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両手に花って片方毒花でも成立するんだなって

「……私は、ずっと座ってたからちょっと体動かしたいかなぁ」


 とは委員長の言葉。

 当然のことながら、俺の帰宅という提案は却下。安心院はともかく委員長に「お前だけ帰れば?」とか言われたら正気を保てる気がしないので大人しく引き下がって今に至る。


 ……が、しかし。委員長のそれはどうだろうか。


「きつくないですか? 二人ともヒールだし」


 およそヒールほど運動と相性の悪い靴もまあないだろう。

 そこまで高いヒールではないとはいえ、さすがに提案に乗る気にはなれない。怪我とかしたら大変だし。

 あとはまぁ、スポーツ系はもれなく力のコントロールが日常生活に比べて難しいので避けたいってのもある。


「だ、大丈夫だよ! 靴はレンタルできるし!」


「まぁ、それは……でも、二人ともスカートですし。あんまり動くのはその……危ない、かなと」


「そうだね。どうやらここにも下着に興味津々の変態がいるみたいだし」


「俺見ながら言うのやめろ」


 人の悪口言うためだけに口開くのやめてくれませんかねぇ……。

 つーか、仕方ねぇだろ。こちとら多感な思春期男子高校生だぞ。異性の、それもとびきりの美少女相手に何も感じないとかそんなん無理ゲーすぎるわ。むしろ、邪なこと考えないように必死に律してくれてる理性さんに拍手してやりたいくらいだわ。


「うーん、そっかぁ……。ダメかぁ……」


 あまり肯定的ではない安心院と俺を見て、がっくりと肩を下ろして委員長は言う。

 そういう姿を見せられると罪悪感でうっかり賛成したくなるが、まぁ諸々考えてそういうわけにもいかない。

 ならばせめて代案くらいは出すべきだろうと頭を捻ってはみたものの、残念ながらそんなに都合よく案は浮かんでこない。おいおい、理性さん。お前の実力はそんなもんかぁ?

 役立たずの理性さんを解雇しようかと考えているとおもむろに安心院が呟いた。


「……別に、今日でないといけない理由もないと思うけど」


「……そっか。そうだね。うん、また今度!」


 珍しく薄く頬を染める安心院に一瞬キョトンとしたあとパッと表情を輝かせて答える委員長。

 ……なんか、よく分からないが話は纏まったらしい。


「もちろん、六道君もだよ!」


「っ……うん」


 不意に振られた話に面食らいながらもなんとか答えた。

 ……わからないことがある。


 俺が転校してまだ日が浅いからだろうか。いまいちこの二人の関係性とか距離感がつかみきれない。

 決して、仲が悪いようには見えない。というか、安心院はともかく委員長の性格で人との揉め事なんてまず起きない。部活動とはいえ、委員長の頼みごとをこなすのはこの間が初めてってわけでも無さそうな様子だった。

 今だって、一緒に遊んでる。知り会って間もない俺と遊ぶために委員長が俺と安心院での予定に割り込んでくるなんてそんなことはあり得ない。きっと、安心院と遊びたかったから。そして、安心院もそれを別に嫌がる様子はなかった。

 端的に言って、「友人」と呼べる関係性なのだと思う。


 でも、二人が教室で話しているのを俺は一度も見たことがない。

 いや、厳密にはある。酷く他人行儀で、明確に線引きをしているようなそんな会話なら。


 だから、俺には分からない。この二人の関係は――


「さて、じゃあ帰ろうか。車乗ってくかい?」


「ううん、大丈夫。来たときに切符買っちゃったから」


「俺もいい。お前のとこの車アホみたいに目立つし」


「おや、本当にいいのかい? せっかくの両手に花のチャンスなのに」


「それって片方毒花でも成立すんの?」


「失礼だな。委員長みたいな優しくて真面目な子を捕まえて毒花だなんて」


「お前だよお前」


 委員長を抱き寄せて、信じられないみたいな目でこちらを見て意味の分からないことを抜かす安心院。

 反射的に口をついて出た言葉を受けると、なぜか優しい笑みを浮かべて言った。


「まぁでも、そういうことならきちんと送ってあげるんだよ?」


◇◆◇◆◇


「委員長ってどこの駅ですか?」


「次の駅だよ。私の家凄く駅から近いんだよ」


「そりゃいいっすね。俺は駅から結構歩かないとなんで」


 電車に揺られ映画の話題も一段落して、できた静寂にそう問い掛ける。

 家から近いなら、わざわざそこまで送る必要はなさそう。というか、よく知らん奴に送られるとかそれこそ怖いだろうし。

 返ってきた答えにそんな結論を出していると、次の駅が近いアナウンスが流れる。委員長が、これまでの明るいそれとは違った声で話を切り出したのはそれと同時だった。


「……あのね、六道君」


「……はい」


「六道君は……安心院さんを助けてあげてね」


 目的の駅間近であることを教えるように電車は徐々に減速する。

 言葉の意図がつかめず答えに窮する俺を見て委員長はどこか悲しげに笑みを浮かべる。

 そして、続けた。


「私は……そこには入れてもらえなかったから」

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