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いつまでも、どこまでも

ついに、最終話です。



 それから。


 プライベートでは少しずつ一哉と距離を縮めて行きながらも、仕事ではいままで以上に力を入れて頑張る唯の姿が、そこにあった。


 気付くと、夏はすっかり盛りを過ぎて、暦の上ではもう秋となっていて。まだまだ暑さは残るものの、ところどころに秋の気配を感じるようになって、変わらないように見えるものの時間は確実に過ぎているのだなと思わせるようになっていた。


 …そうよね。一哉さんと私の間にも、気付かないうちに五年もの月日が過ぎ去っていたんだものね。


 逢わなかった間、たまに思い出すことはあったが────否、むしろ思い出すことが少なかったからこそ、あれからあっという間に時が経ってしまっていたように感じたのかも知れない────それを考えると、不思議な感じすらする。


 真央は木内との仲がどうなっているのかはほとんど言わないが────時々「お義姉さま、お元気~?」などとメールをしてきたりするので、唯はそのたびに赤面してしまうのだが────木内も職場復帰してからはずっと調子がよいようなので、それなりによいつきあいをしているのだろう。


 「弟のものを作るついで」と称して、自分のものとは趣きの違うものを作り始めた一哉の弁当は、彼自身になかなか好評価をもらっていて、次の休みの昼間には一哉の家に行って昼食を作ることに決まっている。何故夕食ではなく昼食かというと、「夜だと家に帰したくなくなっちゃうから」と一哉が告げたためだ。冗談めかしてはいたが、彼が半ば本気であることは、まだつきあって日が浅い唯にもわかることで……。



 そして、会社が休みの日の朝、一哉に車で迎えに来てもらった唯は、他の店より早い時間から開いているスーパーへと立ち寄って買い物をしてから、一哉の部屋に向かったのである。初めて訪れた一哉の部屋は、いかにも男性の一人暮らしという感じのシンプルな部屋だったけれど、思ったより整っていたので唯は多少の驚きを隠せない。


「唯ちゃんが来ると思って、この一週間、少しずつ片付けてたんだ」


 と、どことなく照れくさそうに言う一哉が何だか可愛らしくて、つい口元に笑みを浮かべてしまう。


「じゃ、さっそく取り掛かっちゃいますね。お弁当では作れないものとか、いろいろ考えてきたんです」


「お弁当のも十分美味しいけどなー。ところで弟くん、急に自分の弁当を作りだしたことで何か言ってない?」


「べ、別に何も言ってませんよ? 弟にしてみれば、母が作ろうが私が作ろうがあまり変わらないみたいで」


 それは、半分はほんとうで半分は嘘。弟の玲司は何も言わないものの、時折意味深な視線を唯に向けていることがあって、何だか居心地が悪いこともある。


「一哉さんこそ、他の人に何か言われたりしません?」


 さすがに毎度毎度一緒に昼食を摂るのも不自然かということで、一哉と唯────そして唯にはもれなくついてくる藤子は、最近はそれぞれ別の場所で昼食を摂るようにしていた。


「んー、なくはないけど、会社で真相を知ってる人はほとんどいないからね、適当にごまかしてるよ。たまに大崎とか木内がにやにやしてこっち見てる時があるけど」


 忌々しそうな表情を浮かべて言う一哉に、唯は持参のエプロンをつけながら、つい吹き出してしまった。あまりにも、ストレートに脳裏にその様子が浮かんでしまったので。


「んー、やっぱりいいなあ、女の子のエプロン姿って。何か手伝えることある?」


「大丈夫ですよ、荷物重かったでしょう、少し休んでてくださいな」


 唯も持つと言ったのだが、一哉は買ったものすべてを自分で持つと言ってきかず、結果そのまま全部ここまで運んできてしまったのだ。


「…そう?」


「男の人は、こういう時はどっしり座って待っててくれればいいんですよ。あ、一斗さんや高遠さんみたいな職業の人は別ですけど」


「そういうもの?」


「はい」


 まだ何となく納得していなさそうな一哉をソファに座らせてから、唯は調理を開始する。手伝ってもらって一緒に作るというのも魅力的だが、そうするとそばにいる一哉を意識し過ぎて手元が狂ってしまいそうだったので。


