「はっはっはっ。

 カメが、ウサギさんに、駆けっこで勝つ、そんな道理があるもんかのー。

 川岸まで、ウサギさんを、運んであげるから、そこから駆けっこを、再開しよう」

「…でもうさ」

「ウサギさんは、カメに駆けっこで、負けても、良いんかのー」

「…良くないうさ」

「なら、決まりじゃのー」

 カメさんは、ウサギさんをカメの甲羅にのせ、川の向う岸まで運びました。

 向う岸までつくと、ウサギさんはカメの甲羅から跳びおりて、逃げるように、全力でどんどん先へ行き、またカメさんが見えなくなってしまいました。




 またカメさんは着実に進みます。

 どんどん急になる小山の天辺までの傾斜を、カメさんは着実に進みます。

 とちゅう山の傾斜で、へばったウサギさんに追い付きました。

「ひーっひーっうさ。

 こんなに坂が急だなんて、知らなかったうさ」

「全力で、走りすぎたんじゃなー、ウサギさん」

「ひーっひーっウサギはここでリタイアするんだうさ。

 もう駆けっこは、カメさんの勝ちで良いだうさ」

「ウサギさん、小山の天辺は、もう少しだよ。

 ウサギさんの背中を、押してあげるから、一緒に駆けっこして、小山の天辺を目指そう、ウサギさん」

「カメさん押すんじゃないうさ!

 あっ あっ あっ うさ」




 カメさんに背中を押されて、ウサギさんは小山の天辺に着きました。

「同時に、着いちゃったんだうさ」

「ウサギさんの、ほうが前だったから、ウサギさんの勝ち、じゃないかのー」

「そんなことはないんだうさ!

 絶対ないうさ!

 こうなったら出発点に帰るまでが駆けっこうさ!

 こんどこそカメさんをブッちぎってやるうさ!」

 ウサギさんは、そう言うと、どんどん先へ行き、またカメさんが見えなくなってしまいました。


「ウサギさんは、セッカチじゃのー。

 また、川で立ち往生、しとらんじゃろか。

 あの坂で、転んでないと、良いじゃがのー」

 そしてカメさんは、また着実に進みウサギさん追い付くと…。




「もしもしウサギよ、ウサギさんよ。

 駆けっこは、どうしたんだい?

 …。

 どうしたもんかのー。

 またウサギさんは、居眠りかのー」

 カメさんは、そう言うと、ウサギさんを起こさぬように、カメの甲羅にのせ、出発点のゴールを目指して、また進みはじめました。




「ここはー、どこうさ?

 また、気持ちよく揺れてるうさ?」

「ああ、やっと、起きたかいウサギさん。

 そこはカメの甲羅の上で、いまは駆けっこの、真っ最中で、ゴールはもう、目の前だよ」

「あっ、うさ」

 ウサギさんは、あの坂で滑って転んで気絶したのを思い出しました。


「駆けっこは、どうしたんだい? ウサギさん」

「ゴール前でカメの甲羅から跳び下りて勝利をかっさらってやるんだうさ。

 だからカメさんは、ゴールをまっすぐ目指せばいいんだうさ」

「ははは、それでは、勝てっこないのー。

 それまで、一緒に、駆けっこ、しようかのー」

「カメさんは、ホントに、しょうがない、うさねー」


 カメさんは、ウサギさんを背負って着実に進みます。

「ウサギさんは、あのとき、何を、ムシャクシャしていたんだい?」

「もう、良いんだ、うさ」


 カメさんが、みんなに、のろいのろいとバカにされていたからなどとは、ウサギさんは言えませんでした。


「カメさんは、なんで、ウサギと、駆けっこしてくれたんだ、うさ?」

「カメはのろいからね、いっしょに駆けっこ、しようなんて、ウサギさんが初めてで、うれしかったんだよ」

 …

「カメさんの、甲羅の上は気持ちいいんだ、うさ

 だから、ウサギは、

 寝るんだ、

 うさ」



「もしもしウサギよ、ウサギさんよ。

 ゴールは目の前だよ、ウサギさんよ。

 いつ駆けだすんだい? ウサギさんよ」



 カメさんは、ウサギさんが寝てるまに、ゴールしました。




(おしまい)

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