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「まさかお前がここまでやるとはな。アルシュタルに行かせる奴を間違えたかもしれない」
「そのようですね。それにお父様は少し行動がすぎましたね」
「はっ、大口を叩きおって!わしが築いてきたものに物申すと言うのか!民を虐げて何が悪い!わしが王なのだ!王に全て捧げるのが人民の務めというものよ」
そう言って笑う王が心底意地の悪い顔に見えてきた。最悪の王だ。こんなやつが王だなんて!
「ん?お前は…本物の第二王子か?」
セドの無言を正解だと捉えた王は春を見てにやにや笑った。
「そなたがアランの愛人か。それなりに良い見目をしているではないか。これが終わったらわしの後宮に入れてやろう。」
満足そうに頷く王様に春の顔が引きつる。アランの父親のはずなのに似ても似つかない性格の悪さだ。がっと王に向かおうとした春をアランが止める。
「どうして!」
「お父様も能力を持っている。間合いに入ると切られる。むかつくのは分かるが慎重にいかないと」
「そんな!」
「そいつの言う通りだ。わしとて可愛い子の顔を傷つけたくはない。大人しくしてくれ」
悔しそうにする春をこれまた怒りをあらわにしているアランが嗜める。
「それと…そなたも麗しい…それに何か」
「おしゃべりをしにきたのではないでしょう」
俺に何か…何となく分かるけど…言いかけた王様を遮ってフィリップが声をかける。
「話だけで済むのならこちらは荒ごとにはしたくありません」
「既に街を荒らしといて何を言う。わしは考えを変える気はない。それにお前ではわしを倒せない」
「っ…」
「どういうこと?」
「基本的に能力は父から子に受け継がれていくにつれて弱まっていく。まれに先祖返りのように始祖と同じくらいの能力を持つ者が生まれることもあるからこうやって続いている。」
「そんな…!」
じゃあ父親である王様と兄であるフィリップにはアランの能力じゃ敵わないってこと…!?
「ぐっ」「うわっ」
「セド!アラン!!」
王様は的確にアランとセドに向けて攻撃をしてきた。2人とも上手く受け身をとり反撃していたがかなり押されている。ただただ無能な王様ではなかったらしい。俺も春も攻撃系の魔法を使えないため、攻撃に加われないのが悔しい。
「ふっ」「はぁっ!」
壁際で様子を見守っているとフィリップの声がなぜか聞こえてきた。また風の魔法使ってるなあいつ。
「怜がどうしてもって言うなら助けてあげてもいいよ」
はっとして横を見ると涼しげな顔でこちらを見て、にっと笑うフィリップがいた。むかついたから無視してやったけど。
「僕、2人の回復する!」
「うん!俺は2人に王様の攻撃がくる方向とか伝える!」
2人がダメージを受けたら春が治し、王様の攻撃がわかるようになったことで2人は王様の間合いに入ることができるようになっていた。
「くそっ、邪魔をしおって!」
「あっ!」
王様は俺と春に向かって攻撃を仕掛けてきた。
「春!」
咄嗟に春を庇って痛みがくるのを待っていたがいつまで待ってもこない。そろりと目を開けてみるとフィリップが立っていた。
「何をやっている!!」
「いくら貴方でも怜を傷つけることは許さない」
「フィリップ!?」