 いざひとりでまな板やコンロに向かうと、自分の家とは違うとわかっていても、自然と気合いが入って、何をどうすればよいのか手順が頭に浮かんでくる。そうなると身体も自然に動いて、気付いた時には家でやっているのとそう変わらなく、鼻歌まで口ずさんでいる自分がいて、驚いてしまった。やはり、何かやるべきことがあるとそちらに夢中になってしまって、変に意識しないで済むものらしい。そういえば、平日の会社でもそうだった。


「もう少しでできますから、もうちょっとだけ待っててくださいねー」


「やっぱり何か手伝わせて。おとなしく座ってるだけなんて、手持ち無沙汰でしょうがないよ」


 そう言って一哉が立ち上がるのを、おやと思いながら見やる。そういえば就職前は家ではウェイターのバイトをしていたというから、ただ待っているのは性に合わないのかも知れない。


「じゃあ、食器を出していただけます? 前に一緒に買ったヤツ。どこにしまってあるかまでは、私にはわからないんで」


「了ー解っ」


 カチャカチャ…と音を立てて、背後で戸棚から食器を取り出す気配。料理をしている最中に、そんな音を聞いていると、まるで…。


「まるで夫婦にでもなったみたいで、何か照れるね」


 いくらか照れたような響きを隠しもしない一哉の声に、考えていたことをずばり言い当てられたような気がして、思わずびくりと身を震わせて持っていたお玉を落としてしまう。


「あ…や、やだ、一哉さんてば、何言ってるんですかー。あー、びっくりした」


 できるだけ何気なさを装いながらお玉を拾って、床に垂れた汁を拭きとって、流しで水を出してお玉を洗う。テーブルに食器を並べ終えた一哉が、背後にぴたりと寄り添ってきたので、唯の心臓が大きく高鳴った。


「もしかして…唯ちゃんも同じこと考えていたりした……?」


「…っ」


 そんなこと、恥ずかし過ぎて答えられるはずもない。唯の顔が、かあっと熱を帯びる。


「いつか…ホントにそうなれるといいね」


 ちゅ…っと音を立てて、温かくて柔らかい何かが首筋に触れた。それが何かなんて、唯には訊かなくてもわかっていて──────。


「も、もうっ 一哉さんてばっっ」


「あはは、ごめーん、首筋まで真っ赤になってて、あんまり可愛かったもんだから、つい」


「もう……」


 そんな風に無邪気に?あっけらかんと笑われてしまうと、もう怒れなくなってしまうのは、惚れた弱みというものだろうか。


 できた順に料理を盛り付けてテーブルに並べていくと、一哉が目に見えて顔を輝かせ始めた。これぐらいの料理、実家でいくらでも目にしていて、かつ食べてもいただろうに…それをそのまま伝えると、一哉は真剣な顔でぶんぶんと首を横に振った。


「やっぱり全然違うって! 家や店で見てたのは、あくまでも職人の仕事の結果、もしくは延長であって、こんな風に愛情たっぷりの温かみのあるご飯とは違ったんだからっ」


 「愛情たっぷり」って…それはその通りだけど、どうしてこうてらいもなくそういうことを口にできるのだろう。


「思えば、あの頃からずっと唯ちゃんとこうしたかったんだと思う。あの頃は自覚なかったけど……こうして実際にその状況になってみると、やっぱりそうだったんだなーって」


 唯はもう、何も答えられない。何故なら、既に顔どころか全身が熱くなって、何を言っていいのかもはやわからなかったから。


「と、とにかく、冷めないうちに食べてください……せっかくお弁当と違って、出来たてなんですから」


「あ、そうだね、じゃあ遠慮なく。いただきまーすっ!」


 一哉のまるで子どものような声に促されて、食事は始まった…………。



 その後。


 食事の間中、ずっと「美味しい」と連発していた一哉は、食事が済むや否やさっさと片付けを始めて、手伝おうとする唯には一切手をつけさせることなく終わらせて、そのまま唯をリビングへと引っ張っていった。


