2.主人公、秘密を曝される
5月13日
俺はいつものようにSNS徘徊をしていた。今までと何ら変わりない平凡な生活のはずだった。
「ねぇ奏樹! このデスクトップ画面にある『黒我龍王の目醒め』って何??」
「この『あなたに彼女ができない理由』って本は??」
「この『俺の女は人妻MAX!!』ってDVDは??」
「だああぁぁぁぁぁ!!もううるせぇなぁ!!やめろ!!お隣さんに聞こえんだろ!!恥ずかしいわ!!」
俺はイライラしていた。
あの日から5日、このリーピという猫みたいなやつは俺の部屋に住み着いている。
帰れと言っても「僕は奏樹のお供をしろって指令を受けてるからね、帰ろうにも帰れないんだよ」と言うし、追い出そうとしてもすばしっこいから掴めすらしない。
俺は今マンション住みだ。つまりお隣さんとの部屋を隔てているのは壁一枚、そして悪意をもって俺の忘れ去りたい過去や宝物の名前を大声で叫び騒ぐリーピ、するとどうなるか‥‥
そう、聞こえる。隣の住人どころか上の階や下の階の住人にまで聞こえる。
‥‥最悪だ。俺何かしたっけ?悪い事した?俺の黒歴史や性癖を他人にバラされるという恐ろしい罰を受けなければならない程の悪事を働いたと?
んなわけあるかぁぁ!!
俺は!!!今まで!!!誠実に!!!清らかに!!!常識を弁えた!!!極普通の大学生ライフを満喫していた!!!なのに!!!何故!!!
この前バイトへ行こうと部屋を出た時にお隣さんのおばさんがいてこう言われた。「奏樹君、あんた彼女いないのかい?この前部屋から聞こえてたよ?今度あたしの知り合いに可愛い娘がいるから紹介してげようか?」
更にこんなことも。
「あんた人妻が好きなんだってねぇ?ほれ、あたしなんてどうだい?まだ意外といけるんじゃないかって思うんだけど♪」
いけるわけあるか、俺は人妻は好きでも50こえたくるくるパーマのボールみたいなおばさんはゴメンだよ。
ボヨヨ~ンという効果音がとてつもなく似合いそうなお腹をポンポンと叩きながらおばさんは自信ありげに自分をアピールしていた。
‥‥さて、このような事から何が言えるか?
まず〔死ぬ〕という選択肢が頭を過る。これは当然の事ながら却下。
次に〔二度と部屋から出ない〕という選択肢。引き籠りになるつもりはないのでこれも却下。
色々思考を巡らせ、最終的にたどり着いた答え。それは‥‥
〔〔諦める〕〕 はぁ‥‥
あのおばさんは口が軽すぎるからあっという間にマンションの住人全員に知れ渡ったという。
なんてこった‥‥俺はこれから晒し者としてこのマンションで過ごしていかなきゃならんのか。
「泣きたい‥‥」
「泣いていいよ‥‥」
「お前は二度とその口を開くんじゃねぇ!!これ以上俺の知られたくない秘密を知られたらもうホントに死ぬカモ‥‥」
「まあまあ、人間ずっと隠し通してきた事を曝け出すとスッキリするっていうじゃない?」
「それは本意に行った場合の話だろ!?俺は不本意なんだよぉぉぉぉ!!」
「その話はおいといて」
「俺の‥‥俺にとって重要な話を‥‥そんな簡単に‥‥」
「任務がきたよ」
「‥‥は?任務?」
「うん、夢見ヶ谷高校2年5組 鹿波圭吾君、相当なアニオタらしいよ」
「アニオタねぇ、まあ俺もアニメは見るっちゃ見るけど」
「場所は‥‥ちょっと遠いね」
「えぇ、めんどくせぇ‥‥」
「愚痴を吐かない」
「へぇへぇ‥‥ってことは、俺がその鹿波ってやつの夢魔を倒すのか‥‥って待てよ、そもそも何で俺が夢魔を倒さなきゃならねえんだよ」
「そりゃぁ、君が夢魔ハンターに選ばれたからだよ?」
「夢魔ハンターって‥‥何で俺なんだよ?選ぶ基準は?」
「僕がテキトーにクジ引いたらたまたま君だっただけだよ?」
「ほんとにテキトーだな‥‥まあ、理解はした」
「それじゃあ今日の夜、鹿波くんが寝静まった頃にいこう」
「ほんとに大丈夫なのか?」
「大丈夫!僕がいれば安心さ」
「‥‥不安だわ」
