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こんな部ですら顧問はたぶんいる

「……そういやさ、この部って顧問の先生とかいんの?」


「……? 急にどうしたの?」


 放課後、先日の委員長からの依頼なんてなかったんじゃないかってくらいに平常運転の部室。

 安心院の持ち込んだ少女漫画を読みながら、不意に切り出した俺に安心院はぱちくりと目を瞬かせ、それから首を傾げてそう返す。

 皿に広げられたクッキーを一枚つまんで俺は再び口を開いた。


「いや、退部届を渡そうかなって」


「へぇ? 学校生活がどうなってもいいの?」


「凄いなお前。なに食って育ったらそんな風になるの? 人の悪意とか?」


 一体、どれだけ脅し慣れていたらここまで自然に脅迫に持ち込めるのだろうか。

 絶対ろくな死に方しねぇわこいつ。

 だってまるで悪びれてないもん。何か悪いことした?みたいな顔でキョトンとしてるもん。

 きっと、心底救えない者を見るような目で見ているであろうはずの俺を歯牙にもかけず、落ち着き払ってカップを傾けると安心院は呆れたように呟く。


「しかし、君も諦めが悪いね。しつこい男は嫌われるよ?」


「マジか。じゃあ是非とも追い出してくれ」


「ははっ、面白い冗談だね。ボクが嫌いな人間を追い出すだけで済ますとでも?」


 クスクスと口元を隠すようにして笑いながら安心院は言う。

 怖ぇよ。笑いながら言っていいことじゃねぇだろそれ。何する気だよ。


「……わぁ、その冗談面白いな」


「冗談みたいな目にあわせてあげようか?」


「具体性が一切ないのに怖すぎるんですけど……」


 俺なにされちゃうの?人としての尊厳ちゃんと保てる?

 綺麗な顔で、あどけない笑顔で、魔王みたいなことを言ってのけるゴスロリ女に心底恐れおののいていると、不意に思い出したように魔王が口を開いた。


「冗談みたいな、で思い出したんだけど」


「どんなタイミングで思い出してんだ。つーか、まだ話は終わってないからな。結局誰に退部届渡せばいいんだよ」


「それこそ冗談みたいな話だろ?」


 冗談はお前の恐怖政治だわ。

 いや、言わないけどね。言ったら何されるか分からないし。なんなら言ってなくても顔にでてたのか凄く良い笑顔でニコニコしてて怖いし。


「それで、話の続きだけど。明日のことは覚えてるよね?」


「んあ? 明日?」


 明日……明日。

 明日は土曜日、休日だ。俺がこの学校に来てから初めての休日。そういう意味ではちょっと特別かもしれないけど、それ以外ではとりたてて何があるわけでもないただの休日。

 なに、まさか土曜も部活あるの?こんな部活かどうかも怪しい部活の癖に?絶対退部したいんだけど。


「……その様子を見るに、完全に忘れてるみたいだね。全く、こんな美少女とのデートの約束を忘れるとかほんと君どういう神経してるの?」


「デート……? ……あぁ、あれか。あの話まだ続いてんの? つーか、約束も何も断ったはずだけど」


「君に断る権利なんてあるとでも思ってるの?」


「逆にないとでも思ってるの?」


「うん」


「すげぇ真っ直ぐな目してんなぁ……」


 なんなら安心院と出会ってから今日までで一番綺麗で真っ直ぐな目まである。

 そこまで深い知り合いなわけでもないから俺がこいつを知らないだけなのかもしれないけれど、それにしたってこの話題でその真っ直ぐな目はおかしいだろ。


 思わず黙りこむ俺をよそに、安心院はなにも言わなくなったのを納得と受け取ったのか、仕切り直すように口を開く。


「それでね、明日の映画のことなんだけど」


「いや、だからな、俺は」


――コンコン。


 規則正しいノックの音が、安心院の言葉を遮る俺の声を遮ったのはその時だった。


「……どうぞ」


 顔を一瞬見合せ、半分立ち上がりかけていた俺が席に座り直したのを返答と見たのか安心院は扉に向かってそう声をかける。

 誰が来たのかはなんとなく察しがついていた。

 こんな部活だ。こんな教室だ。来る人間なんてうっかり迷いこんだ哀れな方向音痴がいないなら、極々限られる。


「こんにちは。昨日は助かったよ。ありがと」


 例えば、委員長とか。

 カラカラと安っぽい音を立てながら扉を開けて、俺たちの姿を確認するとにこりと委員長は微笑みかけた。

 そして、そのまま机の前まで歩いてくるとそんなことを言いながらペコリと頭を下げた。

 昨日とは違って何か困り事があるというわけではなさそうだ。


「委員長ってほんとに真面目だよね」


 激しく同意。

 言っちゃなんだが、ここまでしっかりお礼を言われるほど大したことをしたつもりはない。

 ただちょっと力仕事を手伝っただけだ。

 というか、もう、普段お礼とか言われないからこういうときどういうリアクション取るのが正解なのか分からなくて困るからちょっとそういうのは困る。


「ところで……」


「……なに? まさかと思うけど、また何か丸投げされたのかい?」


 むず痒い気持ちと戦っていると、いつの間にか委員長がチラチラと俺と安心院に視線を送っていた。

 さて、何か。なんとなく、安心院の言うようなそれとは違いそうだけど。

 しばらく何か迷いがあったらしいが、やがて意を決したのか、下から覗き込むように視線を向けると委員長は言った。


「その……二人の話が聞こえてきててね。それで……もしよかったら、私も映画、一緒に行って良いかな?」


「もちろん良いですよ。何時にどこ集合にします?」


「おい、なんかボクの時と反応違わないかい?」

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