第9話・絶体絶命からの覚悟
「それじゃ、作戦を説明するわ」
3人とも休息を取り、ボス部屋攻略のため作戦を立てる。
と言っても、出てくるボスは大体予想がついている。
『マトルケーブ・ワーム』の上位種、『ヒュージケーブ・ワーム』、もしくは『メタルケーブ・ワーム』だと考えられる。
「と言っても、この2体なら、現状の戦力でも何とかなるって言う希望的観測なんだけどね」
「希望的……ということは、出たら勝てない場合もあるってことですか?」
「そうねこの2体のさらに上位種の『ハイドラ・ワーム』が出てきたら、流石に手に負えないわ。だからって、何も考えないわけじゃないけどね」
「はい」
つまり出てきたら終わりということだ。
自分たちが手に負える相手と言われた2体のワームはそれぞれ特徴がある。
前者のヒュージケーブ・ワームはとにかくでかい。
小さいものでも約30mほどで皮膚の硬さはマトルと変わりはないが巨大なため体内の弱点を狙いにくい。
後者のメタルケーブ・ワームはその名の通りとにかく金属のように固い。
大きさは、2~4mほどだが、並の攻撃では皮膚が跳ね返してしまう。
「もし、メタルが出てきたら……」
こうして、先輩は僕たちに作戦を伝えた。
***
作戦会議を終えた僕たちは淡い光を放つボス部屋への扉の前に立っていた。
「ボス部屋の内装は私たちにはわからない。身を隠す場所もあるかもしれないし、ただの箱みたいな場所かもしれない。だけど、わかるのは入ったら出られない。生きるか死ぬかよ」
「……わかってます」
「私はここで死ぬ気はないです。勝って、帰ります!!」
「いい返事ね……それじゃ、開けるわよ」
恐れはあった、だがそれと同時にこの場には恐れに負けるものもいなかった。
先輩は僕たちを一瞥した後、先頭に立ってボス部屋の扉を開けた。
***
そして、真っ先に目に入って来たのは天井に張り付く普通のケーブ・ワームとそう変わらないものの、水色の鱗を付けたワームだった。
「……あぁ、私こういう運ないのかしら?」
「か、鑑定しなくてもわ、わかります……」
「……」
悲観する者、恐れる者、警戒する者、三者三様であったがその対象はこれまでの魔物とは圧倒的に異なる覇気を纏っていた。
「『ハイドラ・ワーム!!』」
その名はハイドラ・ワーム、マトルやメタル、ヒュージを超えるワーム種の中でも上位に位置する存在であった。
「ッ、プランEよ。水弾がすぐに来るわ。アポロ!何発か迎撃できるか確認したら隠れるわよ!」
「はい!!」
ボスを確認してすぐ身を隠せる場所がないかと周囲を見回す。
ボス部屋の中は、壁には2mほどの穴ぼこだらけの部屋になっていた。
もちろん、僕たちは問題なく中に入ることができるが気がかりなのはワームも入ってこれてしまうという事だった。
「Fillllllllllll!!」
「来るわ!」
だが、そんな危険を気にする余裕はない。
天井を這うハイドラ・ワームはだらんと己の頭を垂らし、口を大きく開けたかと思えば咆哮し、直径2mほどの水弾を雨のように降らせてくる。
「ッ!【パワーアロー】」
その大きさに背筋を凍らせながらも、冷静に水弾の中心を狙った1射を放つ。
パワーアローで強化された1射が水弾を射抜いたかと思えば爆散し、視界が塞がれる。
「今よ、穴に飛び込むわ!」
先輩の呼び声と共に僕たちは急いで横穴に飛び込む。
その直後に、背後からは水が落ちて来たとは思えない鈍い音が鳴り響いた。
「あれって、もしも当たったら……」
「死ぬわね。間違いなく、でもアポロの矢で十分迎撃可能だったのはラッキーだったわ……と言っても、相手が天井にいると私は厳しいわね」
先輩のスキルトゥ・ノースはあくまで北側に力を加えるスキルのため、相手が高いところにいる場合は効果が薄い。
遠距離を持っているのは僕とプロンさんだが、あの水弾の前にはまともに攻撃できない。
