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恋愛生活  作者: 夢見
1/6

ただいま、美優


 俺、小日向悠也(こひなたゆうや)は高校二年の春。下田に戻ってきた。

 中学卒業とともに、親の転勤で東京に行くことになった。東京の暮らしを結構楽しかったし、何より便利だったけど、俺にとっては静岡の空気の方が性に合った。












 俺が転入することになったのは『私立 風切高等学校』。

 始業式の日、先生に呼ばれるまで俺はB組の廊下で待っていた。

 


「どうぞ、入って」


 先生の呼びかけに、ガラガラと引き戸を開けて教室に入る。クラス全員の視線が自分に向いていると思うと、緊張する。


 先生に促され、自己紹介するように言われる。


「え~っと。小日向悠也と言います。東京から来ました。中学までは下田にいて、一年間親の仕事の都合で東京に行ってました。だから生まれも育ちも下田です。えっと……よろしくお願いします」


 パチ、パチ……とまばらな拍手が起こる。













「悠也! 久しぶりだな!」

「おう! 亮! 一年ぶりだな! つうかお前もこの高校だったんだな」

「まあな。っつうか、一年間まったく連絡寄こさねえで……友情薄いぜ?」

「ゴメンゴメン。色々忙しくて……」


 昼休み。俺に話しかけてきたのは、昔馴染みの香田亮(こうだりょう)

 小、中と一緒で、東京に行っても連絡すると約束したのだが、まったく音信不通になっちまった。

 ちょっと悪いことしたかな……


「フン、どうせ東京の暮らしが楽しくて、俺らの事なんて忘れちまったんだろ」

「そんなわけないだろ。………ゴメン」

「嘘嘘。冗談だって。でも、あいつにも挨拶してやれよ」

「あいつ?」

「井口」

「井口…………って美優(みゆ)か!? あいつもこの高校なのか!?」

「ああ」


 井口美優は俺と亮の昔馴染みで、中学にいた時は、俺と美優はすごく仲が良くて、東京に行くといった時は、泣かせてしまった。最後は納得してくれて、笑顔で送ってくれたけど……


「悠也。井口はC組だ。行こうぜ」

「あ、ああ………」


 美優に会えるのはもちろん、嬉しい。でも、俺はどんな顔をして会えばいいのだろうか。


 亮の後に続いて、C組に入ると、……いた。

 教室の一番左後ろ。窓際の席で、友達と談笑していた。セミロングの黒髪に華奢な体。笑うとできるえくぼも、一年前と何ら変わっていなかった。


 「井口」

「あ、亮。どうしたの? 後ろにいるのは、友達?………」


 美優が亮の後ろ。つまり俺の方を覗きこんだとき、ばっちり眼があった。

























 「…………悠也?」

「久しぶり、美優」

 俺は少し気まずくなって俯いてしまった。


 「悠也。帰ってきたの……?」

「うん。ただいま、美優」

「………………………一年、一年間。ずっと、ずっと……」


 美優は俯いたまま、声をくぐもらせている。

 まずい! このままだと、このままだとまた泣かせてしまう。


 俺はとっさに美優に駆け寄って、肩を支えるようにする。

「ごめん。ごめん、美優。…………ただいま」

「…………うっ……っ………おかえり、悠也」






















 「えっ、じゃあお前独り暮らしなのか?」

「まあね。気楽でいいよ」

「ちょっと羨ましいね」


 帰り道。三人で帰る一年ぶりの帰り道だ。

 あの後、美優の友達には、「突然ごめんね」と謝ったら、「全然気にしないで」と言ってくれた。なぜか、とってもニコニコした笑顔とともに。


 「東京はどうだった?」

「うん、まあ楽しかったよ」

「やっぱ、空気は汚いのか?」


 しばらく俺は2人に東京の出来事をしゃべって聞かせた。

 

 話がひと段落すると、亮が途端にニヤニヤしだした。

「悠也~。お前、東京で女つくってないだろうな~」

「えっ? まさか。俺が相手にされるわけないじゃん」

「いや~。お前の事だから、悪い女に引っかかったりして、一人大人の階段を上っちまったのかと……」

「……まったく。しょうがないなあ、亮は……ねえ、美優……!?」


 美優の方をみると、大変ご機嫌斜めの様子で、眉をよせてじと~っとした眼を俺に向けていた。


「あ、あの、み、美優さん? 何をそんなに……」

「本当なのね」

「え?」

「本当に、彼女も作ってないし、悪い女に引っかかってもいないのね!?」


 すごい剣幕で迫ってくる。

「あ、ああ、っていうか。俺がモテるわけもないんだから、そんなことあるわけないだろ」

「フン、ならいいのよ」


 美優はプイッとそっぽを向いてしまう。


「な、なあ亮。なんで美優あんな怒ってんだ?」

「……………お前の鈍感ぶりも相変わらずだな」


 はぁ~とため息を吐かれてしまった。

 鈍い、だろうか俺は。











 「2人とも、この後俺の家にこない? お土産の浅草の和菓子があるんだけど?」

「ホント!?」


 俺のこの台詞に真っ先に反応したのは美優だった。相も変わらずの和菓子好きだな。


「ああ、美優和菓子好きだろ? 浅草と言えば本場だし、喜ぶんじゃないかと思って」


 美優にニコッと笑ってやる。

「……………ずるい」


 美優がそっぽを向いて何事か呟いたが、よく聞き取れなかった。


「はぁ。この鈍感天然女たらし野郎が」


 後ろでは亮も何事か呟いていた。

新連載です。何とぞよろしくお願いします。

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