第四話
花を愛でるような優しい心が無い。
幾度となく晶は皆にそう云われていた。実際、花はあまり好きではなかった。
チューリップ、バラ、ヒヤシンスなど、春から夏に掛けて華やかな花びらを咲かせる種類が特に性に合わない。
中でも取り分け真夏の太陽に向かって皆が一丸となって顔を向ける大輪のひまわりなんて愚の骨頂だと感じている。
放課後、晶は一人で如雨露を片手にクラス毎で管理している花壇の前に立っていた。
その日の水遣り当番は剛士だったのだが。当のご本人は今頃、何処をほっつき歩いていることやら。
基本的には男女一組で行なうのが規定なのだが、もう一人の女子は代理人の晶一人に水遣りを押し付け、さっさと数名の仲間達と共に帰宅してしまった。
そしてそれは、さして珍しい光景ではなかった。
昨夜とは打って変わっての柔らかな小春日和。柔らかな日差しが晶の乾燥した頬をほのかに擽る。
『だんじり祭り』の件でしょげていた息子を気遣ってか、母親も今朝は心なしか何時に無く晶に優しかった。
――女心と秋の空とは正にこの事だな――
晶は薄ら笑いを浮かべた。
花壇の中では薄い陽だまりの中、薄紅色の秋桜が肩を並べ優しい顔色をさり気なく頬に浮かべながら揺れている。
文明という名の花壇の中に措いて、植物は主に食べられる為や資源に使われる為や酸素を吐き出させる為と云った人間達のみに都合の良い不遇な扱いを受けている筈なのに。
どうしてこうやって華やかな花を咲かせる植物だけが、然も人間が自分自身を投影するかの様に大切な存在として並べ立てられ敬われ、毎日欠かさずに水を与えられるのだろう。
――同じような幼稚な笑顔を然も当たり前のように一丸となって並べやがって。そんな安っぽくてくだらない群衆心理の共同幻想は、社会って奴が認めても僕が認めない――
晶は花壇脇に生えてある皆に踏まれてぐちゃぐちゃになった雑草の上に如雨露の中の水を全て注いだ。
踏み潰され干からびた名も無い白い花が、水と泥に塗れて泣きべそをかいているようにみすぼらしかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一ヶ月後の十一月某日。晩秋の風が肌寒い或る日の昼下がり。
四時間目の終業を告げる鐘が鳴った直後。その日もお得意の脱走劇を繰り広げていた剛士は、何食わぬ顔をして教室に戻ってきた。
その瞬間、教室内に氷のような緊迫感が張り詰める。
「よぉ」