夏風邪
夏休みは二週間。少ない休みを存分に楽しもうと思っていた夏休み初日。酷い咳きで目が覚める。
「うっ……風邪かなぁ。最近冷えてるし」
近頃の温暖化の影響か、なかなか気温が安定せず、暑かったり寒かったりな日が多かった。
「風邪薬、風邪薬っと……」
兄ちゃんは、妙な薬も開発するが、一応ちゃんとした風邪薬などの薬も開発する。
ただ、開発した薬は、ビンごとに分け、まとめて一つの棚に保管されているので、きちんとラベルをみないとわからない。
「確か、最初の文字がSで最後がEの……これだ」
小さなビンを見つけ、中から錠剤を取り出す。
「あれっ、1個しかない……まぁいいか」
それを手に、食器棚からコップを取り出し、水を汲んで錠剤と一緒に流し込む。
いつもの事だ。
すると「おい」と、声がした。
振り返ると、僕の1歳上の兄がいた。
現在の僕と兄ちゃんの関係には、かなり溝ができている。
「な、何?兄ちゃん」
兄ちゃんは、僕がテーブルに置いた薬のビンを持ち上げると、ラベルを見て――
「……お前、これ飲んだのか?」
「うん。…それ、風邪薬じゃないの?」
「……ま、いいか。その様子だと失敗みたいだな」
「え?どういうこと?」
「別に」
最近では、挨拶だけで1日の会話が終了することもあった。だからこんな会話は物凄く珍しい。
(……どうしたんだろう、兄ちゃん…)
僕は身体を休めるために部屋に戻った。
部屋に入り、ベッドに横になる。
今日一日は身体を休めることにしよう。
「……それにしても、暑い…」
さっきまで風邪のせいで体温が上がっているのかと思ったが、どうやらそれだけではないらしい。
「薬の効果かな……とりあえずもう一回寝よう…」
目を閉じるが、なかなか寝付けない。それどころか――
「水……」
さっきからのどが乾く。水分はたっぷり取ったはずなのだが…。
意識も朦朧としてきた。
壁づたいにキッチンへ歩く。
蛇口に手を伸ばそうとした――その時。
「うっ……!?」
急に心臓が痛くなった。
(なに……これ…!?)
息が苦しい。ドキドキする。身体が熱い。こんな経験初めてだ。
膝の力が抜けてその場に崩れる。
「う…うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!!」
僕は叫びながらその場に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えの中、ふと、誰かの足が見えた。
顔を上げてその人物を確認する。
「……兄…ちゃん…」
兄ちゃんは少し驚いた顔でこちらを見下ろしていた。
僕は身体を起こしながら訪ねる。
「……兄ちゃん、今何が……あれ?」
自分の声が普通以上に高いと言うことに気がついた。
兄ちゃんはしゃがんで僕と目線をあわせ、こう言った。
「……鏡、見てこい」
(か、鏡?なんでこのタイミング?)
僕は立ち上がり、フラフラしながらも洗面所まで歩いた。
そして、自分の姿を確認する。
そこにいたのは――
髪の長い、綺麗な少女だった。
(……誰?)