将軍アモネちゃんの保護者日記
マオちゃんの親友、アモネちゃんの話です。
ノリで書きました。
マオちゃんが愛憎超特急ならアモネちゃんは愛情鈍行列車です。
私の名前はアネモネ。皆さんからはアモネという愛称で呼ばれてます。父が好きなアネモネという花にちなんで名付けられたそうです。
そんな私は親友で魔王のマオちゃんが治めるアルモデス国の将軍を務めてます。本来ならばアルモデス国軍の指揮とか色々しなければならないんですけど、困ったことにマオちゃんはマオちゃんを倒そうとしている妙な人間、アザミスグルなる人物に熱を上げ、単なるストーカーと化してしまったのです。それも私を巻き込んで……。
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いつものように勇者観察に付き合わされていると、迂闊にもマオちゃんがパクった勇者の私物を私がこっそり返していたことがバレてしまい、理不尽極まりない魔法をくらってしまいました。
本当に理不尽過ぎます。
正直な話、段々とマオちゃんには付き合いきれなくなってきました。
なんだってマオちゃんはあんなに破天荒なのか……血は争えないんですね。思い出すのはマオちゃんの母親であるマリア様。地上最強を誇る天衣無縫の滅茶苦茶女。そして私はそれに振り回される苦労性のアグムの娘。
はあ……。
深い溜め息を吐きながら、隣のベッドで幸せそうに眠るマオちゃんを見る。
「でも、なんか憎めないんだよなぁ……」
憎めないけど、ストレスは溜まるんですよ……。
マオちゃんも勇者も寝るのが早いのは本当に、本当に幸いでした。お陰でのんびりとお酒を飲むことができるんですから。
そんなわけで、私は宿屋の一階にある酒場へと向かう。
一人なので座るのはカウンター席。
「バーテンさん、コドックト酒をジョッキでもらえますか?」
私が言うと、後ろから声。
「お嬢ちゃんスゲェな。おっちゃん、俺にも彼女と同じのくれないか」
「あなたは……」
振り向くと、そこにいたのは無精髭がとても似合う勇者一行の戦士、アイガード・タルギス。勇者一行の中の最年長であり、私の父やマリア様と戦い、互角の勝負を繰り広げたという伝説級の人物で、勇者一行の中では保護者兼勇者の師匠です。
そのアイガードさんは私の隣に座り、私に話かけてきました。
「お嬢ちゃんは、旅人かい?」
「……たぶん」
アイガードさん……。私が彼と初めて会ったのは今から十五年以上前。当時、彼はまだ十五、六才くらいだったから今は三十歳くらいになるんですね。
「たぶんってなんだよ」
苦笑するアイガード。その妙に愛嬌のある瞳やコロコロと変化する表情に私の顔も思わず緩む。
あの時と変わってない。
「そういうあなたはどうなんです?」
彼はコカトリスの砂肝を頼みながら、勇者一行について話してくれた。
勇者、アザミスグルは鈍感極まりなくて、困った奴だとか、魔術師のアイーシャは勇者に対する態度が煮え切らなくて焦れったいとか、格闘家のターテムは妙にハイスペックで変な奴だとか、なかなかに勇者一行は愉快な連中のようだった。
勇者一行について言い終えると、彼は、アイガードさんは、しばらく黙り込み、不意に、尋ねた。
「……お嬢ちゃん、おやじさん――アグムの奴は、元気か?」
「……え」
もしかして、もしかしてもしかして――。
「げ、元気です。相変わらずマリア様なんかに振り回されて血反吐吐いてますけど、元気にやってます!」
期待に胸が膨らむ。
「私のこと、覚えて――」
「おう、久し振りだな、アモネちゃん」
なんかもう、嬉しくて嬉しくて、私は元気に、あの頃のように。
「こちらこそ、久し振りです。アイガードさん」
「おう、再会を祝して飲むか!」
「うん!」
諦めてしまったはずの想いが、私の中に再び芽生えた。
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「それにしても、アモネちゃんも大きくなったよなぁ」
「そりゃあ、十五年以上経ってるんだから。私もう二十一歳だよ?」
十五年もの時間を埋めようと私はアイガードさんに色々なことを話した。アイガードさんも同じように色々なことを話してくれた。
バツイチになっていたことに思わずお酒を噴いてしまったけれど……。
そうして話は今の私のことに移った。
「アモネちゃんは今、何やってんだ? 一人旅か?」
言われて、気付く。アイガードさんだから大丈夫だと思う、大丈夫だとは思うんだけど……。言えない、魔王が勇者のストーキングしてるのを手伝ってるなんて言えないっ!
どうしようかと悶々してると不意に、ぷっ、と言う笑い声。
顔を上げるとアイガードさんは口元を押さえて肩をプルプルと震わせていた。
ま、まさか――っ!
「あっはははははっ! スグルやアイーシャならともかく、あんなとこで魔法なんか使ってたらバレるっての!」
いーーやぁーーっ!
