初めてのPvP戦
イチが街の散策を初めて二十分。
そろそろ自分以外の誰かがログインしてくる頃だろうと思ったイチは自分が現れた広場にある移転門の前まで来ていた。
そして、イチの考えは的中した。
移転門が光り輝き、次の瞬間目の前に赤髪で気の強そうな男が現れる。
「よっしゃぁぁ!!一番乗りぃいい!!!……んぁ?先客がいるじゃねぇか!?くそぉ。一番最初にログインするがために販売店の近くに引越ししたってのに……まぁ、上には上がいるのは仕方ないわな」
赤髪の男は一人でキレて、一人で納得した後、イチに向けて言う。
「おい、そこの白髪!」
「白髪って……僕の名前はイチなんですけど……」
イチがそう言うと男は頭を掻きながら言う。
「おう、イチっていうのか!わるいな。……まぁ、ここであったのは何かの縁だ。何だか負けたきもするし、特別に俺のライバルにしてやる!」
「……え?」
イチは突然のライバルにしてやるぞ宣言に一瞬驚いた顔をし、それから男の目を見つめて。
「いいですよ」
「お。話がわかるじゃねぇ……「ただ!!」」
男の言葉を遮り、イチは男に言った。
「僕と勝負をして勝てたらの話ですけどね?」
普段、イチの性格は温厚である。
だが、現在のイチは男に対して挑発的に接している。
理由はごく簡単。
イチは勝負事になると攻撃的になるという欠点があるのだ。
そんなイチの挑発に赤髪の男は……。
「!?……面白ぇ!ライバルってのはそういうもんでなくちゃなぁ!!……っと俺の名前を教えてなかったな!俺はガイル、いずれ、このBDOの頂点に立つ存在だ!」
「へぇ、大口叩きますね、こんな大勢の前で」
イチはガイルのいる方向。
移転門を指さしにやりと笑う。
「ん?……うぉ!?」
ガイルが驚くのも無理はない。
何せ、イチの指さした方を向いたら大勢のプレイヤー達が移転させられてきていたのだから。
そんな大勢のいる前でイチは声を上げる。
「移転させられて早々で悪いのですが、今からここで白髪こと僕と赤髪ことガイルによるPvP戦を始めたいと思うので皆さん楽しんで見ていってくださいね!!」
イチの言葉が終わると辺りのプレイヤー達が一斉に盛り上がる。
「……面白ぇ。面白ぇよ、イチ!!ライバルったぁこうでなくちゃ面白くねぇよ!!」
「それについては同感です」
互いが言葉を交わした次の瞬間、PvP戦開始のブザーが鳴り響く。
そして戦いは始まった。
「先手必勝!!」
その掛け声とともにガイルはイチ向け跳躍し、背中の両手剣を抜刀。両手剣をイチ向けて振り下ろす。
ステ振り済みである、ガイルの一連の動作は遥かに人間離れしており、常人なら普通は手も足も出ない攻撃だ。
ポッケに手を入れ、ガイルが仕掛けてくるを見ているイチは、それを最小限かつ無駄のない動きで避けた。
「おっと、両手剣を装備してのその跳躍とスピードには流石に驚きですね」
イチが言葉を発した次の瞬間、ガイルの脇腹にイチの裏回し蹴りが炸裂。
「イチ、お前!!」
そう叫ぶガイルにはほぼダメージがない。
「お前、ステ振りしてねーだろ!?」
「流石にバレましたか」
イチとガイルのやり取りに周りのプレイヤー達は驚きを隠せないでいた。
何せ、ステ振り済のガイルの攻撃をステ振りをしていないイチが簡単に避け、追撃を仕掛けたのだから。
「んまぁ、そんなことどうでもいいんだけどなっ!!」
ガイルの大剣による横薙がイチ向けて放たれる。それをイチは最小限のバックステップで避け又もや裏回し蹴り。
その回し蹴りは直撃せずガイルの顎を掠めた。
ガイルが咄嗟に顔を引き避けようとしたのだ。
「あっぶねぇ……直撃してたら……っ!?」
次の瞬間、直撃を避けたはずのガイルが地面に足をつける。それを見た周りのプレイヤーは何が何だか分からず戸惑うばかりだ。
「こ、これは……」
そして、戸惑うのはガイルも同じだ。
(お、おかしい何故立てねぇんだ!!俺のHPは9割切っていないんだぞ!?……ん?このHPのバーの横にあるマーク……状態異常?……まさかっ!!)
「脳震盪ですよ」
そう笑顔で答えるのはイチだ。
「このゲームはどうやらリアルで起こりうる状態異常の内、一部はゲーム内でも起こる使用になっているそうです。風邪や食中毒、花粉症など命に別状のない程度のものに限られているようですがね」
イチが律儀にする必要もない説明をした後、数秒の沈黙を経てガイルは呟く。
「……適わねぇな」
その言葉と同時にPvP終了のブザーが鳴り響く。
こうして、初のPvP戦はイチの勝利で終わった。
□
PvP戦が終わってすぐのこと。
勝負に負けたガイルがイチの胸ぐらを掴む。
「イチ。……今の俺じゃ勝てねぇ。だが、次は勝つ!!だから、その時まで誰にも負けるんじゃねぇぞ!!」
そう言い残し、ガイルは街の外へと続く門へと走っていってしまった。
その後ろ姿を見ながらイチは誰にも聞こえない声で呟く。
「……ガイルさんは強くなりそうです」
そして、笑みを浮かべてガイルとは真逆の方向にある門へと向かい、歩みを進める。
「次が楽しみです」