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国道でも極道でもありません

「委員長。まさかとは思うけど、また雑用を押し付けられたのかい?」


 委員長。

 その言葉で思い出す。

 そうだ。彼女は俺が所属しているクラスの学級委員長だ。


 どこまでも黒く艶のある腰まで伸びた長髪と知的な印象を受ける黒縁の眼鏡。レンズの奥に覗く二重の大きな瞳は夜空に浮かぶ星々を思わせる。女子にしては少し高い背丈にすらりと伸びた長い手足。そんなモデルをしていると言われても信じてしまいそうな抜群のスタイルを包む指定の制服はただ一つの校則違反もなく、それが一層彼女の魅力を引き立て、かつ真面目といった印象を抱かせる。

 と、まぁ、長くなったが要は美少女だ。どうりで見覚えがあると思った。眼福眼福。

 

「先生に頼まれちゃって……」


 えへへ、と恥ずかしそうに微笑を浮かべながら委員長は安心院の問いかけに答える。

 そんな彼女の仕草に安心院は呆れるように額を抑えて言葉を返す。


「……はぁ。全く、君はいつもそうだね」


「べ、別にいつもってわけじゃないよ?」


 呆れたような彼女の言葉に居心地が悪くなったのだろうか。小さく反論しながらもふいと安心院から視線を外した委員長と知らない人じゃないけど喋ったことないしどうすればいいのかよく分からないからとりあえずぼーっとしていた俺の目が合った。


「あれ? 転校生の……国道君だっけ?」


 圧倒的心の準備不足。

 反射的に目を逸らしたメンタル弱者の俺と違って委員長は知っている人間を見つけたというだけなのにまるで予想外の場所で友達にでも会ったかのような親し気な声色と表情で委員長は俺に話しかける。

 別に彼女のことを何か知っているわけじゃないけど、それでも彼女の見た目から受ける印象なんかも手伝ってなんとなく良い人なんだろうなと思ってしまった。俺の名前間違ってるけど。


「違うよ委員長。彼の名前は国道じゃない」


 名前が間違っている。今日会ったばかりの関係性ではちょっと指摘するのも気まずいのでいっそ改名しちゃおうかなとか考えていたら安心院が代わりに指摘してくれた。

 いいぞ安心院!初めてお前に感謝した!


「彼の名前は極道さ」


「堅気だわ」


「その隈のできた人相で? 堅気に謝りなよ」


「お前が謝れよ。俺に」


 そもそもあれだから。二人ともそれ苗字の方だから。名前じゃないから。

 いくら組織が勝手に作った偽名で思い入れなどないに等しいとは言えど、こうも雑な扱いを受けると苦言の一つでも呈してやりたくなる。

 全く、人の名前を何だと思ってるんだこいつらは。

 憤慨しつつ俺は安心院に声を抑えて問いかけた。


「ところでさ、委員長の名前って何?」


「君、クラスメイトの名前も覚えてないなんて失礼だと思わないのかい?」


「そのクラスメイトの名前で遊んだ奴に言われる筋合いはねーな」


 どういうメンタルしてたらそんな信じられないみたいな目で俺のこと見れるの?俺からしてみればお前の方が信じられないんですけど?

 というかお前のその理論は委員長にも利くからな。

 思って委員長の方を見てみれば心底申し訳なさそうに委員長が縮こまっていた。


「ごめんね。私、記憶力あんまりよくないから……」


「い、いやいや! 全然気にしなくていいよ。普通そんな早く覚えられないって」


「そうそう。悪いのは覚えやすい名前してない君の方だものね」


「もう一生喋んなきゃいいのに」


 別に委員長を責めるつもりは最初からこれっぽっちもないけど、安心院にそこまで言われる筋合いもない。

 つーか、こいつ委員長が来てから俺への口撃以外で口開いてないよね。刺々しいにも程がある。どういう育ち方したらそうなるの?ご両親剣山か何か?

 言いたいことは数あれど、言い返したものなら半沢さんも真っ青なレベルの倍返しがとんできそうなので大人しく口を閉ざしておく。すると委員長が遠慮がちに口を開いた。


「えっと……名前、教えてくれる?」


「あ、六道。六道十六夜……っていいます」


「そっか! 六道十六夜……六道君! うん、覚えた! よろしくね! あ、私は黒埼(くろさき)玲奈(れいな)。一応委員長やってます!」


「えと、よろしく。……委員長」


 なるほど。委員長の名前は黒埼玲奈。たぶん一生名前どころか名字を呼ぶ機会もないだろうけど、ちゃんと覚えとこう。

 と、俺と委員長が親睦を深めて(名前を知っただけ)いると突然安心院がパンッと手を叩き注意を引き付ける。俺達の視線が向いたのを確認すると安心院は退屈そうに頬杖をついて続けた。


「それで、委員長。今日はなんの雑用をボクに手伝わせるつもりなんだい?」


 そういやそうだった。

 かなり話が逸れてしまったけど、何かを安心院に頼みたくて委員長はここに来たんだった。

 安心院の言葉に俺と同じく用件を思い出したのか委員長ははっとする。そして、言葉を続けた。


「掃除! 掃除を手伝って欲しくて来たの!」

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