第8話・決戦までの休息
僕たちはあの後、洞窟内で焚火をするわけにもいかず、持ってきていた携帯食料を食べながら休んでいた。
一応、僕が下の敵を全て倒したことで出現したボスへの扉が少し光っているため光源には困らなかった。
「…ごめんなさいね。二人をこんなことに巻き込んでしまって」
すると、唐突にポラリス先輩がそんな心情を吐露する。
新人に声を掛けて、自己とは言え危険なダンジョンに新人冒険者を連れて来てしまったことに彼女は心の底から申し訳なく思っていた。
「仕方ないですよ。誰も、ここがダンジョンになるなんてわからなかったんですから」
「僕も同じです。それよりも、これからどうやって生き延びるか考えましょうよ、先輩!」
「プロン……アポロ……ありがとう、ごめん……私が弱気になってたわ」
無論、僕たちがポラリス先輩のことを責めるはずがない。
先輩は僕たちのことをずっと気にかけながら、冒険者としての経験を積ませてくれた。
こんなことになったとはいえ僕の中では先輩が恩人であることに変わりはない。
「……その、先輩はどうして僕たちみたいな新人冒険者に指導をしているんですか?」
少し沈黙が流れた後、唐突に気になった僕は先輩に問いかけた。
「唐突に聞くわね……でも、いいわよ。ここで黙っていても気分が落ち込むだけだからね」
「私も気になります!」
突然の問いかけに少し驚きながらもポラリス先輩は語り出した。
「これは元々、私があなた達と同じ新人冒険者だったころの話よ」
当時の冒険者という職業は特に成り立ての死亡率がとにかく高かった。
それは、今も大きく変わっているわけではないが、本当に10人に1人は死んでいるペースだった。
その原因として分不相応な依頼の受領や、周辺の魔物の増加、冒険者になるためのハードルの低さなどがあった。
「私のスキルのトゥ・ノースは頼りになるスキルだけど冒険者に成ったばかりの頃は難しすぎて何度も死にかけたし、戦い方もまだまだだったわ」
文字通り、初心者で粗削りだった彼女はある日、魔物との戦いでピンチに陥った。
「その時を助けてくれたのがカリストって言うプラチナランク冒険者だったわ。私は、あの人から冒険者としてのイロハを教わったわ」
旅先での交渉術、戦い方、魔物の解体のやり方、冒険者としての心構えなど数えきれないほどの物を彼女はもらった。
だけど、そうやって成長していくと相応に彼女の視野も広がっていった。
「やっと一人前になって気づいたの、私みたいな新人冒険者が次々に死んでいってる現状にね……最初は全然気づかないし気にも留めなかったわ」
ドライに聞こえるかもしれないが無理もない。
僕も正直見ず知らずの人間が勝手に知らないところで死んでいても、自分が生きることに必死でご愁傷さまですとしか思えない。
「もちろん、冒険者が自己責任であることは理解しているわ。だけれど、目の前で助けられる人がいて助けない理由はないでしょ」
「それで、私たちに声をかけてくれたんですね」
「ええ、先生が私を導いてくれたように今度は私があなた達を導いて見せる!……そのはずだったんだけどね」
だが結果的に、僕たちはダンジョンの奥底から出られなくなっている。
運が悪かったとはいえ、先輩の善意が完全に裏目に出た結果というわけだ。
「ちなみに、カリストさんって今は何をしているんですか?一度、会ってみたいです」
先輩の先生かと思いながら、それならぜひ会ってみたいと聞くが先輩の表情の少し影が落ちる。
「残念だけど、先生はもう……」
「っ、ごめんなさい。悲しい事を思い出させてしまって……!」
「いいのよ、先生は魔王種の魔物との戦いで死んだの。今はまだまだだけど私が冒険者をやっている目標の一つに先生を殺したその魔物を討伐する。って言うのがあるの」
「……魔王種?」
魔王はわかるが魔王種という常識にもないワードが出てきてつい復唱してしまう。
すると、横からプロンさんが解説を始めてくれた。
「アポロさん、魔王種と言うのは魔物の種族ごとに一体しか存在していない最強の魔物のことです。例えば、ちょうど私たちがいるこのダンジョンで出現するワーム族が属する種族の魔王は『スプリームハイドラ・ワーム』という魔物なんですよ」
「最強の魔物……かぁ、まさかそれがボス部屋に出てくるなんてないよね」
あのケーブ・ワームたちの進化系と言われれば大したことなさそうに聞こえるが最強と言うだけにきっと僕が想像するより何倍も恐ろしい存在なんだろう。
「あはは、流石にないですよ。魔王種は歴史上で全部で八十八体存在していて、撃破するとその種族の魔物が全て消え去るらしいんです」
「そうなんだ…あれ、でもそれなら魔王種を全部倒せば魔物はいなくなるってことだよね」
「そう簡単に行けばね、もちろん魔王種は一体一体が規格外だからって言うのもあるんだけど、気づいたらその魔王は復活して魔物も復活しちゃうのよ。だから、大体は魔王種を倒すのを諦めちゃうってわけ」
「えぇ……」
最強なのに不老不死ってチート以外の何物でもない。
苦労して倒した魔物が気づいたら復活してました――なんて魔王種を倒す気も失せるというものだ。
「でも、やっぱり直近の目標はあなた達二人を無事に帰して…望むなら立派な冒険者にして見せるってことね」
「ふふっ、私も帰ったら先輩に色々教えてもらいたいです」
「僕も、先輩からはたくさん学びたいです」
「ええ、それじゃあ早速私が冒険者で一番大切だって思うことを教えてあげる」
