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乙女と戦車編7 茨城県大洗町 大洗磯前神社

ランが淡く光を発した瞬間、以前結界に取り込まれたときのような違和感を覚える。


まわりの景色は変わっていないが、事前の打ち合わせ通りであれば、これで結界が張られたはず。

ランとメイを見ると、各々の状態を確認できる。


[使い魔:メイ 

階位:5

属性:なし

固有スキル:なし

拡張スキルスロット;炎熱 自己強化]


[使い魔:ラン

階位:7

属性:光

固有スキル:仮想現実

拡張スキルスロット;空き×1]


その隣、視界には新しいウィンドウも見える。


[追加モジュールリスト:検索条件を設定してください]



「成功です」


メイが端的に明に状況を報告する。



――回想――金曜の夜・明の部屋



「ランの持つスキル‘仮想現実’。一定範囲の空間を書き換える能力です」

「この間の結界とは違うの?」

「少し違います。結界は発動した瞬間にその結界の特性が決まります。先日の結界は反転した展示室を再現して閉じ込めることに特化していましたよね。言い換えるとあの結界はそれだけしかできない」

「機能が限定されるってこと?」

「そうです。発動時の設定に縛られるんです。空間そのものに作用する術式は消費魔力量の多さゆえ、機能を限定して発動することによって消費を抑えるという側面もあります。一方で、ランのスキルはそういう縛りが存在しない。一度展開した空間内で機能を追加付与できる」

「結界の上位互換の能力ってことか」

「機能面では万能結果とでもいうべきスキルです。ただ、欠点もある」

「欠点・・・」


なんとなく予想はつく。


「一つは、魔力消費量。先ほど言った通り、空間そのものを操るために必要とする魔力が極めて多くなります」

「でもそれは・・・問題にならない」

「はい。ランは明さんの使い魔です。明さんから魔力を供給することで燃費の悪さはある程度無視できます」


「もう一つが、機能追加する場合、対応した想いが必要だということです。一般的な結界を発動する際は、発動したい機能に対応した術式を術者が作成します。ですが、ランの場合は観測した‘想い’を基に機能を再現する。ラン自身の意思を反映した術式を作ることができない」

「‘想い’・・・聖地にたまったエネルギーか」

「先日の犬吠埼では、‘打ち上げ花火’に対する想いを基に‘望まない現実に対して過去からやり直す’という空間が展開されました。結界のコアが壊される、という現実に対して、壊されていない過去からやり直していたんです。今のランはこの‘過去の特定時間からやり直す’という空間は展開できます。ですが、たとえば、敵を有無を言わさず消滅させるような空間は作れない。そういう‘想い’を観測していませんから」


メイは続ける。


「‘乙女と戦車’の聖地を巡るのは、ランの能力を増やすためでもあります。私たちの推測が正しければ、大洗の聖地を巡ることによってランが取得するであろう能力、それは、相手の妨害を跳ね返す力にもなるはず」

「なるほど」

「あ、でもこの話を進めるにはベースとなる部分がありまして・・・」



――回想おわり――


「明さん、私たちの状態がみえますよね」

「ああ」

「私たちも、明さんとパスがつながっていることが分かります」

「・・・(上下に動いている)」


ベースになる部分というのが、ランの展開する空間内では‘明が自身の能力を使える’ということだ。


明が自身の能力を自覚・使役したのは、夢の中と、気絶する直前のみ。普段、ランや神具の状態確認はできるが、メイの状態確認や能力付与方法は分からない。

敵と対峙するにあたり、明たちが取る策の幅を広げるため‘自分のマスターが実は有能’という想いを基にランが‘明が自身の能力を使える’という条件の空間を展開する。


この空間展開は金曜日の夜、一度成功している。

ランと利害が一致する身内の想いをランが利用することができれば、結局ランが好き勝手に何でも実現できるのと同じになってしまうが、現実はそんなことはできなかった。色々試したところ、ランの空間に実装できた機能のうち最も応用が利きそうなメイの想いがこれだった。


「想定通りですね」


石段の下から重厚なエンジン音が聞こえてきた。

覗き込むと、いつの間にか現れた戦車が砲塔をこちらに向けている。あれはⅣ号戦車・・・?

石段の下まで来ると、そのまま登り始めた。


「ここを登って来るんですか・・・」


メイがつぶやく。


「ま、いいでしょう。では作戦通りいけますか?」

「ああ、できそうだ」


メイの質問に、明は追加モジュール検索ウィンドウを見ながら答える。


「では、私は逃げます」


明がランに目をやると、ランが再び淡い光を放つ。次の瞬間、明たちの前にも戦車が現れる。


「センチュリオン・・・」

「明さんはランと隠れていてください」


そういうと、メイが戦車に乗り込む。戦車が動き出し、石段から離れて大鳥居に向けて車道を下っていく。本来戦車を動かして戦闘するには複数人必要だが、この空間内ではそんな理屈は通じない。メイ一人で、全て思い通りに動く。


一方、明はランの追加スキルと持っている神具の拡張スキルを設定する。

どちらも設定するのは‘隠密’。


明が物陰に隠れてしばし、Ⅳ号が石段を登りきった。そのままセンチュリオンを追っていく。

Ⅳ号のキューポラには赤目で白い肌の人影が見える。あれが敵だろう。


「たのむぞ、メイ」


この段階になるとランと明は助力できない。

メイの無事を願う二人であった。


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