 そしていまは、唯が持ってきたDVDをふたりで観賞している訳だが、その体勢が問題だった。


「あ、の…一哉、さん…?」


 顔をテレビ画面に向けたままの唯が声をかければ。


「ん? 何?」


 背後で同じようにテレビ画面を見ていた一哉が答える。ソファでなく、カーペットの上に直に座っている唯を、同じように座っているみずからの脚の間に引き入れて、ご丁寧に逃げられないように両手を唯の腹部のあたりで軽く組み合わせながら。


「な…何で私たち、こんな体勢になっているんですか……?」


「んー、そうしたいから?」


「す、すごく恥ずかしいんですけど……」


 そう。見ているDVDの内容が、まるで頭に入ってこないぐらいには。


「だってさ」


 そこで、唯の長い髪の香りを楽しむかのように、一哉が髪に顔を埋めてきたので、唯の心臓がまた一層大きく高鳴った。


「会社じゃ単なる先輩後輩の付き合いしかできないし? 休みの日、それも他の誰の邪魔の入らないところでくらい、ちゃんと彼氏彼女として向き合いたいじゃん」


 そ、それはそうなのだけど。この体勢は、どうかと思うのだが……。


「これ以上は何もしないから、まあ安心してDVDを見ててよ」


 安心してと言われても……ドキドキしてしまって、それどころではないと思いつつ、何度も見たDVDを見ているうちに、少しずつ眠気が忍び寄ってきて。そういえば昨夜は、何を作ろうかとか、初めて訪れる一哉の部屋はどんな感じだろうと考えていて、なかなか寝付かれなかったことを思い出した。そうして、気付かぬうちに自分の身体を支えられなくなって、一哉の腕に肩や頭をあずけていつの間にかうたた寝をしてしまっていて…。それに気付いた一哉に、苦笑い混じりの呟きを口に出されたことを、唯はまるで知らなかった。


「確かに『何もしない』って言ったけど……男の部屋で、その腕の中で、こうも無防備に寝られちゃうと…自信なくしちゃうな、俺」


 そのまま抱き上げられて、ソファの上に横たわらされて薄い上掛けをかけられたことにも、まるで気付かないまま。ようやく目を覚ましたのは、三時のお茶用に作っておいたゼリーと飲み物をすっかり用意されてからだった。


「えっ 私、寝ちゃってました!?」


「すごく気持ちよさそうに寝てたから、起こすのはしのびなかったんだけど……せっかく作ってくれたおやつを食べ損ねたら可哀想かなと思って起こしちゃった。ごめんね?」


 くすくす混じりで言われた時は、唯はもう顔から火が出るかと思った。生まれて初めてできた「彼氏」の、やっぱり初めて訪れた家で、いくら睡眠不足だったからといって眠ってしまうなんて!


「昨夜、あんまり寝られなかったんだろ。朝から何となく眠たそうだったし」


「そ、それは…!」


「まあ、それくらい俺のそばでリラックスしてくれてるんなら、こっちも安心だ。昔もそうだったけど、最近までの唯ちゃんは、一緒にいるとやっぱりどこか緊張してる風だったし」


 それは、最近もそうだけど昔も無自覚なままで貴方を意識していたからです、なんて、唯にはとても言えなくて、顔を赤らめるしかできなかった。


「それより、高遠の淹れたものにはかなわないけど、紅茶も淹れたし、おやつにしよう? 唯ちゃんの作ってくれたゼリー、すごく美味しそうだし」


「いえ、私こそ、高遠さんや一斗さんにはかないませんけど…!」


「でもありあまる愛情は入ってるんでしょ?」


 ああ。やはり、一哉には勝てないなと思いながら、唯はそっと立ち上がった…………。


 余談ではあるが、翌日藤子の誘導尋問にひっかかって事の顛末をもらしてしまった唯が、藤子に「唯ちゃんらしいわ」と大笑いされたことは、また別のお話。




       *     *      *




 そして、すっかり夏も終わり、季節が完全に秋を迎えた頃。


 一哉の運転でドライブにでかけた唯は、休憩のために寄ったサービスエリアで、一哉が感慨深げに木々を見ていることに気が付いた。


「秋の樹がどうかしました?」


「え?」


「ずいぶん熱心に見ているようだったので、何か想い出でもあるのかと思って……」


「想い出…あるといえばあるかな。中高生の部活って、三年生はたいてい夏ごろ最後の試合を終えて引退するだろ」


「そういえばそうですね」


 遠いといってはまだ早いかも知れないが、高三の頃の臨時マネージャーの日々を思い出しながら、答える。唯たちの学校のサッカー部はキャプテンの野村の頑張りもあり、最後の大会も順調に勝ち進んでいったのだが。この試合で勝てればベスト8に入れるというところで、惜しくも勝利を逃してしまったのだ…。


