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端的に言うと俺は親友に巻き込まれて異世界転移した。
俺の親友、乃木春はふわふわした黒髪でぱっちりした目の可愛い系男子だ。よく女子からは乃木くんかわいい〜!って言われてよく女子会に参加してるし、男からは狙われることもままあり、何回か俺が守ってやらなきゃいけなくなることもあった。
可愛くて親しみやすい春だが、実際の中身はいわゆるフダンシってやつで、帰り道はいつも「今日の佐々木と上田見た⁉︎まじでツンデレ委員長受け最高!(*´艸`*)」とか「転校生来て王道展開も良きだよな〜」だとか俺にはよく分からないことをにまにましながら語る春は見てるだけなら可愛いのに中身は残念だ。ただ腐男子であることは「みんなにはぜーーーったいないしょ!だって僕がそうだって知ったらいちゃいちゃしてくれなくなるかもしれないでしょ!」という訳で秘密にしたいらしく、普段は本当にただただ素直で可愛いので余計モテる。
その反面俺、浅沼怜はよく無表情で何を考えているかよく分からないと言われ、春以外に親しくしている人はそんなにいない。普通の男子高校生なんだけどな〜。俺が近くにいると春に変なやつが寄ってこないから(この場合春が変なやつなのは置いといて)別に春さえいればいいと思ってる。
「じゃじゃーん!みてよ怜、千代先生の新作!受けの幼児化まじ最高!ぷっくりほっぺ触りたーい!!」
その日の春は大尊敬しているらしい千代先生の新作でテンションがすごく高かった。
「はいはい、よかったな」
「もう怜ってばちゃんと聞いてよね!」
ぷくっとほっぺを膨らませた春のほっぺのほうがぷにぷにしてそうだなと思いながら適当に相槌を打っていると、春はぐへぐへと変な笑いを浮かべながら続きを語り始めた。
もはや日常と化している春の腐った話を聞きながら歩いていると急に隣にいた春が走り始め、春の行き先を見ると猫がトラックに轢かれそうになっていた。
「猫ちゃん!!」
と春が猫に飛びつく寸前、猫はするりと抜け出し道路の向こう側に渡って行った。
「春!!!」
俺は咄嗟に春を庇うように道路に飛び出した。
ブレーキの音、悲鳴、そんな音がだんだん遠ざかっていった。
「春…春⁉︎」
目を覚ますと周りが一面野原で、隣に春が横たわっていた。
「春!大丈夫か春!」
「んぅ……怜…?」
「そうだよ!よかった…」
「ここって…僕たち死んじゃったの?」
「そうかもな、なんもない」
「ごめん、僕のせいで怜まで巻き込んじゃって…」
「春に振り回されるのは慣れてるよ」
「怜…ふぇ、ごめんね…ぐすっ…」
春はポロポロと涙を零しながらボロ泣きし、なかなか泣き止まない。やっぱり俺を巻き込んだことで相当責任を感じてるらしい。
「もう泣くなって、俺気にしてないよ」
「ゔん、ありがとう、怜」
ぐずぐずになりながらようやく春が泣き止みそうなとき、遠くから馬の足音が聞こえてきた。
「れ、怜、人がいるよ」
「貴様ら何者だ」
近づいてきたのは3人組の男で、騎士のような格好をしていた。話しかけてきたのは真ん中の男で、金髪蒼眼で細い線の美しい男、両隣にいるのも銀髪紅眼の細マッチョと長い白髪を持つ厳しそうな男。とりあえず全員超絶イケメンだ。
「こ、これはまさか…」
わなわなと震える春は怖がっているようだ。おれが春を守らなければ…!
「あ、あの、俺たちどこから来たのかよく分からないんです。それにここはどこなんですか?」
春を庇うようにしながら真ん中の奴に聞いてみる。
「なんだと?ここはアルシュタルだが…ふざけているのか?」
イケメンの怒った顔怖いいぃぃ。
「ち、ちがうんです!ほんとに何がなんだか分からなくて、死んだと思ったらいつの間にかここにいたんです。」
「そういえば、以前異世界人が空からふってきたという書を読んだことがあります。」
おお!なんかそれっぽいこと言ってる!白髪さんありがとう!!
「異世界人?それは誠か?」
「ええ、いくつか文献があったかと」
なるほど…となにやらお考え中の様子。
「よし、ではそなたら、
「異世界転移王道展開キタコレ!!」
「は、春!?」
金髪イケメンの言葉を遮り、おれの後ろでわなわなしてた春が急に大声で叫び出した。
「怜!僕たちきっと異世界に来たんだよ!!BL!BLの匂いがする!!」
突然春がよくわからないことを話し出した。後に分かったが、わなわなしてたのは興奮からだったらしい。
「ん?お前…」
金髪イケメンが馬を降り、春の顔をむぎゅっとつかんだ。
「はにふんだよ!はにゃせ!」
春は掴まれてもごもごしながら抵抗しているようだが全く意味を為してない。
「ふっ、気にいった。こいつを連れて帰る」
「承知いたしました。」
「なに勝手に決めてんだよ!離せよ!」
「お前たち、この国のことなにも知らないのだろう?こんな所で何も知らない子供がいたら盗賊や怪物の格好の餌食になるだろうな」
た、たしかに俺も春もなにも分からないのだからこの人たちについて行ったほうがいいのかもしれない。
「怜、この人達について行ってみようよ。」
春は真面目そうな顔で言ってるが俺には分かる。あいつ、楽しんでやがる…!きっと脳内ではこのイケメンたちがいちゃいちゃしてる所を妄想してるんだろう。
「そうだな、ここにいてもなにも分からないし」
「よし、決まりだな。俺はアルシュタルの第二王子アランだ。」
「宰相補佐のルカです。」
「近衛隊長のセドだ。」
お、王子に宰相補佐、近衛隊長って、この人達めちゃくちゃ偉い人じゃね?
「お、王道すぎるパタッ」
さすが春、歪みない。