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Second to Third  作者: 弥勒
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第一章第九節

第九節 これから


 皆川正優は覚醒した。それは一度体験した感覚であった。寒い。家の中は凍りついていた。今回は正優がディミよりも早くに起きたようだ。隣にはあの綺麗な顔立ちの少女が寝ている。とにかく不思議な体験をしたものだ。周りは不完全に自分の家だった。不完全に自分の家、というのは変な表現だったが、何となく的は射ていた気がした。ディミの能力は発生した周囲が極端に気温、温度が下がるようだった。なので、リビングが北極にでも移ってしまったかのようだった。室温がマイナス十度といった所か。こんな所で寝ていたらすぐに死んでしまう。正優は眠たい身体を動かし、エアコンのリモコンを操作する。運転のボタンを押す、と同時に……

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴った。覚醒して間もない身体に、客の来訪を快く歓迎する考えは無い。なので、無視する事にした。だが……

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピン………

「だぁぁぁぁ!!うざったぁぁい!!わぁかったよ!!開けりゃいいんだろ?!」

どすどすと不機嫌な足音を立てながら玄関へ向かう。鍵を開け、玄関の扉を開けると……

「皆川!!」「皆川君!!」

と、見慣れた二人の顔が見えた。

「あれ?端野と委員長?何してんの?」

門の向こうで二人が手を振っている。何をそんなに大げさにしているのか……

「おーい!!入っていいのかぁ~?!」

端野が大きな声で言う。

「あぁ~、ちょっと待て。そっち行くから」

正優は真と永加の居る門の方へと歩いていく。その時間さえもやきもきさせられている真と永加は、安心といらいらが同居しているような思いだった。

「どうしたんだ?二人とも。端野はそうでもないけど、委員長はかなり珍しいね」

いつもの調子で話しかける正優に真が答える。

「おい!!皆川!!昨日何処に行っていた?!」

「え?」

どきっとした。まさか未来の日本へ行ってきました、なんて言ったらまた精神科医を案内されるだろう。正優はとっさに答えた。

「昨日は家で寝てたよ。何だ、来てたのか」

「ふざけんな!!お前の家に入って確認したんだ!!お前何処にもいなかったじゃないか!!」

「え?入って……って、合鍵使ってか?」

「そうだよ。何度インターホンを押しても何も音沙汰が無かったのに、リビングや玄関に電気が点いてたからな。それを委員長がたまたま通りかかって、事情を話したらお前の事を心配してくれて、一緒にお前の事を探してくれたんだぞ?」

委員長に顔を向ける正優。永加は少し顔を赤くしてうつむく。正優は確実にあせっていた。いつもなら冷静な考えで相手を煙に巻く事もできるのだが、相手はあの真だ。しかも一度嘘をついている以上、滅多な事を言ったら殴り合いの喧嘩に発展する場合もあるかもしれない。しかし、それほど真が自分を心配してくれる事も嬉しかった。が、それはまた後で感じる事にする。今はこの状況を何とかしないといけない。

「いや……その…………分かった。白状するよ。実は、俺の姉貴を頼って来た外国の女の子が居てさ……」

「女の子……あの学校に来た女の…」

「皆川君!!あの子とどういう関係なの?!」

真の言葉に被るように聞いてくる永加。少しその勢いに押されてしまうが、のけぞりながらも色々な方便が頭をよぎる。その中から頭がフル回転していい言葉を選んでいく。その横で真が目を丸くしている。正優に対しての永加のパワフルぶりを目の当たりにして、少し驚いていた。

「か、関係……って言えば……なんだろう……顔見知り……って位かな」

「顔見知りにしては、昨日の放課後、やけに親しげだったけど…」

「いや、だって、無碍に扱う事もできないし、それに姉貴の知り合いだから、少しでも変な態度をとって、それを姉貴にバラされたりでもしたら、俺は……死ぬ」

最後の部分は特に感情が入った演技……いや、本音だった。

「あぁ、お前の姉ちゃんは話で聞く限り無敵だからな…恐れるのも無理はない」

「え?お姐さん……?」

永加のは漢字が違うが、意味は変わらない。

「まぁ、とにかくだ!その女の子がとてもアグレッシブというか、行動的というか、いきなり日本に来て観光だぁ~、とか言って制服のまま東京見物だったんだよ!!」

「………靴も履かずにか?」

恐ろしく真が冷静な突っ込みをしてきた。やはり何か疑いをかけられているようだ。

「いやぁ~、サンダルで行ったんだよ!サンダルで!もう手を引っ張っていくもんだから、もう慌てて鍵だけは閉めて家を出たんだよ!」

とにもかくにも逃げの一手しか持ち合わせていない正優は分が悪かった。もうこれはほとんど賭けだった。真が玄関にサンダルがあるのを見ていればまた追求してくるだろうし、他に何か突っ込みを入れられる場所があればもう終わりだった。

