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4 社会人の休日(午後)

数分後、明は少女を部屋に入れていた。

コンビニまでちょっとした距離があるので、徒歩で行くのは面倒だし、自分は自転車に不当に鍵をかけられた被害者なのだから、いざとなったら警察に連絡すればよい、と開き直ったのだ。


もちろん、自転車に細工されたことに対する怒りはあるが、思い当たることがないために下手な対処ができず、少女に押し切られたところも否めない。とりあえずスマホをもっていつでも通報できるようにした。


以外だったのが、少女は一人で、おばさんやお兄さんが現れるということはなかった。

最近の勧誘はこんな小さい子が一人で行うのだろうか?多少の同情を感じてしまう明であった。


小さなちゃぶ台を挟んで、明と少女が向かい合う。

ちゃぶ台にはペットボトルから注いだジュースが入ったコップが1つ。

そういえば、客用のコップを使うのは初めてだな、と考えていると、少女が口を開いた。


「まずは、多少非常識な行動をとったことを謝ります。すいません」

「そうですか・・・」


少女の口から何が出てくるか分からないので、とりあえず丁寧語で返事をした

外観に似合わない、しっかりとした言葉を駆けられて、と明は少女に対する認識を少し改めた。最近の勧誘員はここまで仕込まれているのだろうか?

こういう場合にうまい返しができるような気が効く人間ではないので、とりあえず相槌を打った。


「本日は、昨晩のお礼とお願いに来ました」

「昨晩?」


はて、思い当たることがない。昨晩はずっとゲームをしていた。オンライン協力もできるが昨日はずっとオフラインモードだった。


「間違いでは?」

「そんなことはありません、あなた様の助けがなければ、“私”は負けていました。信仰者たちを守れたのは間違いなくあなた様のおかげです。」

「そうですか・・・」


さらっと信仰者とかいう単語が出てきた。やはり宗教関係か・・・だが、本当に思い当たることがない。言いたいことはあるが、うまく言葉にできないのでとりあえずスルーして、もう一点についても聞いてみた。


「お願いというのは?」

「告死天使が消滅直前に何かしたみたいで、その調査に来たのです。そこで再びお力をお借りしたく参りました」

「こくしてんし?」

「昨日私が斃した上位存在による尖兵です」


明はゲームが大好きだが、昨日のゲームは戦国系である。クトゥルー系ではない。ますます意味が分からなくなった。


「最初から話しましょう。君は何者で、どこから来たのですか?」

「申し遅れました、私はクチュールのメイガス。クチュール王国の守護竜です。こことは別の世界から来ました」

「え?」


クチュールという言葉に聞き覚えはなかったが、メイガスという名前には覚えがあった。夢に出た竜のキャラクターネームだった気がする。思わず小声に出てしまった。


「夢で見たあれ・・・?」

「あなた様が力を与えて下さったためにかの敵を倒すことができました」

「マジ・・・?」

「本当です。信じてもらえませんか?」


当然、明は信用できないので確かめることにした。


「いくつか確認させてください。メイガスさんの体の色は何色ですか?」

「黒です。黒竜と呼ばれております。」

「相手の天使の手は何本でした?」

「6本でした。それぞれが力を秘めた武具をもっていました」

「・・・斃した方法は?」

「あなた様に授けていただいた力によって斃すことができました」

「・・・」


なんとなく覚えている夢の内容と一致する。冷静に考えると荒唐無稽な夢である。すべて当てるとは、他人の夢を当てることができる機械でもないと無理だろうが、明はそんなものがあると聞いたことはない。


腐っても理系の院卒である。言い当てることができる確率の低さは分かるが、現代科学で説明できないことを信用するのは抵抗がある。だが徐々に、ある程度信用してもいいのではないか、という方向に気持ちが傾いてきた。