そう言うと、先輩は唐突に立ち上がり僕の方に歩いて来たかと思うと突然、額にデコピンをヒットさせた。
「いたっ!?」
それも、トゥ・ノースで加速された一撃のため拳骨食らった時くらい痛い。
「決して油断しないことよ。冒険者は油断した奴から死んでいくわ。自分の力を過信せず、常に謙虚に……ってね」
「な、なるほど身をもって体感しましたよっ!」
「残念、私は油断してないわ」
デコピンの仕返しに立ち上がりデコピンを仕掛けようとするが、華麗にかわされてしまう。
それどころか、すれ違いざまにもう一度デコピンを食らうことになった。
「いった!?」
「冒険に出ている時は常に警戒してなさい。村に泊まった時も毒の入った水を渡されたり、突然襲われたりするんだから」
「それって……その、流石に作り話ですよね……?」
恐る恐るプロンさんが先輩に聞くと彼女はにっこり笑ってこう答えた。
「死んだ知り合いの実話よ」
「……冒険者って食べるものにも気を付けないといけないんですね」
「誰が悪意を持って近づいてきているかなんてわからないからね。と言っても、気を付けていても死ぬときは死ぬんだけどね」
確かに、魔物も恐ろしいと言えば恐ろしいが前世の経験も複合しても悪意のある人間の方が数段何やるかわからず恐ろしい。
そして、油断せずとも今のような理不尽が襲い掛かればぽっくり死んでしまう。
やって見てわかるが、冒険者と言うのはつくづく命知らずというか日本では考えられないような職業だ。
「そういえば、プロンさんは昨日のボアとの戦いで加護レベルが上がったって言ってましたよね。新しいスキルって覚えました?」
「それが、加護レベルが5になっても覚えたスキルはホーン・ドライブだけなんです」
「え!?」
現在の僕の加護レベルは3だが、習得したスキルは数多い。
弓を作るスキル【クリエイトボウ】、矢を作るスキル【クリエイトアロー】、放つ一射を強化するスキル【パワーアロー】、矢を二つに増やす【セカンドアロー】、矢をその場で停止させる【フリーズアロー】の5つである。
「普通はこんな物よ。むしろ、私は5つもスキルを持っているアポロに驚いたわ。どれだけ高位の加護を持ってるのよ」
「高位の加護を持っていればスキルを覚えやすくなるってことですか?」
「あまり一般には知られていませんけど、そういう記録はありますよ。それだけじゃなくて、スキルを発動できる回数も加護の大きさによって変わるみたいです」
「そうなんだ……」
言われてみれば、今日は既に100回くらいスキルを使用していたのに、少し寝ればもう回復している。
神様が世界最強になるかもしれないと言って話半分に僕は流していたが案外嘘でもないのかもしれない。
(……世界最強になったら幸せになるのかな?)
妹の分、転生した僕には責任を果たさなければいけない。
神様の言う通り、幸せにならなければいけない義務がある。
だが、僕には自分の幸せがどういった物かわからない。
もし、世界最強になることが僕の幸せなら手っ取り早かったのにと内心残念がりながらも話を続けた。
「でも、スキルが覚えられなかったら加護レベルが上がってもあんまり喜べないですよね。それでも、強くなるにはレベルを上げてスキルを習得する必要があるんですよね」
「ふふっ、実はそうでもないんですよ、あまり知られていないんですけどレベルが上昇すれば加護が強くなってスキルを発動できる回数が増えるんですよ」
「スキルだって、新しいのを覚えなくても何回も使い続ければ進化することができるからね」
「スキルの進化、それは聞いたことがあります」
常識内にもその記述はあった。
スキルを使えば使うほど練度が上昇し発動範囲、威力、コストが低下するのだ。
「実は、私のスキルも既に進化済みでね。昔は自分にしか力がかけられなかったの。進化したことで短剣にも力を加えられるようになって単純に飛び道具が強くなったわ」
「そうなんですか……スキルの進化ってやっぱり難しいですか?」
ただでさえ、威力の増強という単純な効果で使い勝手のいい【パワーアロー】をさらに進化させられたらいいなと思って聞いたが、反応はあまり芳しくない。
「うーん、私も気づいたら進化してたから詳しいことはわからないの。そうだ、プロンは何か知ってない?」
「私ですか!?」
「うん、プロンってすごく博識だから知らないかなと思ったのだけど、どうかしら?」
「すみません、私も詳しい進化方法とかは知らないんです。でも、一説には使った回数なんじゃないかって言う仮説は見たことがあります」
「使った、回数か……」
その仮説が当たっているとすればたくさんのスキルを保有している僕はある程度絞らなければ器用貧乏に終わる可能性がある。
強くなりたいなら、自分の戦い方を確立してそれにあったスキルを成長させるべきだろう。
そんなこんなで眠くなるまで話し続けていた僕たちは交代で眠りにつき体を休めボスとの決戦に備えるのだった。
異世界メモ:加護スキル
加護から派生したスキルのことだよ。
受け取った神様によってスキルが変わって、主人公の影山阿歩炉君は【射手座】の加護を保有しているね。
加護レベルによってスキルを習得出来たり、発動回数を増やせるよ。
え?なんで通常スキルと加護スキルで別れてるんだって?良いところに気づいたね、それは、あ…【禁止ワードを確認】…あれ?なんて言おうとしたんだっけ?