「ん~……そうか。でもお前、あのリビングは何だったんだ?」

きたっ!!と思った。それが一番困った質問だった。色々先程から考えていたが、それの誤解をとくネタが思い浮かばない。どうしようどうしようと頭が焦っている時に、永加が口を挟んできた。

「皆川君、これは委員長としての発言なんだけど…委員長としての発言なんだけど!」

「な、何で二回言うんだ?」

永加の迫力に今まで正優を問い詰めようとしていた真もたじろんだ。

「あの女の子はこれからどうするの?」

「え?」

「お姐さんを頼って来たって事は、皆川君の家に居るって事なんでしょ?これから一緒に暮らすとか、そういう事はあるの……?」

「……あぁ~、いや、それはないよ」

「………?」「………?」

正優がふと浮かべた笑顔に真と永加ははてなを頭に浮かべた。

「ディミは…あ、あの女の子の名前なんだけど、もうやるべき事は終わったんだ。だから、もう帰る事になってんだ」

「………そ、そう………」

永加はその言葉に色々な意味で安心した。しかし、少し正優の顔に翳りがあるのが気にかかったが。

「じゃぁ、あの女の子はもう居ないのか?」

真が正優の家に眼を向ける。

「いや、まだ居るけど、もう少しで出発するんだ」

「そうか。……まぁ、色々詮索して悪かった……けど、昨日のお前の家は何かおかしかったぞ?」

「………………」

「リビングがえらく寒かったりとか、そこに置いてあったコップの中身が凍ってたりとか、あと机の上に謎の手紙があったりとか……」

「……?謎の手紙?」

「やっぱりあれはお前が用意したんじゃないのか。字がえらく達筆でな。何か内容が変だった。確か、“安心しろ。これは序章に過ぎない。皆川正優は明日の十八時にはこちらに帰って来る”とか書いてあったな」

正優はゾクッとした。何故自分が十八時に帰って来る事が分かったのだろう…それを指示したのは未来のディミの父であり、国王であるあの親父だけだったのに……

「……………。ま、いいか。お前が無事だったんなら別にどうって事ない話だな。とりあえず、俺達に心配をかけさせたんだから、今度飯でも奢れよ」

「あぁ。約束する。委員長も心配させて悪かったね」

「あ、いや、私は、その…クラス委員として当然の事をしたまでで……」

「はははっ。分かってるって!」

お前は分かってない!と端野は心で叫んだ。

「う、うん。それじゃぁ、また明日」

「おう。また明日!!」


 真と永加は手を少し振って、二人で並んで帰る。正優は二人が仲が良い感じになっていたので、少し嫉妬心が出てしまった。しかし、恋愛は本人達の自由だ。何て言ったって、彼らは学園のアイドルで、これ以上ないくらい画になるカップルになるだろう。と、勝手に自分の中で付き合っている事にした。

 正優は門を閉め、家の中に戻る。すると、ディミはもう起きていたようだった。ソファーの上に座って、少しうつむいている。

「なぁ……ディミ……」

返事が無い。多少の名残でも感じてくれているのだろうか。

「もし良かったら、こっちの日本を少しでも堪能していくか?ちょっとした遊び位しても罰は当たらないぜ?」

やはり返事が無い。ディミはうつむいたままだ。

「……?ディミ……?」

正優はディミの近くに寄る。ディミの前に座り込んで、彼女の顔を覗き込もうとする。その顔は……困惑の顔を浮かべていた。

「ディミ、どうした?」

「セーちゃん……私、帰れなくなっちゃった………」

「………え………?」

ディミは非常時の訓練を受けていた。拷問に耐えうる精神力を養い、ちょっとやそっとでは心が揺らがない自信があった。しかし、それも自分の世界での話だ。こんな非常事態は想定していなかった。

「私、能力が使えなくなっちゃった………」

「な………何だって?!」

「さっき、セーちゃんが外に行くのを見たから、挨拶すると何か心が動きそうで、そのまま元の時代に帰ろうと思っていたの。でも、能力を使おうと思ったら、いつもの感じがなくて……使い方は分かってるんだけど、でも使えないって言うか……急に出来なくなっちゃって……」

