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8 後処理

明が目覚めると、そこは見慣れたワンルームマンションだった。

布団の上で目覚めたこともあり、これまでのことは夢だったではないかと思ったが、左手の痛みに気づき、夢ではなかったことを実感した。


「篠田さん、大丈夫ですか?」


隣を向けば、メイが枕元で正座していた。最後にみた、成人女性の姿をしている。

起き上がろうとするがうまくいかない。


「まだ安静にしてください」

「あれからどうなったの?」

「気を失われていたので、家に連れて帰ってきました」

「何か言われなかったの?」

「もちろん、隠蔽工作はしております。私たちのことは気づかれていないと思います」

「結構血が出てたと思うんだけど」

「すべて片付けてきました。大丈夫です」


いやいや、休憩室には監視カメラがあった。あれが残っていれば何があったのかばれるのでは?


「そもそも、あの部屋も奴が作った結界です」

「そうなの?」

「最初の霧に囲まれたとき、私はすぐに敵を倒せると思っていました。想定していた通りの弱さだったからです。」

「あの紐みたいなの?」

「そうです。あの時は、今にも消えそうなほど存在が薄く、最後の力を振り絞ったという様子にみえました」


「ですがそれは罠で、まんまと引っかかってしまいました。

最初襲ってきワームはすぐに斃したのですが、いつまでたっても結界が消えない。別の敵が外から結界を維持していることに気づきました」

「・・・」


改めて聞いて、何が起こっていたのかようやく理解できた。敵は想定以上に元気で、罠を書ける程度に頭もいいということか。


「その後、結果を破ることができました。ですが、これも敵がわざと破らせたのだと思います」

「わざと?」

「はい。事実、合流した時点では敵は私よりも強かった。敵が神具を持っていたのは誤算でした」

「神具・・・」


これです、とメイが隣にあったナイフを手に取ると、そのナイフは形を変えた。

見覚えのある形、明の左手を傷つけたものだ。


「この神具のおかげで、ある程度力を残せたのでしょう。私がワームを消滅させた様子を観察して、脅威にならないと判断し、同時に斃そうと考えたのかもしれません」


一息ついてメイは続けた。


「その油断が敵の命取りになりました。篠田さんの助力によって私は敵よりも強くなり、逆に敵は完全消滅されられた、というわけです」

「そのナイフは?」

「これは神具です。ただの道具で、敵の一部というわけではないので残った、というわけです」


ぼうっとナイフを見ていると、メイは再び謝罪を口にした。


「今回は本当に申し訳ありませんでした。篠田さんにここまでご迷惑をお掛けするとは・・・」

「いや、もう終わったことだし、いいよ。あとは・・・どうやって部屋に戻ってきたの?」

「タクシーを呼びました。お金は、すいません、勝手に使わせてもらいました」


気絶した人を放置するわけにもいかなかったのだろう。タクシーを使うという判断は分かるが、正直なところ無駄な出費は避けたかった。

微妙にネガディブな感情を読み取ったのか、メイは話題を戻した。


「今回も、篠田さんの助力があったので勝てました。ご恩が増えてしまいましたね」


そこで明は気絶直前に何があったのか、改めて思い出した。


「そう、夢と同じことが現実でできたんだよ。でも・・・今はできないみたいだ」

「何か、条件があるのかもしれませんね」

「意識が朦朧としてないと使えない能力とか、いやだなぁ」


メイは少し目を細めた。


「本当に‘意識が朦朧’が条件なのかはさておき、どういうことができるのかは明確になりましたね。篠田さんは自分では魔力を活用するのではなく、他人に力を与えることができるようですね」

「エンチャンター的なものか」

「今回も前回もそうでしたが、かなり高いレベルの能力ですね。対象となった私が本来使えない能力を使えるようになりました。1を1.5にする能力は珍しくはありませんが、0を1にする能力は稀です」


明も男子である。俺つえーには憧れる。

だが実際持っているのは他人の強化専門、他人つえーの能力とは、日本人らしいというか何というか・・・


「あ、でもこれがありますよ。この神具を通じて、能力を使えませんか?」


メイはナイフを見せてきた。明が集中してみると、コマンドが見えてきた。


[コネクトしますか?]

>はい


[神具:霧刃 

拡張スキルスロット;空き×1]


先ほどのメイと比較しても情報量が少ない気がする。しかもスロットへの付与方法も分からない。

ただ、意識がはっきりしている時でもコマンドが見える、というのは進歩かもしれない。

念のため手に取ってみたが、ナイフの表示内容は変わらなかったのでメイに返した。


ちなみに、メイを見てもコマンドは見えない。

生き物を対象にするときは、また別の条件があるのかもしれない。


「これは篠田さんが持っておいた方がいいですね」


メイの手の中でナイフは小さなキーホルダーになった。


「篠田さんは魔法が使えません、ですが、この神具の回路を利用することで魔法への抵抗が増す程度の効果はあるはずです。少しでも身を守れた方がいいかと」


「身を守るような事態がこれからも起こるの!?」


敵は完全消滅したといったではないか。


「今回の敵は完全消滅しました。ですが、敵は思った以上に力を残していました。素の私であれば負けていたかもしれません。あれが全てだったのか、まだ別の何かを隠していたとしても不思議ではありません。用心するに越したことはないです」

「・・・了解」


そういうものか、と考えたところで、明はまた眠くなってきた。

気づかなかったが、窓の外は真っ暗。時計を見ると今は夜中の1時だ。随分長い間眠っていたらしい。


「安心してください、今は私がいます。今日はこのまま休んでください」


メイが胸を張って放つ言葉を聞いて、明は再度眠りに落ちるのであった。

ちなみに、その晩夢は見なかった。

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