「だけど、私たちには横穴がある。ここで待っていればハイドラ・ワームが降りてきたりしないかしら」
その時、ハイドラ・ワームが落とした大量の水弾によって横穴が揺れ、足元が徐々に浸水し始めている。
「横穴が崩れるか、水で満たされるのが先ですよ!!」
「やっぱり、そうなるわよね……この横穴、どうやら先は続いていないみたいだし、アポロが迎撃しながら上に上がっていくしかないわ」
「責任重大ですね。でも、それしかない」
理論上は、僕が飛んでくる水弾を全て防げば次の横穴へ行ける。
それを繰り返していけばハイドラ・ワームの喉元に迫り、倒すことができる。
「そ、それって……もし、アポロさんが水弾を防ぐのを失敗したら……」
「全員死ぬわ」
嘘は言わない、あの水弾を食らえば人間の体なんてすぐにバラバラになって死んでしまう。
だからと言って、動かなくてもいずれ死ぬ。
ここから、何とかできるプランがあればいいが、残念ながらプランEはとりあえず隠れて作戦を考えるというものである。
「……アポロ、行けるかしら?」
先輩は神妙な口調で、僕に覚悟を問いかけてくる。
迷っている時間はない、拒否権なんてそもそも存在しない。
「行きます」
生きるか死ぬかの命運は僕の腕に託された。
***
「WILLLLLLLLLL!!」
僕たちが穴から少し顔を出したその瞬間、待ってましたと言わんばかりに咆哮を上げる。
そして、水弾が何発も僕たちの元に落下してくる。
「【パワーアロー】【セカンドアロー】……それと【フリーズアロー!!】」
最初に放った一射が水弾を打ち砕く、だがセカンドアローを使ったところで矢は後ろの水弾に当たらない可能性がある。
そのため、フリーズアローで慣性を残したまま空中に固定する。
「今のうちに!アロー行け!」
一射目で上がった水しぶきを突破しながら突っ込んできた更なる水弾に対し、フリーズアローを解除する。
すると、慣性を取り戻した矢は水弾に激突し再び水しぶきを上げた。
「ええ、行くわよ。プロン」
「はいっ!!」
合図と同時に2人も横穴から出て来て、少し上の横穴に飛び込む。
「ひ、冷や冷やしました……」
「同じく……」
「でも、お手柄よ。このまま行けば、いずれ私たちの攻撃が届くときが来るわ」
そっと息をつく、無理もない。
背後では水弾が地面に激突し、爆音を上げている。
その上、さっきまで僕たちがいた横穴はほとんど浸水して埋まってしまっているのだ。
「それじゃ、次行くわよ……ッ!?」
動き出そうとしたその直後、これまでとは比較にならないくらい大きな地震が起きる。
何事かと確認すればハイドラ・ワームが僕たちがいる横穴に直接水弾をぶつけてきているのだ。
「こ、これじゃ出れません!?」
「……やられたわね。水弾を絶え間なく落とすことを出入口を塞いでくるなんて、このままじゃいずれここも浸水して……あら?」
絶対絶命のピンチの最中、先輩が視線を穴の奥に向ける。
「空洞だ!?」
僕もつられてよく見ると、多少岩石で塞がれているものの向こう側に空間のようなものが見える。
すぐさま近寄ると少し崩せば十分通れる穴だとわかる。
「やった、これでしばらくは凌げますね!!」
「えぇ、アポロ。この岩の破壊をお願い」
「はい、【パワーアロー】」
水弾の激突による轟音を背景にしながら弓を引き絞り、一射を放つ。
矢は岩を打ち砕き、向こう側への道を作り出した。
「私が先に行って見てくるわ……!!」
「「はい!!」」
僕たちの心は一致していた。
どうか、上の横穴に繋がっていてくださいと、下に繋がっていた時点で僕たちの敗北が濃厚になる。
最初に空洞に入った先輩は結構広い空間に驚きながら真っ先に上を見上げると光が差し込んできているのが見えた。
「プロン、アポロ。敵はいないわ、入ってきて大丈夫よ。それに……上に繋がってるわ!」
「本当ですか!?」
「やった!」
水弾は鳴りやまず、既に僕たちの足元にも水が溜まり始めていたので歓声共に胸を撫でおろす。
