乙女と戦車編3 茨城県大子町 旧上岡小学校2
小学校の入口で靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。
靴の数だけ見ると中には結構な人数の見学客がいるようだが、分散しているのか、見た感じ混雑してはいなかった。
入口上がってすぐの机や掲示板には、この小学校に関するパンフレットや、大子町についての多くの紹介チラシが置いてある。
入口を校舎内から見たカットも劇中には存在する。早速写真を撮る。
「こんにちはー」
事務員のおばちゃんに挨拶をして、最初は入口からそのまままっすぐ奥、渡り廊下が伸びている方へ向かう。劇中で、預けていた戦車が大洗に戻ってきたときに、生徒たちが一斉に駆け下りていた場所だ。講堂と音楽室が校舎よりも一段高いところに建っているために渡り廊下が階段状になっているのだが、こういった気づきも聖地巡礼ならではのものだ。
突きあたりをまずは左側、扉をくぐり講堂へ。
「ここで、会長が大学生選抜との試合について、話をしたんですね」
「劇場版で話が大きく進んだシーンだよ」
「何人も泣いてましたもんね」
改めて劇中のシーンと比較すると、この講堂の大きさは正確だったことがわかる。
「体育館、じゃなくなくて、講堂、って感じかな・・・」
「バスケットコート半面分くらいですからね」
「随分昔に建てられた小学校だし、当時ここに通ってたら人数とか考えると、この大きさでも大丈夫だったのかもね」
講堂を出て向かい側にあるのが音楽室。
「肖像画がいっぱいありますね」
「小学校の音楽室にはなぜかいっぱいあるんだよな。あれ、楽器メーカ―が配り始めたのが全国メジャーになったものらしいよ」
「へー」
ピアノが置いてあり演奏することもできそうだったが、明にもメイにも音楽の心得がないので弾くことができない。何枚か写真を撮って次へ向かう。
渡り廊下を戻り入口まで戻ってきた。右に曲がると校長室、職員室、放送室。生徒会や風紀委員のシーンで印象深い。意味深なお面もそのままだ。
「放送室は狭いなー。ここで女子高生3人が寝るのは不可能だろ」
「そうですね」
メイは写真を撮っている。放送室の中には入れないよう、封鎖がされていた。
「トカゲモードで侵入して、一瞬だけ人モードになって写真を撮れば・・・」
「それはダメだからね!」
「・・・やだな、冗談ですよ」
周りに人がいなければやってしまいそうな雰囲気だった。
監視カメラがどこにあるか分からないのに、そういうことはやめてほしい。
廊下に出て、今度は入口を挟んで逆方向に歩けば教室が並んでいる。
数部屋しかなく、中に置いてある机や椅子も少ない。
そういえば、教室のシーンはあまり印象にないな、と明は思った。
教室を抜けた突き当りにあるのが日渡食堂。
普段ならここで食事がとれるのだが、この日はなぜがやっていなかった。
「残念です・・・」
「仕方ないな。途中にあった道の駅で何か買って食べよう。お腹も減ってきたし」
「まあ、私はお腹へらないんですけどね」
「・・・そうだった」
慰めたつもりだったが、そこまで悲しんでもいないようで安心した。
一通り見学した後、入口にあるパンフを取って車に戻り、3人で成果を確認する。
「大丈夫だった?」
「想いは確認できました。奴もいません。大洗でもこんな風に平和に聖地巡礼できればいいのですが」
「大洗では荒れる?」
「現時点では何とも・・・やっばり大洗に行ってからでないとわかりませんね」
「・・・(上下に動いている)」
「了解」
メイとランは何か作業をしているようだが、明としては手伝うことができない。おとなしく運転手としての役割を果たす。
「じゃ、次は大洗に向かうよ。途中、大子の道の駅で軽食買うから」
先ほど手に入れたパンフをひらひらさせる。パンフには割引券がついているのだ。
「了解です」
メイが答えたが、すぐにタブレットに目を落とし、真剣な目で見つめている。
タブレットを横目で見ると、大子の道の駅のページを開いていた。
「って写真整理してたんじゃないの?」
「それは後でやります。今はマスターのために美味しいものがないか探す時間です」
「え・・・ありがとう」
ちょっとうれしい。
「あ、でも買うものは決めてるんだ」
「そうなんですか?」
「大子ではおやきを買うことにしてる。おやき学校っていう、自分でおやきを作って食べることができる施設もあるんだよ」
「おやき・・・これですか。饅頭っぽいですね」
「そう」
明は大子に何回か来たことがある。冬の温泉、そして
「この近くには、袋田の滝っていう有名な観光スポットがあってね」
「はい」
「日本3名瀑の一つで3段からなる雄大さが売り。一番‘映える’のは冬に全凍結したときかな。アイスクライミングしてるポスターとかもでてくるよ」
メイがタブレットを操作して検索する。
「人の大きさと比較するとわかりますけど、結構な大きさですね」
「だろう。最近は気温が温かくで全凍結しない年とかもあったりするけどね。大子には他にもおいしい食べ物、温泉とかいいところあるから、また今度来よう」
「そうですね」
「・・・(上下に動いている)」
3人で再訪を約束しつつ、大洗へと向けて車は走る。