恥ずかし過ぎて私はカウンターに突っ伏す。そんな私に、アイガードさんは笑いながらも私の頭をグリグリと撫でる。
「相変わらずからかいがいがあんなぁ……。それで、アルモデスの将軍が何だって俺たちをつけてて内輪もめしてんだよ」
何で知ってるの?
私が顔を上げるとアイガードさんはこれ以上なく苦笑いだった。
「何、アグムとは今でも連絡取り合っててな。それで、何でだ?」
言い辛い。言い辛いけど、やっぱ言わないとダメだよな……。
で、でもでもっ!
「何だ、やっぱり国家機密とかそういう――」
「違います!」
「うおっ!」
困惑した表情のアイガードさん。
「違うんです。そんな大層な理由じゃなくて……その……」
「その……なんだ?」
「そ、その……」
ええい、ままよっ!
「マオちゃんが、そちらの勇者に熱を上げてしまって」
「マオちゃん……ってまさか」
アイガードさんの顔が引きつった。
私はそれに苦笑で返す。
「それだけだったらまだよかったんですよ……」
「おいおい、これ以上まだあんのかい」
「もう勇者が好き過ぎて、魔王からマオちゃん曰わく愛の戦士、実質はストーカーという犯罪者にジョブチェンジしちゃって……」
そこからはもう、愚痴と化してしまいました。
「そしたら、今度はマオちゃん自ら勇者をおかっけるとか言い出して、最初こそ、遠くから眺めてるだけだったんですけどあっという間にエスカレートしちゃって……」
「それはまあなんとも……」
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「いきなりですよ、いきなりっ!」
「……と、とりあえず飲め、な?」
「はい、っんぐっんぐ、ぷはぁー! おかわりです!
それでですね、装備が双眼鏡から超望遠レンズの付いた一眼レフに高性能の指向性マイクで、盗聴器まで仕込んでるんですよ? そして私には映像カメラ……。
マオちゃんに私が逆らえるわけないじゃないですかっ!
うう、所詮私なんて犯罪者なんですよう……」
「ま、まあ、そう気を落とすなって」
「それだけじゃないんです。最近、勇者さんが変なこと言ってませんでしたか?」
「確かに、一回無くしたと思った物がある日ひょっこり謝罪文とお金と一緒に……ってことは」
「おっしゃる通りです。私が返しました。
マオちゃんは魔王なんです。泣く子も黙る魔王なんですよっ!?
なのに、何で好きな人の物をパクっちゃってるんですか!
もう少し、あと少しで良いから魔王としての自覚持ってくれたっていいじゃないですかっ!」
「まあまあ、落ち着きなって。ちゃんと聞いてやるから」
「うぅ、ありがとうございます、アイガードさん……。
まだ、まだたくさんあるんです――」
こうして、私の愚痴は明け方まで続いたらしい。
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「…………よ……は」
「うる……な……ろ!」
「…………あ、おち……」
あれ、いつの間にか寝ちゃってた?
それに、周囲が何か騒がしい。
「んっ……んあ?」
「お、やぁっと起きたか?」
まぶたを開くとアイガードさんの顔が視界一杯に広がっていた。
「アイガード……さん?」
あれ? なんで?
周囲に目を向けると勇者一行が目に入り、次にここが酒場であることを確認し、自分が、アイガードさんに抱きついていたことを確認してしまった。
「うひゃあっ!?」
慌てて飛び退くと、アイガードさんは苦笑しながら経緯を説明してくれた。
「アモネちゃん、飲み過ぎだよ。あの後、グデングデンに酔っ払って抱きついてきたんだよ。それでそのまま寝ちゃったもんだから」
ぐあぁっ!
やってしまった……。
床にうずくまり、頭を抱える私の頭をアイガードさんはワシャワシャ撫でてくれた。
「うぅ……」
「酒の失敗くらい誰にだってあるって」
「アイガードさん……」
アイガードさんの笑顔はそれはもう素敵で、私はそれをただただ見つめるしかなかった。
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宿屋の外、私はアイガードさんたちを見送りをしていた。と言っても宿屋の前にいるのは私とアイガードさんだけ。勇者たちは妙な気を利かせて一足先に歩き出していました。
「あの、アイガードさん」
「分かってるよ。魔王のこととかは内緒、だろ」
その言葉に私は苦笑するしかない。
本当は、そんなこと言いたかったんじゃないんだけどな……。
ちょっと寂しいけれど、ああして一緒に過ごせたんだからそれ以上を望なんて――。
「それから、どうせこれからも俺たちの後を追いかけるんだろ?
いつでも俺のところに来いよ。愚痴でもなんでも聞いてやるからさ」
そう言って、アイガードさんは勇者たちを追いかけていった。
返事は決まってる。
「はいっ!」
私はアイガードさんの背が見えなくなるまで、ずっと手を降り続
「こらこら、そこなアモネさんや。一体、何を、しているのかな?」
動きが凍りつく。
だめだ、振り向いてはいけない。振り向いたら私の命は無い。
でも、それでも私は振り向いてしまった。
そこにいたのは――
「『フレイムジャベリン』」
「すいま」
次は勇者様御一行の誰かか、仕事を押し付けられてるアグムさんの話になるんじゃないかなぁ……。