打ち上げ花火編2 千葉県銚子市
車を発進させてから40分が経過したころ、第2の目的地に到着した。
「ここが、キービジュアルの基になった場所‘君ヶ浜’だ」
「おぉー!」。
「ポスターにもなっているから分かりやすいよね。印象にも残る景色だよ」
「ここで二人が振り返っているんですねー」
とメイはポスターと同じ態勢になり、タブレットを渡してくる。
明は受け取り、写真を撮るのであった。
1kmほどの砂浜が続いており、海が太陽の日差しを受けて輝いている。
「はいはい・・・」
「それはそうと、ここには風車がないですね」
「まあ、それは色々と都合があるんだろうな。いわゆる画面映えを優先して風車を追加したのかも。それに、ここから見ると灯台はこんなに大きくは見えない」
「たしかに・・・」
二人してタブレットを覗き込む。
「あと、違いは分かる?」
「うーん、あとは特に。今は昼だけど、この絵だと夕方とか」
「そこはまあ、置いとこうか」
「んー、花火が上がっているっているのも時間の問題だし・・・」
「実は、それが正解」
「え、どういうこと?」
「この角度から見ても花火は見えないんだ。題材になった花火大会はあるんだけど、角度的にはこっちの方に上がる」
明が方向を示す。
「劇中のものに対応する花火大会は旭市の花火大会なんだ。でも丘があるせいで、この場所から見るのは難しい。」
「旭市?」
「銚子の隣にある市。厳密には元々飯岡町だけど、合併で旭市になったんだ。あと、実は銚子市にも花火大会がある」
「そうなの?」
「そう。利根川の河口に打ち上げ船を浮かべて、そこから打ち上げる花火大会。さっき茨城から千葉に入るときに銚子大橋通ったでしょ」
あっち、と明はその方向に向き直る。
「あのおっきい橋」
「利根川の最下流の橋だよ。あの付近、花火大会当日は人でごった返すんだ。でも、その花火が上がる方向も灯台とは別方向で、いずれにせよこんな風には見えない」
「へぇー、なるほどー」
メイが奥に見える灯台に向けて指をさす。
「あの灯台が、みんなが花火を見るために登った灯台のネタなんだよね?」
「そうなんだけど・・・実は灯台はもう一つあって、地理的にはそちらの灯台が該当する。でもこのキービジュアルだと明確にあの犬吠埼灯台が該当する。該当するのが二つあって、あれはそのうちの一つ、という認識でいいんじゃないかな?ちなみに、あそこは初日の出が日本で一番早く見られる場所だよ。」
「じゃ、行こうよ!」
「まぁ待ちなさい、あれはメインディッシュだ。最後に行く予定。」
そろそろお昼。明は腹がすいてきた。
近くに銚子港の水産市場がある。そこでご飯を食べることにした。
車で数分、すぐに到着だ。
「ここが‘うおっせ21’。地元の魚を売っている場所だ」
「おいしそうだねー」
銚子港は水揚げ量が日本一。どうせなら新鮮な魚を食べたい。
うおっせ21は港近くの水産物売り場だ。築地をローカライズしたものだと思ってもらえればよい。スケールは築地よりも随分劣るが。
食事処が複数ある中で、明がチョイスしたのは海鮮レストランだった。水産市場の中にもローカルな食事処はあるが、一人で入る勇気がなかったためだ。
メイはトカゲモードでカバンの中、待機中である。
(魚売り場の店先にいるおばちゃんたちはみんないい人そうだけど、人見知りにはハードル高いよー。レストランに行っても対応してくれるのは地元のおばちゃんだから、変わりはないはずなんだけどな・・・)
そんなことを思いながらレストランへと向かう。端の方の席に陣取った。
レストランのメニューにはやはり海鮮系がずらりと並んでいる。刺身、てんぷら、海鮮丼。
明はどんぶりカテゴリーの海鮮丼をチョイス。何となくここに来るとこれを食べてしまう。
「ちょっとでいいのでもらえませんか?」
「仕方ないな・・・」
エビ、タコ、マグロをひとかけずつメイへと渡す。
ひとつずつ口に咥えては、ゆっくりと飲み込んでいる。
おいしさを楽しむとか、お腹を満たすとかじゃなく、情報を探っているような食べ方だなあ、と明は思った。
「さて、腹ごしらえもしたし、次の場所へ移動しましょう」
「なんだけど、ちょっと観光しようか」
うおっせには銚子タワーが併設している。高さはそれほどでもないタワーだが、銚子の港、太平洋、利根川の河口など周囲を見渡せる銚子のランドマークである。
入場料を支払い、エレベータに乗る。エレベータを降りるとそこは展望台、天候もよく、海のかなたを何隻もの大型船が航行しているのが見える。
「なるほど、マスターは高いところが好き、と」
「いや、そういうわけじゃないからね」
展望室には明たち以外の人影はなかったので、メイのテレパシーに対して小声で答える。
「すごいですね。あんなに大きな船で、何百、何千という魚を一度に捕れる」
「そっちの世界では違うの?」
「実は、向こうの世界の知識はあまりなくて。とくに、生活関連の知識は不要ということで与えられてないんですよ。一般的に、船はあんなに大きくはない、という程度の知識です。」
そのあたり詳しく聞いてみたかったんだけどな、と思いつつメイを見る。
トカゲではあるが、何となく寂しそうに見える。
そんな空気を振り払うように、メイが続ける。
「他に聞きたいことはありますか?今は明さんのサーバントですからね!プライベートなことでなければ答えますよ!ご奉仕しますよー」
「現状、奉仕しているのは俺だと思うけどね。。。」
続けて口を開こうとしたときに展望室に人が入ってきたためにそこで会話が途切れ、二人は駐車場まで戻ってきた。
車に乗り込むと、メイが人間形態へと変化する。
「次の場所、よろしくですー」
「はいはい。次は物語で多く出てきた、電車を見に行くよ。その名も銚子鉄道。」
「いぇーい」
明は車を発進させた。
 




