蹴られた痛みは引かない
「まったく、従姉妹にまで手を出すわけ! アンタは!」
「ほんと、ゴメンナサイ………でも、それは誤解……」
登校中、いまだに痛む右足のすねをさすりながら美優の隣を歩いている。
たいそうご立腹のご様子の姫をどうおさめたものだろうかと、俺は頭を悩ませていた。
一メートル程後ろを歩いている亮に目線で助けを求めると、「俺は知らねえ」みたいに目をそらされた。友達甲斐のないやつである。
「明菜ちゃんも、明菜ちゃんよ! こんなケダモノの布団に忍び込むなんて、危険すぎる!」
ケダモノとはたいそうないわれようである。
「なあ、美優。悪かったって。そろそろ機嫌直してよ。な? 栗崎屋の栗まんじゅうおごってやるから」
「………………」
「3つ」
「5つ」
「う…………分かったよ。今度の日曜、買いに行こう」
俺が美優の条件にしぶしぶ頷くと、美優はやっと怒った顔を崩してくれた。
「そ。じゃ、今回は許してあげる。今度の日曜、買い物にも付き合って」
「え。それは……」
「イヤなの?」
「……いえ。つき合わさせていただきます……」
美優のじとっとした眼に俺は頷くことしかできなかった。
「弱いな。お前」
「う。仕方ないじゃないか……」
「結婚したら絶対奥さんの尻に敷かれるタイプだよな」
「………否定できない」
「それにしても、明菜ちゃん。積極的だな…… 私も、もっと積極的になった方が……」
「ん? 美優、何か言った?」
「え!? い、いや。なんでもないよ!」
「……そっか」
何かぶつぶつと呟いていた気がするのだが……気のせいか?
「それにしても、明菜のやつ、変わったな」
「え? そう?」
「う~ん。大人っぽくなったっつうか」
俺がそういった瞬間、後ろで、亮の「あ、バカ……」という呟きを聞いた気がした。
「ふ~ん。そう。従姉妹の事、そんなえっちな目で見てたんだ」
「うぇ!? い、いやそういう意味でいったんじゃなくて………」
「じゃあ、どういう意味よ!」
まずい。せっかく美優の機嫌が直ったと思ったのに、また怒らせてしまった。
なんでだ? 今いち、美優の怒りのポイントが分からない。
そして俯かれてしまった。
「なによ。私に会った時はそんなこと言ってくれなかったくせに……私だって、胸おっきくなったんだから」
結局俺は、美優に機嫌を直してもらう代償に、次の日曜、映画にも付き合うことになってしまった。
昼休み。俺と亮は弁当を持ってC組を訪れていた。朝の件を改めて謝るためでもある。
美優の席へ近づくと、昨日も会った美優の友達がまた談笑していた。
「あ、ども」
「おっす」
俺と亮はそれぞれ声をかけ、それぞれ近づいていく。
「あ、やっほ~。小日向君、香田君」
「や」
「こんにちは」
えっと、確か……左のショートカットの活気的な女の子が嵐山涼子さんで、真ん中の茶髪のセミロングの人が弓野杏子さんで、右の眼鏡をかけた委員長が松山信子さんだったかな。
「昨日はごめんね嵐山さん、弓野さん、松山さん」
「あ、もうさっそく覚えてくれたんだ~。よろしくね~小日向君」
「ウチらは全然気にしてないよ」
「ちょっとびっくりはしましたけれど……」
もうすでこの三人は昨日の事は気にしてないみたいだ。
「それにしても~ 小日向君、美優の幼馴染なんだって?」
「え、うんまあね」
「いつから?」
「家が近くて……幼稚園のころから」
「どうして、東京にいかれてたんですか?」
「親の仕事の都合でね」
が、三人は矢継ぎ早に質問してくる。そんなに俺が珍しい存在なのかな。
と、弓野さんが俺の顔をじ~っと見つめてくる。う、なんか恥ずかしい。この三人、みんな可愛いんだよなぁ
「なるほどね」
「?」
「美優って可愛くて、告白もけっこうされてるはずなのに誰とも付き合わないからおかしいとは思ってたんだけど…………」
「納得ですね」
「男に興味がないのかと思いきや! その実態は一途に一人の男を思い続けてるんだね~ ふふふ」
「ちょ、ちょっと三人とも! 何言ってんのよ!!」
美優が慌てて三人の口をふさいで、止めようとしてるけど……無駄じゃないかな。
「ふふふ。美優ったら、顔真っ赤にして、可愛いー!!」
「なっ!」
「美優。応援してますよ」
「うんうん、がんばれ~」
「う、うわぁぁぁ………」
美優はすっごく嫌そうな声をだして机につっぷしてしまった。
「ねえ、小日向君! 今、好きな人いる?」
「え? いや、いないけど……」
「好きなタイプは~?」
「……特にないかな」
「彼女欲しい願望はないんですか?」
「そりゃあ、いたらいいとは思うけど………」
何というか……俺はこの三人の女気に思いっきりあてられてしまったようだ。
俺は昼休み終了の予鈴とともに、三人に笑顔を持って、送られてしまった。




