道中
僕たち――赤石兄弟の家は少し田舎にある。
とは言っても、田園畑があるとか、山があるとかそう言うことではない。
近くの住宅地から少し離れた場所にあるだけなのだ。
そこから近くの商店街へは長い下り坂が続いている。
――兄ちゃんは、特にこぎもせず、ペダルの上に足を乗せたまま、その道を普通の速さで走っていた。
その間、終始無言。
なんだか拷問されてる気分になってきた。
「……おい。」
その沈黙を破ったのは、意外にも、兄ちゃんからだった。
「な、何?」
「あれから……なんか、変化あったか?」
「うーん……今のところ目立つような事はない……かな。」
「目立たないような事はあったのか?」
「え?……あぁ、うん、実は……。」
実を言うと、先ほどから――今朝から、兄ちゃんの顔が直視出来なくなっていた。
何故か、見てしまうとドキドキしてしまう。
僕は素直にその事を伝えた。
「そうか…。」
後ろに座っているので、顔は見えないが、兄ちゃんはそう答えた。
そして―――キィーッと言う音とともに、自転車が急停止した。兄ちゃんが急ブレーキをかけたのだ。
「うわっ!?」
慣性の法則に従い、僕の身体は自然と兄ちゃんに寄りかかる形になる。
「兄ちゃん!?……ど、どうしたの!?」
慌てる僕を差し置いて、兄ちゃんはこんなことを聞いてきた。
「今、どんな気分だ?」
「……え?」
「だから、今どんな気分だって聞いてんだよ。」
「いや、普通に驚いたけど…。」
「他には?」
「ほ、他?…えーっと……すごく、ドキドキした…気がする。」
寄りかかった時に、心臓が締め付けられるような……そんな感覚がした。
「そうか、わかった。」
そう言う兄ちゃんに対し、僕は――
「……ひとりで納得されても解らないよ。どういうこと?」
「…お前はまだ知らなくていい。」
兄ちゃんは再びペダルをこぎ始めた――。