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その日の夜
「奏樹、そろそろいくよ。早く支度して」
「まてって、えー、[今から冒険にでます。もしこれ以降何も呟かなければ奏樹は死んだと思ってください。]っと」
「うわぁー実名で登録してるの?僕なら怖くてそんなの出来ないね」
「別にいいだろ。準備できたから行くぞ」
スマホにイヤホン、財布とハサミ、ハサミは一応護身用に持ってるけど、正直前みたいなクソでかい剣持ったクソでかい敵が現れたらこんなの役に立たないだろうが‥‥まあいい。
玄関を出て、鹿波圭吾の家へ向かう。
静かだ。所々に置いてある街灯が白く光っている。
夜に家を出るのは久しぶりだ、1年くらい前に深夜にコンビニに雑誌を買いにいったのが最後か‥‥
いつも慣れ親しんでいはずの道が今は初めてこの町に訪れた旅人のような感覚。
景色が変わるとこんなにも違うのか、と感心している奏樹にリーピが話しかける。
「この町にはいろいろな人がいるよねぇ」
「何だよそのこの町のことは知り尽くしてるみたいな言い方は。この町に住んでたのか?」
「いいや、僕は夢の妖精だからね、人の夢の中に入れるんだよ。だからこの5日間、この町の住人の夢の中へ行き来してたのさ」
「へー、そんな能力があんのか。ってかそれならお前が直接夢魔を倒せばいいじゃねえか」
「それは無理なんだよ。僕はあくまで妖精であってハンターではないからね、僕自体に夢魔を倒す力はないんだよ」
「じゃあお前は夢の中で何をするんだよ、まさか見てるだけなんてことはないよな?」
「もちろん、見てるだけなんて僕がいる意味が無いじゃないか。僕の役目はハンターの、つまり奏樹のサポートをすることだよ」
「サポート?どんな?」
「んー、まあ奏樹が夢魔を倒しやすいようにヒントをあげたり‥‥」
「それだけ?」
「んー‥‥‥‥あ、僕には『憑依』という能力があってね、奏樹の中に入り込んで直接的に奏樹の力になるっていうのもあるね」
「憑依か‥‥まさかお前、憑依で俺を乗っ取って好き勝手やろうとしてんじゃねえだろうな?」
「ほほぅ、その手があったか‥‥」
「おい、絶対やめろよ」
「あはは!だいじょぶだいじょぶ、憑依といっても脳までは乗っ取れないから。体の支配権は奏樹にあるよ」
「でもそれじゃあ実質お前が俺の力になる方法なんてないんじゃないか?」
「いいや、例えば武器に変身して戦ったりも出来るし、必要に応じて情報を与えたりとかも」
「全部抽象的だなおい‥‥」
「まあ、習うより慣れろだよ。実際に夢魔と戦うときに試せばいいよ」
そんなことを話してるうちに鹿波の家が見えてきた。
よくよく考えると俺は今から鹿波の夢の中に入り夢魔を倒すんだ。
つまり俺は鹿波圭吾のもとに行かなければならない。
ということは俺は鹿波の家に入らなければならない。
‥‥あれ?これ不法侵入じゃね?
「なあリーピ」
「ん?なんだい?」
「俺らって今から鹿波の家の中に入るんだよな?」
「そうだね」
「泥棒とかと間違われてあえなく豚箱行き‥‥なんてことはねえよな?」
「‥‥実例は‥‥あるけど‥‥まあ大丈夫でしょ」
「一気に不安になってきたんですけど!?前科一犯なんて称号つけられたら親に顔合わせできねえぞ!?」
「滅多にないから大丈夫。それより奏樹、称号の使い方間違ってる」
「え‥‥マジで‥‥?」
「さて、着いたよ」
「間違ってたのか‥‥」
「奏樹、行くよ」
「あ、あぁ‥‥」
奏樹は深呼吸をして心を落ち着かせ、リーピは欠伸をして心を緩ませ、
二人は家のドアを開け‥‥ガンッ
‥‥あれ?開いてない?
「おい、リーピ、ドア開かねえぞ?」
「え?そんなの普通に鍵開けて‥‥‥‥あ」
「リーピ、お前バカじゃねえの‥‥元も子もねぇじゃん‥‥」
一人と一匹はバカだった
どうもレートです。
文章をつくるのって難しいですね。
更新はできるだけ早め早めにしようと思っておりますのでどうぞよろしくお願い致します。