 飲み物を買って、再び車に乗り込んだところで、一哉が再び口を開く。


「…真央だけじゃなく、唯ちゃんの臨時マネージャーの仕事も終わって…もう、送る必要もなくなって、何してもいい時間が戻ってきたってのに、ふと気付くと何だか淋しさを感じている自分がいたんだ。あの時は、単に手持ち無沙汰になったからだと思ってたけど、いまならわかるよ。俺はあの時、もう唯ちゃんに逢えなくなったのが淋しかったんだ」


 言いながら、一哉はエンジンをかけて、再び車を発進させた。


「あの時既にハタチも越えてたってのに鈍いよな。まるで初恋みたいに、いまごろになって気付くなんて──────」


「わ、私も…っ」


「え?」


「私も、同じこと思ってました……夏も終わってしまって、受験勉強に専念しなきゃいけないっていうのに。そんなこと、考えてる場合じゃないのにって…」


 恥ずかしかったけれど。一哉も恐らくは誰にも話していなかったに違いない内心を吐露してくれたのだ、自分もちゃんと伝えないといけないと思ったのだ。


「…惜しいな」


「え?」


「いま運転中でなかったら、唯ちゃんを力いっぱい抱き締めて、絶対離さなかったのに」


 本気にしか聞こえない横顔に、唯は冗談めかして返すこともできなくて、俯いてしまう。


 そうして、一哉がずっと内緒にしていて教えてくれなかった目的地に着いたらしく、車は他に何台か駐まっている駐車場に入っていった。ラインの内側に綺麗に駐車して、唯のほうを向いた一哉がこくりとうなずく。


「ここ…ですか?」


「うん、そう」


 一哉の誘導に従って進んでいくと、歩きやすいように均された地面と柵が目に入る。大々的な観光地という感じではないし、聞いたことのない地名だった。とりあえず、他にも観光客?はいるようだが、ここにいったい、何があるというのだろう。


「逢えなくなってから、友達に連れられてきたとこなんだけど、何だか妙に心惹かれてさ。たまに、ひとりで来てたりしたんだ。あ、そこ段差あるから気をつけて」


 一哉に手を差しのべられて、半ば無意識にその手にみずからの手を重ねながら、いつの間にか自然にそういうことができるようになった自分に軽く驚いてしまう。最初は、指が触れ合うだけでもいっぱいいっぱいだったのに、少しずつ一哉との距離が縮まってきて……こういう風に、少しずつ近付いていければいいなと唯は思う。


「着いたよ」


 言われて顔を上げると、いまだ瑞々しい木々に囲まれたあまり大きくない湖が視界いっぱいに飛び込んできた。大きくないといっても、それは有名な観光地にある湖などと比べればの話で、一般的な目から見れば十分大きく見えるものだった。


「ここさ、水の色があまり深い色でなくて、何だか爽やかな印象を受けるだろ。秋本番になれば紅葉とかも手伝って、もっと深みのある色合いになるんだろうけど、まだいまごろの季節は爽やかな印象のほうが強くない?」


 一哉の言う通りなので、唯はこくこくとうなずく。季節はもう秋といってもいいぐらいなのに、この場所はまるで春夏で時間が止まってしまったかのように瑞々しい木々の葉の色に彩られて、少々夏の疲れを残していた心身を癒してくれるような気がする。


「綺麗……そんなに遠くないのに、こんなとこ全然知りませんでした」


「これも最近になって気付いたんだけどさ。俺にとっての唯ちゃんって、ここと同じ印象なんだよな。いつでも爽やかで瑞々しくって、疲れてる時でも優しく癒してくれるっていうか」


