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秋祭  作者: 祭人
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第六話

 放課後、晶は剛士と帰路を共にしていた。


 コンクリートの隙間から差し込むオレンジの西日。騒めく街を照らし、早足の大きな影を歩道に揺らす。やせっぽちの小さな影は、それに付いていくのがやっとこさだった。


 小学校の脇には高層と呼ぶには少しばかり上背の足りないビルディングの群が。そこには、つい先日オープンしたばかりの若者向けの百貨店も連ねて建っている。白く巨大な壁面には緑と赤の文字で『VIVLE21』と記し刻まれていた。


 二十一世紀の生きる喜びを意味する名称のモダンな百貨店。地下は食料品フロアの試食コーナー、上階にはゲームセンターや雑貨店で絢爛豪華に彩られている。


 県庁所在地の中心街に暮らす悪童達の通学路には、常に誘惑が耐えない。


 退屈な授業を抜け出して向かう行き場には、剛士もきっと何一つ不自由していなかった事であろう。


 ――まったく剛士ときたら。何時もは強引なくせに。エスケープ決め込む時は常に一人で、だ。剛士にくっ付いて、あの安っぽくてくだらない幼稚な花畑きょうしつを抜け出せたら、どんなに楽になれるだろう――


 二人は駅の地下通路を通って西口に出た。目の前にはにぎやかな商店が建ち並ぶ。


 剛士の住まいは、奉還町商店街のすぐ裏手にある日当たりの悪い古びたアパートの一室だった。


 隣の精肉店が排出する生ゴミの腐敗臭が、もわんと周囲に立ち込める。


 軋む音を響かせながら、錆れた屋外階段を登るふたり。不安定な細い手すりに添えた晶の乾いた掌が赤茶色に染まる。


 白い札に201と黒いマジックで書きなぐられたドアの前でふたりは立ち止まった。


 脇の傾いた赤い簡易ポストには、剛士以外の男性の名前は記されていなかった。


 この市の中心部に最も近い場所にある晶たちの小学校の児童には、都市の中心に一軒家や高級マンションを構えることが出来る裕福な家庭の子供が多い。


 多分に漏れず晶もその中の一人だった。だが一方では、こういった裏路地に住む貧困層の子供たちも、僅かながらに共存していたのだ。


 剛士はポケットから合鍵を取り出し、無造作に鍵穴へ差し込み「ただいまぁ」と大声で叫んだ。


 無言で胸をときめかす晶。『お宝』と『密かな一つ』に期待を膨らませながら。

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