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やばい、殴られる!と思ってぎゅっと目をつむっていたが、なかなか衝撃がこない。が、怖いから目も開けられない。バコンドコンと音がして、そして静かになった。
「怜!大丈夫か?」
そう言われて目を開けると目の前にはセドがいた。後ろを見ると、男たちが床に転がっている。
「セ、セド…」
情けない声が出る。逃げると意気込んだはいいけどやっぱり怖かったんだ、と改めて思う。
「無事でよかった。遅くなってすまない」
「い、痛いよセド」
最愛の恋人かのようにしみじみと言いながらひしいっと抱きしめてくるから安心した反面恥ずかしいやらなんやらでセドを軽く叩いて抗議した。
「あ…すまない。怪我とかしてないか?今縄を解くからな。あ、肩擦りむいてるじゃないか!あいつら…!」
「い、いや違うんだ。これは縛られてるからこの部屋に移動する時にちょっと擦っちゃっただけだよ」
「やっぱりあいつらのせいじゃないか!あとできっちり落とし前つけてくるからな」
セドが何したか見てないけどまあまあにグロい殴り跡が残ってる男たちがちょっとかわいそうで、かばったつもりだったけどセドは許せないらしい。こんなに怒ってるセドは初めて見た。こんなに必死になって俺のこと助けに来てくれるなんて…
気づいたらつーっと涙が頬を流れていた。
「…!こ、怖かったよな。早く来れなくてすまなかった」
背中をさすってくれる手が優しくて。暖かくて。セドの腕の中はとてつもなく居心地が良かった。
「違うんだ。ただセドが来てくれたのが嬉しくて…いつも…前の世界では俺は春を守ってばっかりで…誰かに守ってもらえることなんてないと思ってた」
みんな春を好きになって、近くにいる俺を煙たがった。俺がもうちょっとコミュ力あれば仲良くできたんだろうけど、かわいい春君の隣になんであんたみたいな無愛想なやつがいるの!って感じだった。それでも俺は春のことが好きだから一緒にいたし、過激になった春のことを好きな奴から春と自分を守っていた。そのことをつらいと思ったことはなかった。でも…こうして暖かさに触れると…
「そうか…今までよく頑張ったな」
そうして俺が安心するまでセドはずっと俺を抱きしめ、背中をさすってくれていた。
「というか君は何でこっちの部屋に来たんだ?」
「そうだ!あいつら春と俺を間違えてたらしいんだよ…俺が逃げて早く春に狙われてることを伝えなきゃと思って」
「あの子ならアランがついてるから大丈夫だ。頼むからそんな無茶をしないでくれ。君がいなくなったと聞いて心臓が止まるかと思ったよ」
「そんな大げさな…ほんと俺なんか助けてくれてありがとうございます」
「俺なんかなんて言わないでくれ。君は大事な人なんだ」
「ありがとう、ございます…」
セドはいい人だ。君は(アランの想い人の親友で貴重な魔法を使えるかもしれない異世界人だから)大事な人なんだってことだろう。主君の大事な人の大事な人を守ろうとしたんだ…。だとしてもやっぱり嬉しいな…
「さぁ、帰ろう」
「はい」
のびてた男の人達はセドの後から来た兵達に連れて行かれた。
城に戻るとギャン泣きしてる春が出迎えてくれた。こんなに心配してくれる人がいるなんて幸せだなぁと思いながらふっと意識が遠のいていった。