こうして、僕たちはさらに上の横穴に入り込むことができた。
「それで、ここからどうするべき……なんですかね」
視線を向けるのは水弾が絶え間なく降ってきている外だった。
降り始めてから数分くらいは経ったはずなのに無尽蔵のスタミナでもあるのかって考えてしまうほど振り続けている。
「うーん、絶え間なく落ち続けていると顔を出せないから迎撃も難しいものね。どうにか、矢の軌道を変えたりできない?」
「無茶言わないでくださいよ。フリーズアローで矢の位置を止めることしかできないです。そうだ!プロンさんは鑑定で何か弱点とかを見えたりしないですか?」
「あれだけ水弾が降ってきている中、顔を出して魔物を見る必要があるので……難しいです」
外を見て、すぐに無理だとわかる。
まさに弾丸の雨の中、顔を出せば文字通りハチの巣になってしまうだろう。
だからと言ってこのままここにいてもいずれ浸水して水死体になるだけだ。
だが、それでも勝ち筋がないわけじゃない。
現在、奴は水弾をさっきまで僕たちのいた横穴に攻撃を集中し続けている。
この状況なら、僕が迎撃して次の横穴に飛び込むことができる。
その後は、その横穴に集中攻撃が始まるだろう。
だが、先ほどと同じように上へ続く穴があればそれを繰り返して上にたどり着くというわけだ。
「……なんて、勝ち筋が薄いどころじゃないわね」
「もう、いっそのこと天井を掘って上に進んだ方が良いかもしれませんね……」
「厚さは1m以上ですけどね…」
さっきの壁のように小さな岩石で塞がれているくらい脆い天井ならいいが触っている限りそうとは思えない。
「それこそ、ハイドラ・ワームが降りて来てくれれば……」
特に理由もなく視線を右往左往していると、横穴の出入り口に現れた巨大な魔物と目が合う。
間違いない、さっきまで天井を張り付いていたはずのハイドラ・ワームだった。
「WILLLLLLLLLL!!」
「……は?」
なぜ、ここまで接近を許してしまった。
その一点がアポロの思考を鈍らせた。
その答えは単純明快で、大量の水弾を落とし続けながらその爆音を隠れ蓑にしていた。
当然、水弾にビビっていた僕たちはワームの姿を確認せず、天井に張り付いているものだと錯覚していた。
そして、僕たちを視認したワームは大きな口を開け水弾を放とうとする。
「ッ!?水弾が来るわ、アポロ迎撃を!!」
「【パワーアロー】」
先輩の呼び声に鈍った思考が叩き起こされ、すぐに矢を番え迎撃の一射を放つ。
矢と水弾の激突によって破裂したような音が空洞を鳴り響いたかと思えば、巨大な水しぶきを発生させる。
その直後、横に立つ先輩が水しぶきを破りながらハイドラ・ワームに突っ込んでいった。
「……ごめんなさい、プロンを任せたわよ。アポロ。【トゥ・ノース!!】」
去り際の一言、それはまるで最後の言葉を言い残しているようだった。
そして、最後に一瞬だけこちらを振り向いた先輩の表情は申し訳なさと、覚悟、そして優しさが入り混じったようだった。
「先輩!!」
咄嗟に放った言葉も伸ばした手も既に遅かった。
「私ごと、落ちなさい!!【トゥ・ノース】」
先輩はトゥ・ノースを発動させ加速した体と共に短剣をハイドラ・ワームの眼球に突き刺し水の張った部屋の底に落ちていった。
「あ、アポロさん……先輩、先輩が!!」
あまりにも突然の出来事、急に足元がおぼつかなくなって、唇も震えて、頭が真っ白になって――
「……僕のせいだ、また僕のせいで」
生前見た、妹の最後が脳内をフラッシュバックしていた。
異世界メモ:ワーム種たち
ワーム種とは、魔王種の『スプリームハイドラ・ワーム』から派生した種類だよ。
特徴としては、とにかくでかいミミズみたいな姿をしていて上位種に成ればなるほど鱗みたいなものがつくらしいね。
ところで、もうすぐ一章が終わるので、一章が終わったタイミングでブックマークとか評価をしてくれると嬉しいな!!