「ディミ!ディミ!!落ち着け…」

ディミは焦りが眼に見えていた。ディミが困惑しているのは正優には分かった。だから、ここは男を見せる時だと本能的に悟ったのである。

「う、うん」

「まず、状況を整理しよう」

ディミは頷く。正優が思っている以上にディミは冷静だった。焦りは何も生まない事を身を以って体験した戦士ならではの精神力だろう。

「ディミが能力を使えなくなるっていうのは一度でもあったのか?」

「ううん。ないよ」

「なるほど。じゃぁ、さっき俺達がこの世界に戻って来た時、なんらかの違和感は感じなかったか?」

「ううん。何も」

ディミが首を振る。全く材料の無い所からの推察は名探偵でさえ不可能だろう。それを頭が良いとは言え、素人の正優が良い案を思いつくはずもなかった。

「う~ん…じゃぁ、いつも通りなのに急に使えなくなったって事か」

「そうみたいだね」

「いつも自分が飛ぶ時とは違う事は無いか?」

「……二人以上で、短期間での連続時間移動とかかな……」

「やっぱり、一人で移動する時より疲れたりするのか?」

「そうだね。二人で移動する時は何かこう……いつもは重いものを一つしか持っていないんだけど、重いものをもう一つ持っている……みたいな感じがしたね」

「負荷がいつもよりかかってるって事だもんな。今までそういう事が起こってない以上、それが原因と考えるのが妥当か……それは治るものなのかな?」

ディミは顎に手を添えて考えるが…

「ううん。前例が無いから全く予測がつかない」

「そうか。………どうしたもんか……」

「あと、参考になるかどうか分からないけど、私が時間移動を行う時は、パイプを繋げるような感じなの」

「パイプ?」

「そう。私の移動は、クロノ・スペースという空間の中に入るの。その空間の中には無数の穴があって、その穴それぞれが色んな時代に通じているの。その穴がどこに通じているかは分からないんだけど、イメージをそのクロノ・スペースに波紋のように広げる事で、お目当ての空間と私を繋ぐ糸が出来るの。それを頼りにクロノ・スペースを移動していく。で、今回は前に移動したばかりのこの世界との糸がまだ繋がっていたから、今回はイメージをクロノ・スペースに広げる事はせず、そのまま糸を伝ってこっちの世界に戻って来たの」

「なるほど。………でも、それが原因で能力が使えなくなったってのは関係無いんじゃないかな」

「どうして?」

「もしその糸が別の世界に繋がっていたり、何か問題があったとしたら、俺とディミの居るこの世界は別の世界になっているはずだろ?でも、俺達は確実に俺の世界に戻ってきている。さっき端野と委員長……って、俺の友達なんだけど、そいつらが俺達が居なくなっていた事も知っていたし、確認もしていた。だから、それが原因ではないような気がするな」

「………………」

ディミは黙ってしまった。正優は自分の推理がディミを傷つけているのかもしれないと思い、彼もまた黙り込んだ。しかし、ディミはすぐに口を開いた。

「セーちゃん。私、多分また能力が使えるようになると思うの」

「根拠は…?」

「根拠はないんだけど…そんな感じがするの。でも、この感じっていうのは無責任な発言じゃなくて、本当にそういうイメージが浮かんで来るの。私の中の誰かが……」

「………まぁ、能力ってゆうものがどういう存在なのか分からないから、今はそれを当てするしかないな。………能力が戻るまでは……どうする?」

正優は返答が分かっていても、聞いてしまう。それは何かを期待したからなのか、それとも諦めから出た言葉なのかは分からなかった。正優自身も、もう決めていた事だから尋ねる必要はなかったのだ。だが、彼女の意思と、そして確認が欲しかった。彼女が自分と一緒に居たいのかどうなのかを。

「そんなの決まってるよ!!セーちゃん!!私の能力が戻るまで、ここに置いて下さい!!」

ディミが上半身を半分に折り曲げて、キレの良い礼を見せる。

「………オーケイ。友達の頼みは断れないからな」

正優は握り拳をディミの前に掲げた。そしてディミはその行為に対して、同じげんこつで応えた。


これから二人の物語は始まる。これまでは序章。彼らは今、大きな本をめくり始めたにすぎない。これから何時へ行こうか…。これから何が起こるのだろうか。これから…誰と出会うのだろうか…。それは…神様でも分からないのであろう。

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