7 覚醒
現実世界に戻ってきた明だが、霧に囲まれる直前と違い、ポケットの中にメイはいない。周囲を見回しても姿が見えない。
「すいません」
店員が近づいてきたために通路の端によけようとした明は、その店員に話かけられた。
「・・・私ですか?」
「はい、少しお尋ねしたいことがあるのですが」
「なんでしょうか」
「先ほどの霧はなんだったのでしょうか」
「え・・・」
巻き込まれたのは自分だけかと思っていたが、店員さんも巻き込まれたようだ。
ここは知らないふりをすべき、と考えて明は答えた。
「いや、私も何が起きたのか分からないです」
「念のため、お話聞かせていただけませんか?」
「いえ、友人を待っているので」
「お時間はとらせません。少しだけでいいので」
あまりにも拒否しすぎるのも不自然か、と考えて、明は応じることにした。
「わかりました。私にも何が起きたのかわからないので」
「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
明は店員に案内され、スタッフエリアの休憩室にいた。商品持ってきてしまったのだがいいのだろうか?
パイプ椅子を勧められたので座ったが、店員はその前にある椅子には座らず、部屋の中を歩き始めた。窓や扉に鍵をかけているようだ。
「あの・・・お話ということでしたが・・・」
「あ、そうですね」
店員は明のすぐ近くにやってきた。
「では」
そういうと、右手を明に向って伸ばしてきた。いつの間にか、手にはナイフが握られている。
「え?」
咄嗟に自分の左手を出して体をよじり刃を避けるが、避けきれずに大きな傷ができてしまった。一瞬遅れて傷口から血が流れ出る。
咄嗟に右手で抑えようとするも、不安定な体勢になり動揺して椅子から転げ落ちてしまった。
左手からの出血は続いている。かなりの深手のようで、気が遠くなってきた。
そのとき、休憩室の扉が勢いよく開いた。飛び込んできたのはメイである。
「ちっ」
店員がしたうちしつつ、メイへと襲いかかる。
店員はナイフを剣へと変化させていた。メイは両腕をドラゴンのものに変化させて応戦しているものの劣勢は明らかだった。
「まさか、こんなに力を残していたとは!」
「罠にかかったのはお前たちだ。おとなしく裁きをうけろ!」
その間、明は床で倒れていた。血が抜けて、体が冷えていくのが分かる。
聞こえるのはメイと店員が戦う音。首をそちらに向ける気力もない。
「ぐっ・・」
メイが吹き飛ばされて明の前に倒れた。ぼんやりしてきた視界でメイを捉えたところ、明は見慣れないものを見つけた。夢の中でしかありえない表示だ。
[コネクトしますか?]
はい
いいえ
半ば無意識に’はい’を選択する、
[使い魔:メイ
階位:5
属性:なし
固有スキル:なし
拡張スキルスロット;空き×2]
情報が表示された瞬間メイが震えた。こちらを見る。
「篠田さん!」
言いたいことは分かった。今にも落ちてしまいそうな眠気の中、気力を振り絞り空きスロットにモジュールをセットする。
セットするのは 炎熱 と 自己強化
瞬間、メイの拳から炎が立ちのぼる。
決着は一瞬だった。素早く立ち上がったメイは目にも止まらぬ速さで店員との距離を詰め、炎をまとった拳を腹部に叩きつけた。
くの字に折れ曲がった店員の体が炎に包まれる。数秒後、残った剣だけが床に落ち、鈍い音を立てた。
それを見届けた明は気を失った。
明は気づかなかったが、視界が暗くなる直前、メッセージコマンドが現れ、赤い文字を表示していた。
[緊急切断します]