つまり、俺も彼女も友達が少ない
「なーんか、スッキリしない……」
「……まぁ、気持ちは分かる」
自信ありげに冬月先生が部室から去っていった翌日。
俺と安心院は部室でぼやいていた。
というのも、やることがなくなった上にどうにも納得のいかない、理解の及ばない解決をしてしまったのだ。
解決したならまぁいいじゃんと思わないわけではないが、それにしてもしっくりこない。あんなんでほんとに大丈夫なんだろうか。
委員長曰く、樋口が書き込みをした原因は聖が忙しくて自分に構ってくれなくなったことなのではないかということだった。
正直、ちょっと俺には理解の及ばない話ではあった。
同様に安心院も理解が及ばなかったらしく困惑した表情を浮かべていた。
そんな俺達の様子に色々察したのか委員長が見せたのが書き込まれた文面の数々。
『最近ちやほやされて調子のってる』
『最近大して仲良くもないのにお願い聞いたりしていい人アピールウザイ』
『用済みになったら捨てる薄情者』
ご丁寧にも毎日一つ建てられるスレッドと追従するように書き込まれる悪口の数々。
多くはその場のノリと匿名性に任せて適当言ってるだけとして、委員長が注目を促したのは件の樋口が書き込んだ言葉。
『全部最近のことでしょ?』
言われてみればたしかにそうだった。
安心院に見せられた時は、陰湿なことするなぁくらいにしか思っていなかったし、それ以上見たいとも思わなかったので気づかなかったが、たしかにそういう傾向はあった。
それに、改めて見るとどうにもただの悪口というより恨み言のような印象を受ける。
最近、当事者達の周りで起きた変化。
直近の委員長が話していたことと話そうとしていたことを振り返ればすぐにその結論にはたどり着いた。
そして、俺達より一足早くその結論にたどり着いていた冬月先生は恐らく何かしらの根回しを行った。その結果、部活動の部員以外の生徒を助っ人として招き入れることは学校全体で禁止となった。
この一日で起こったのは大体こんな感じ。理解はできる。
ただ、納得したかと問われるとそれはまた別の話だ。
「……やっぱ、分かんないな。友達が色んな奴に頼られるのってそんなに嫌なことか? そりゃ、それで距離ができるのはちょっと寂しいかもだけどさ」
「まぁ、友達のいない君には一生分からないだろうね」
「すげぇなお前。棚上げの達人か?」
つーか、一生ってなんだ。勝手に俺に一生友達ができない前提で話進めてんじゃねぇぞ。
「大体、そういうお前は分かってんのか?」
「共感はできないけど、理解はできるよ。樋口茜は聖葵が自分以外の誰かと仲良くしているのが許せなかった。自分が一番じゃないのが許せなかった。要するに独占欲とか支配欲みたいなものだね」
「いや、その二つには結構な隔たりがあるだろ……」
というかそれほんとに友達か?
友達いたことないからそこんとこよく分からないんだけどさ。
「似たようなものだよ。どちらも結局は自分の思いどおりに相手を縛り付けたいってことなんだから」
「嫌な言い方だな……」
肩を竦めて安心院はカップを傾ける。
その様子を見るにまるで気にした様子はない。
結局、俺にも安心院にもたしかなところは分からない。
委員長が話したことが本当に正しかったのかも、冬月先生のとった手段が本当に正しかったのかも。
今日はたまたま書き込みがないだけで、もしかしたら明日からはまたあるかもしれない。
本当にこれが樋口と聖にとって良いことなのかも分からない。
ただ、それでも一つ確信を持って言えるのは、
「それにしても退屈だね。何か面白い依頼舞い込んでこないかなぁ……」
こいつ、友達いなさそうだなぁ。




