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怪我しないと色々雑になる

 さて、掃除もいよいよ終盤。

 あとは教室の後ろに塔のように積んで纏められた机と椅子を他の教室と同じように並べるだけ。

 けどあれだ。何がどうなったら机と椅子を積むことになるのか。何かしらの理由でスペースが必要だったにしてもこんな見るからに危ないスペースの空け方はないと思う。何かの拍子に崩れでもしたら怪我じゃ済まないよなこれ。


「とりあえず上から順番に降ろしていきたい……けど、これどうやって組んだんだ?」


 机と椅子のタワーは天井に届くまで積み重ねられている。手を伸ばしたところで届く気配はまるでない。

 どうやって組まれたのか。首を傾げていると委員長が隣に来て口を開く。


「たぶん、階段を作って順番に積み上げていったんじゃないかな? 天井の高さくらいなら、ちゃんと足から着地できれば怪我もしないだろうし」


「…………? ……なるほど?」


 なに言ってるかさっぱり分からん。けどまぁ委員長が言うならたぶんそうなんだろ。

 完全に理解したって顔でうんうん頷いていたらバカにしたような笑い声が耳に届いた。視線を向けてみれば、声の主は心底バカにしたような表情で言葉を紡ぐ。


「大丈夫だよ? 誰も君が全く理解できていないことをバカにしたりしないからさ。……フッ」


 超バカにしてんじゃん。鼻で笑ってんじゃん。

 いやまぁ、たしかに委員長が教えてくれてることさっぱり分かんなかったけどさ。階段?急に大富豪の話始まった?とか思っちゃってたけどさ。


「でもさ、嫌味でもなんでもなく、これは君一人でやった方が効率いいよね」


 つつつと寄ってきて耳元で安心院が小さく囁く。

 ふわりと香った甘い香りとくすぐったさに体が反射的にのけぞりそうになった。距離感バグってんのかこの女。もう法的にグレーゾーンでしょこれ。うっかり今ので驚きすぎて俺の心臓止まってたらそれはもう立派な殺人だよ?前科持ちになりたくなければモテない男子との距離感は考えて全世界の少女諸君は生きてください!恋人どころか友達もいない、それどころか知り合いすらいるか怪しいぼっち男子高校生のお兄さんとの約束だよ!


 全く、先生に「いいか? 不用意に近づいてやたらと好感度の高い女が居たとすればそれは君を利用しようとしているだけか、誰に対してもそうなだけで別に君に気があるわけじゃないから勘違いしてはいけないよ」と教えられていなかったらうっかり好きになって告白してフラれた挙句利用されるだけされて捨てられていたかもしれないぜ。先生ありがとう!

 なんか心なしか死にたくなってきたけど、とりあえず安心院相手に照れていると思われるのも癪なのでここは出来る限り平静を装って答えておく。


「ま、ままままぁ、そ、そそそうだな」


 いや、無理。平静とか無理。できるわけねーじゃん。ばっかじゃねーの。心不全疑うレベルで心臓高鳴っとるわ。大体あれな。平静を装おうとしてる時点で全然平静じゃないのな。


「……?」


「……いや、でもあれだよ。仮にそうだとしても委員長はそれを認めるようなタイプじゃない」


 先生のありがたいお言葉を思いだして深呼吸。安心院は俺に幸せになれる壺を売りつけようとしてる女だと言い聞かせてアホみたいに早鐘打ってる心臓を落ち着かせる。

 ふぅと息を吐きだして、改めて紡いだ言葉は想像以上にいつも通り。ようやく平静を装えた。


「俺だけなら全部崩して並べ直せるんだけどな」


 一番の下の段から適当に引っこ抜けば勝手に全部崩れるだろう。

 そうしたらあとは並べるだけ。唯一の心配は崩れる過程で俺に降ってきた机やら椅子やらが壊れてしまわないかくらい。一番時間がかからない方法で安全性も抜群。

 問題はたかだか数時間の付き合いでも委員長が俺一人でやると言ってそれを許してくれはしないだろうと分かってしまうことだ。

 何か良い考えはないのかと視線を向けると、安心院は苦笑を浮かべていた。


「委員長はあれでなかなかに頑固だからね。人に丸投げされることは良くても人に丸投げするようなことは絶対にしないよ」


 つまり、打つ手なしと。


「じゃあ、できるだけ安全に机とか降ろしていくしかないか」


「いや、そうでもないよ」


「……?」


 視線だけで説明を求める。が、安心院がそれに反応することは無い。代わりに塔を見上げ何かを思案している風の委員長に声をかけた。


「委員長」


「なに、安心院さん?」


「これ、ボク達だけでやるのは少し骨が折れるし危ないだろ? だからさ、何人か先生にも手伝ってもらった方がいいんじゃないかと思うんだけど。勝手にやって怪我でもしたらそれこそ迷惑をかけてしまうだろうしね」


「……あー。うん、たしかに。じゃあ、私何人か先生に声掛けてくるね」


「あぁ、よろしく頼むよ」


 委員長が教室から出て足音が遠ざかるのを確認すると安心院は向き直り言った。


「さて、じゃあ今のうちに崩してしまおうか」

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