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20/22

とりあえずこいつが変な奴なのは分かった

「そんなことが……」


 ことの次第を軽く纏めて冬月先生から聞かされる委員長。

 話が最後まで終わると、まるで自分が当事者であるかのような悲痛な面持ちでそう言った。


「で、そこの何もしてない彼はボッチでクラスメイトのことなんて何も分からないから知ってそうで唯一頼れる君に泣きついたってわけだね。気持ち悪い」


「事実とはいえそこまで言うことある?」


 もはや俺を傷つけることだけを目的に口を開いてんじゃないかってくらい辛辣な物言いで俺が委員長を頼ったわけを告げる安心院。

 言い方とか言葉選びに悪意ましましではあるものの決して嘘は吐いていないタチの悪さに辟易しつつ言い返すもそんなことは聞こえてないと言わんばかりの態度で彼女は続ける。


「それで、委員長。何か知ってることがあれば教えて貰えるかい? そのなんとかっていう子のこと」


「お前も全然クラスメイトのこと知らねぇんじゃねえか」


「君と一緒にしないで欲しい。ボクはその気になればそんな小娘のことくらいいくらでも知れる。興味がないからわざわざ知ろうとしないだけだよ。知りたくても何も知れない君とは全然違う」


「クラスメイトのこと小娘呼ばわりする奴に誰が何を教えるんだよ……」


「……? 一枚ずつ紙幣を積み重ねていけばなんだって聞けると思うけど?」


「最低だ。知ってたけど最低だこいつ」


 なんでもかんでも金で解決しようとしないで欲しい。というかそんなことするつもりならはじめから俺にやらせないで欲しい。


「心外だな。むしろこの状況はかなり優しくしてあげている方なんだよ? 動機や経緯はどうあれ、犯人は分かっているんだ。ボクがその気になれば二度とあんなくだらない書き込みを出来ないようにさせることくらい朝飯前だ。それをわざわざ興味もない相手のことを知ろうとしてあげてるだけありがたいと思って欲しいものだよ」


「なにするつもりだよ。絶対にやめろよ……?」


 こいつのやり方だとたぶん問題の解決と同時にもっと大きな問題が発生しそう。治安が悪すぎる。

 同じく危険を感じたのか、それまで俺と安心院の会話を黙って聞いていた冬月先生がいつものふわふわした声と張り付けたような笑みを浮かべて口を開く。


「安心院さん。六道君。先生の『書き込みをした人を突き止める』というお願い、聞いてくれてありがとうございました。ここから先は先生に任せてください」


 労りの言葉。

 しかし、そこには「これ以上は関わるな」という意図が分かりやすく添えられていた。

 まぁ、そりゃそうだ。先生は初めからこの問題の解決そのものを安心院に頼んだわけじゃない。あくまで誰があの書き込みをしたのかを突き止めるところまで、なんなら探ってくれと言われただけだからそれすら別に望まれていないかもしれない。

 どっちにしろ、ここから先は依頼でも何でもないし、面白半分で口を突っ込んでいいようなものでもない。


 ……もっとも、


「え、嫌だけど」


 この自己中心的思想の具現化がそんなこと考慮するわけもないのだけど。


「……安心院さん?」


「なんだい、先生?」


「ここから先は私に任せて欲しいなぁって思ってるんですけど」


「だから、嫌だって。ボク達がやるから先生は引っ込んでてよ。なに、心配はいらないよ? 確実に解決するからさ」


「……うーん、でも」


「先生。ボクは物分かりの悪い人間が嫌いだ。先生はそうじゃないって思ってたんだけど……ボクの勘違いだったかな?」


「…………っ」


 ほんの一瞬、張り付けた笑みにヒビが入るのが見えた。それからよく観察していないと見逃してしまうほどに小さくため息を吐くとそれきり黙りこくってしまった。

 部室の空気が酷く重い。つーか、なんかどさくさに紛れてあいつ「ボク達」とか言ってたよなぁ。俺がっつり巻き込まれてるよなぁ。


「安心院、お前こう言っちゃあれだけどクラスメイトのこととか微塵も興味ないだろ」


「……? うん、ないけど?」


 お願いだから少しはあってくれ。


「……じゃあ、何でわざわざ自分からトラブルに飛び込もうとするんだよ。これって別にお前にとってそこまで面白いことでもないだろ? 何がやりたいんだ?」


 その気になれば、方法を問わなければ、こいつは一瞬でたぶんこの問題を解決する。

 別に安心院をそこまで知ってるつもりはないけど、それでもこいつが簡単に出来てしまうことを楽しいなどと思うタイプの人間じゃないことくらいは分かってるつもりだ。


 この際、こいつのワガママに巻き込まれるのは諦めて受け入れるにしても何がそこまでこいつの琴線を動かしたのかくらいはこれから先のためにも知っておきたい。

 何が嬉しいのか口元を緩ませながら安心院は答える。


「君も少しはボクのことが分かってきたみたいだね。そうだよ。ボク一人だったらこんなのはつまらないことだ。でも、君がいる。君と一緒にやればボク一人でやるのとは手段も結果も何もかも違うだろうね。分かるかな? ボクは君とやりたいんだ」


「…………なるほど、分からん」


「……君ってほんとにアホだよね」


 間抜けを見る顔でため息と言葉をこぼす。

 いや、そんなこと言われても。一人だと出来すぎてつまらんから他の奴を交えて予想外の展開を楽しみたいってのは分かるけど、それにしたって別に俺じゃなくていいと思う。

 そりゃ、俺は超能力者だけどだからといって考え方やら何やらが人と違うわけでもあるまいし。


 ほんとこいつ意味分からん。

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