 自分が感じていた印象とまったく同じことを一哉が思っていたことにも驚きだが、こんな素敵な場所と自分を同列に語られるなんて思ってもみなくて、唯は気恥ずかしさで心がいっぱいだ。


「そ、そんな、私なんて…」


「こーら、前にも言っただろ、自分を貶めるようなことは言わないようにって」


 軽く額を指でつつかれて、思わず「ごめんなさい」と呟いてしまう。


 それから一哉は一度視線を湖に戻してからこちらを向いて、再び口を開く。


「……一度は離れちゃったけどさ。また出逢えた縁を、俺は大事にしたいんだよね。これからは、また何かあったとしても、ずっと俺のそばにいてくれるかな」


 それは、唯も思っていたこと。あの頃は、気持ちを何ひとつ伝えることができずに離れてしまったけれど、今度は素直な気持ちになって、ずっとずっと一哉と一緒に歩いていきたいと……そばにいさせてほしいと、伝えたかった。


 ちゃんと言葉で伝えたいのに、想いは声にならずに、透明な涙となってあふれだす。姿は見えないけれど、きっと他の車の主たちも近くにいるだろうに、止めることができない。こくこくとうなずくことしかできない唯を、一哉は満足気に見下ろして、みずからのポケットの中をまさぐって、陽光に光る何かを取り出した。


「剥き身のままで申し訳ないけど、包装したままじゃ唯ちゃんはきっと遠慮しちゃいそうだから。このままで、俺につけさせて?」


「えっ ええっ!?」


 訳がわからないまま、自分の背後に回った一哉を振り返ろうとするが、優しいけれど有無を言わせない手に抑えられて、前を向くことしかできない。そうこうしているうちに首の後ろで何かが留められたような音がして、首元にそっと下りてくるのは陽光を浴びて輝く青い石…………。


「ちょっと早いけど、誕生日おめでとう。真央がわざわざメールで教えてくれたんだ」


 確かに唯の誕生日はもうすぐだったけれど…遠慮してきっと誰にも言わないであろうことも、真央にはお見通しだったということだろうか。ではこの綺麗な青い石は、もしかして……。


「これって…!」


「そ。唯ちゃんの誕生石のサファイア。きっと似合うと思って、内緒で用意してたんだ」


「そんなっ こんな高価なもの、とてもいただけませんっ」


「いいんだって。俺が、贈りたかったんだから。その代わりといっちゃ何だけど、ちゃんとお礼ももらうから、心配しないでいいよ」


 言い終わるとほぼ同時に、近付いてくる一哉の顔───────。


 一瞬何が起こったのか、唯にはわからなかった。


 え……いまのって、もしかして、もしかしなくても─────!?


 首元を飾る青い石とは対照的に、一気に真っ赤に染まる唯の顔。もう、何も考えられない。


「あはは。笑っちゃ悪いけど、いまの唯ちゃん、リトマス試験紙みたいだよ」


「もうっ 一哉さんっっ」


「だけど、やっぱり思った通りだった。唯ちゃんとなら、俺は腰痛持ちにならないで済みそうだよ」


 その真意に気付いて、顔がますます熱を帯びてしまう。以前言われたことを思い出したのだ。


「……これからも、ずっと一緒にいてくれるかな─────?」


 そういえば、さっき言われたことにちゃんと返事をしていなかったことに気付き、唯はもう一度深くうなずいてから、再び差し出された手に自分の手を重ねる。


「はい……ずっとずっと…一哉さんの、そばにいます………………」


 それに返るのは、愛しいひとの満足そうな笑顔…………。



──────かつて、一度は離れてしまったお互いの道だけど。これからは、ずっとずっと、同じ道を歩いていきたい。他の誰でもない、あなたとふたりで………………。





               〔終〕

最後はやはり、未来への約束で締めたいと思い、こうなりました。

過去から始まったふたりの恋。これからは、未来に向かってふたりで歩いて行くのでしょう。誰にも見せない素顔を、お互いにだけ見せながら……。

ここまで読んでくださって、ほんとうにありがとうございました!

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