6 襲撃
メイがやってきた晩、明はまた夢を見た。
夢の中で明は霧に覆われた道路に立っていた。ふと足元を見ると、白い蛇が右足に巻き付こうとしているところだった。
「うわっ」
驚くと同時に、白蛇がはじかれて飛んだ。
飛んだ先は霧が濃く、白蛇がどうなったのかは分からない。
何だ?と思ったところで目が覚めた。
目が覚めると、自分の布団の上だった。
窓際の観葉植物の上にはトカゲが乗っていた。目を閉じてピクリとも動かない。
「夢だけと夢じゃなかった」
昨日の出来事を思い出していると、トカゲが目を開いた。どうやらメイも起きたようだ。
「おはようございます」
「うわっ」
トカゲの状態のまま、日本語をしゃべった。小さなトカゲから発せられたとは思えない、普通の人が会話する程度には大きな声だったので、明は夢の中と同じ声を上げて驚いた。
心臓がどきどきしているのを誤魔化すように明は答えた」。
「おはよう・・・その状態でもしゃべれるの?」
声帯はどうなっているのだろう?
「すいません、驚かせたみたいで。私はいま明さんだけに聞こえるようにしゃべっています。」
「テレパシー?」
「そんな感じです」
昨日コンビニに外出したときは、人の目があるからとまったくしゃべらなかったこともあり、トカゲ形態ではしゃべらないと思い込んでいたが、そうではなかったのか。
「あの・・・昨日の今日で申し訳ありませんが、ひとつお願いがあります」
メイは明の顔を見つつ話を始めた。
明は近くのホームセンターに来ていた。
メイは昨日同様にポケットに隠れている。メイの言葉はテレパシーで明に伝えることができるが、明にはテレパシーは使えない。とすると明はメイに話しかけることになるのだが、傍からみると独り言を話す不審者である。目立たないためにも外では基本的に会話をしないよう言い聞かせていた。
メイのお願いは、観葉植物を労わってあげてほしいというものだった。
これから寝床になる植物である。水を上げるのもおざなりな状況を不憫に思ったのかもしれない。
明としても、せっかく実家から持ってきた植物を無駄に枯らせてしまうのは忍びない。
パソコンを立ち上げて手入れについて検索し、まずはホームセンターに肥料を買いに来た。
目的のものを見つけ、レジへもっていくまえに明はペットコーナーに立ち寄った。実家の飼い猫を思い出しつつ、ディスプレーの中をのぞいて回る。入口の犬猫コーナー、ハムスターコーナー、熱帯魚コーナーを抜けると、先にあるのが爬虫類コーナーである。
エサコーナーを見つつ、食事の準備不要で本当によかった、と明は改めて思った
爬虫類コーナーには白蛇がいた。
そういえば、夢でも白蛇が出てきたよな、と思ったとき、その白蛇と目があった。
次の瞬間、明は立ちくらみのような感覚があった。気が遠くなるような感覚が収まった後、明が気づいたときには、周りは深い霧に覆われていた。
「これも夢か?」
一瞬そう考えたが、即座に却下した。今朝起きてからの記憶が鮮明で矛盾がない。夢というのは多少理不尽なものだ。
胸ポケットにいるメイはなにも反応していない。たまらず明が話しかけようとした瞬間、明の背後、霧の中から紐状の何かが飛んできた。
明と激突する直前、ポケットから飛び出したメイが人型に変化し、こぶしで払いのける。
「早速かかりましたね」
メイは最初にあったときの女児形状ではなく、成人女子の形態をとっていた。
「逃がしません。」
そのまま霧の中に飛び込んでいく。何やら争っているような音が聞こえてくるが、明には何かどうなっているのか分からない。
しばらくその場で立っていると、音がやんだ。一瞬の立ちくらみのような感覚のあと、明は自分がホームセンターのペット売り場にいることに気づいた。
戻ってきたようだ。終わったのだろうか。