「では、あなたはあの竜だというのですか?」

「その通りです。正確には、化身の一つ。子機のようなものだと考えてください」

「子機ですか」


オウム返しにする。というか、別の世界からやってきたというのが正しいのであれば、会話が成立している時点で聞きたいこともある。


「子機って概念が異世界にもあるんですか?異世界に電話があるんですか?あと、日本語を話してますよね、その知識やその服はどうしたんですか?」

「電話、に相当するものはありますが、一般的ではないですね。この世界、この国に渡るにあたり、あなた様の同族の姿と知識をコピーしました。あと、ある程度は姿を変えられます」


ほらこの通り、とメイガスは左手を前に出した。その手が徐々に巨大に、黒いうろこを生やした爬虫類のようなものに変わる。この状況に至り、明は信用する方向に舵をきった。

現実で、SFXのような変化を見せられては、納得するしかない。


「最初からこうしていればよかったかもしれませんね」

「・・・」


混乱してしばらく思考停止に陥ったが、明は異世界転生ものが好きで、考察好きなオタクである。ほどなく再起動し、現状について少しずつ受け入れ始めた。

自分に危害が及ばないのであれば、面白いではないか。

その間メイガスは沈黙し、明の反応を探っているようだった。


徐々に明のテンションが上がってきた。これは少年漫画などにある、能力に目覚めるってことではないか?

メイガスが再び口を開いた。


「危害を与えるつもりがないことを示すために、この姿をとりました。あなた様にとっては誤差のようなものでしょうが。」


改めて目の前のメイガスと名乗った少女を観察する。どう見ても日本人女児である。

面倒なことに巻き込まれそうな予感はあるが、それを好奇心が上回っていくのを感じる。


明は、自分に特別な能力があると認識したことはない。これまでも一市民として生活してきたが、メイガスの言う通り何か特別な力があれば、これからの生活が面白くなるかもしれない。でも痛いのは嫌だ。


ぐるぐると思考が空回りているのを察したのだろうか、メイガスは話を進めた。


「お名前を聞いてもいいでしょうか?」

「篠田明です」

「シノダアキラさまですね」

「篠田さん、でいいですよ」

「承知しました。私のことはメイガスとお呼びください」

「・・・それなんですが、その容姿でメイガスというのはちょっと違和感あるので・・・メイさん、とかでもいいですか?」

「かまいません。なんとでもお呼びください」

「ところで、調査に来たということですが、」


そこまで言ったところで、明のお腹が鳴った。そこで明は昼食を調達しようとしていたことを思い出した。


「申し訳ありません。お食事の時間でしたか」

「あ、そうなんです。すいません」


思わず謝ってしまった。


「私は待機していますので、どうぞお食事を済ませてください」


そう言われたものの、明は困ってしまった。

コンビニへ行くのにメイをこの部屋に残しておくようなことはできない。そこまで信頼はしていないのだ。

少し考えて、明は一緒に外出することにした。


「一緒に外に食べに行きましょう」

「私に食事は不要です」

「では、一緒に歩きながらでも話をしませんか」

「・・・分かりました」


メイは立ち上がったが、着物姿のメイはコンビニでは目立つ。そういえば姿が変えられると言っていたな、と明は注文を出した。


「メイさん、目立たないような姿に変更できますが?」

「目立たない、ですが。具体的な要望を聞かせてもらいたいです」

「例えば・・・服を変えるとか、私と同年代の姿になるとか、小さいトカゲとかになって、私のポケットに入るとか出来ますか?」

「可能です」


そういうと、メイは5センチ程度の小さく黒いトカゲになった。

冗談交じりで言ってみたのの、本当にトカゲに変化されて驚いてしまう。だが、これは現実なのだ。


気を取り直して財布とスマホを持った明はトカゲに手を差し伸べる。

手に飛び乗ったメイガスを胸ポケットに近づけると、シュルシュルとポケットに入り込み,顔だけを外に出した。

ちょっとかわいい。


そんなこんなで一人と一匹は部屋を出た。


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