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第6話・変、異変、現れる



「……十?いや、十二匹います」

「また?……そう、流石におかしいわね」


 最初の巣穴を制圧した後、僕たちはさらに奥底に足を踏み入れたのだが先ほどのような巨大な空洞が何個も見つかり、そのたびにケーブ・ワームが十匹以上待ち構えてきた。


 だが、相手の強さは特に変わらなかったので難なく対処することができた。



「……あれ?ポラリス先輩、何だか違うのが一匹いる……ような、います!」


 そうして今回も毎回のように偵察をしていると、奥にいる一匹だけ目に留まる。

 じっと目を凝らしてみると、まだら模様のケーブ・ワームが確認できた。


「まだら模様のケーブ・ワーム……上位種の『マトルケーブ・ワーム』かもしれないわね。プロン、【鑑定】ののスキルで確認できない?」

「そうですね……ごめんなさい、この距離だと見れないみたいです」

「そんなに強い相手なんですか?」


 見た感じ、ケーブ・ワームがまだら模様になっただけな気がするし、気配もそう変わらないように感じられる。


「いや、表皮がケーブ・ワームと比べて少し硬いけどあなたの【パワーアロー】なら十分倒せるはずよ」

「よかった、なら僕が先制攻撃して倒しちゃいますよ」

「えぇ、それで大丈夫よ。けど……」


 安心するアポロとは裏腹にポラリスの表情は曇ったままで巣穴を見つめている。


(ケーブ・ワームとマトルケーブ・ワームが同じ巣穴にいるなんて聞いたことがない。ただでさえ、ケーブ・ワームの大量発生が起きているのに……ここで、一体何が起きてるの?)


 幸いにも今まで現れているのはケーブ・ワームとその上位種だけ、それ以外の魔物は確認できていない。

 この戦力なら、ケーブ・ワームが30匹いようと勝てる自信がある。


(ここまで来たなら、ケーブ・ワームが大量発生した理由を突き止めたいけれど……)


 しかし、ここで起きている異常がこれっきりとは限らない。

 ポラリスの脳裏には撤退の二文字が浮かび始めていた。



「ポラリス先輩!来ました!!」

「っ、わかったわ……【トゥ・ノース】」


 結局、思考は中断され彼女は撃墜されて落ちていくマトルケーブ・ワームを視界に納めながら戦いへ向かった。




 ***




「間違いない、マトルケーブ・ワームね」

「本当だ、ポラリス先輩の言う通り少し皮がざらざらしてて固いですね」


 結局、あの後何事もなく僕の【パワーアロー】はマトルケーブ・ワームを撃墜し、他の個体も難なく倒すことができた。


 だというのに、ポラリス先輩の表情は硬いままである。


 その時、何やら気づいたのか先輩は壁の方に走って短剣で傷をつける。


「……もしかしてって思ってたけど当たるなんてね」


 だが、先輩が付けた壁の傷は見る見るうちに修復していってしまった。

 こんなの普通じゃありえない。


「壁が治っちゃった……もしかしてこの現象!?」

「プロンさんは何か知ってるの?」

「は、はい……でも、もしかして……本当に、そんなことが…?」


 何が起こっているのか全く分からないが、プロンさんはパニックのままぶつぶつと喋り出してしまった。

 僕も何が何だかわからないが、二人の表情から見てこれは相当マズいことだとはわかった。



「この先も続いてる……だけど、仕方ないわ。アポロ、プロン早急にここを脱出するわ」

「だ、脱出ですか!?でも、この先にも絶対にケーブ・ワームいますよ」

「そうでしょうね、だけど今はここでとてつもない異変が起ころうとしている。以上!これで、納得して!!行くわよ!!」

「「はい!!」」


 突然の出来事にてんやわんやとして状況が呑み込めていないアポロであったが表情から深刻度を読み取って何も聞かず出口へ走り出した。




 ***




 出口を目指して走り回っている途中、先輩の言う通りこの洞窟の中には異変が起き始めていた。


「ッ、地震……」

「足を止めないで、このくらいなら洞窟は崩れないわ!!」


 何度も弱いながら地震が起き、そこら中からケーブ・ワームのものと思われる叫びが洞窟を木霊する。


 それだけじゃない、更なる異変として僕たちが今まで倒したケーブ・ワームの死体がどこにも見当たらないのだ。



「……はぁ、はぁ。見えました!!」


 全力で走って数分後、光が指す洞窟の出口が見えてきた。

 やっとの思いで洞窟を駆け上がった僕たちの顔には安堵が浮かんでいた。


「え?」


 だが、その時だった。


 僕たちの足元でこれまでとは比較にならない地震が起きてしまった。

 途端に頼りにならなくなる地面、それもそのはず僕たちの足元には巨大な落とし穴が生まれていたのだから。


「きゃあああああああ!?」

「……マズい!?でも、これなら!!【トゥ・ノース】アポロ!フリーズアローでその場に止まりなさい!」

「はい!【クリエイトアロー】【フリーズアロー】」


 だが、すぐさま先輩は動き出し北へ移動して落下するプロンさんを受け止める。

 そして、すぐさま僕がフリーズアローを使い空中に矢を留めてその矢につかまり宙ぶらりんとなる。



 そして、プロンさんを抱き寄せたまま先輩は【トゥ・ノース】を連続使用し高さを維持したまま壁に突っ込んでいく。


「私をキャッチしなさい!!」


 そのまま先輩は壁を蹴り上げ方向転換をして僕の方に突っ込んできた。



「うぐっ!?」


 フリーズアローで何とか気合で空中に留まっている僕はきしむ腕を見なかったことにして何とか彼女をキャッチする。


「い、一体どんな脚力をしたら壁キックなんて出来るんですか」

「し、死ぬかと思いました…」

「ふふっ、冒険者には必須技能よ」


 だが、そんなに悠長としてはいられない。

 何とか空中に留まっているものの、このままフリーズアローが解除されれば僕たちは真っ逆さまに落ちるだろう。


 それほど、深くなければいいのだが夜目をもってしてもそこが見えない。


(どうすれば……もう、フリーズアローも限界が……)


 フリーズアローは気合を入れて止められるのが3秒程度、それ以上はどうなるかわからない。

 それを、先輩もわかっているのか次の指示が飛ぶ。



「アポロ!!矢から手を放して私に掴まりなさい!」

「ッはい!」


 直後、フリーズアローを解除し矢は慣性を取り戻し壁に突き刺さる。

 しかし、当然手を放した僕たちは巨大な穴に落下するのみである。


「行くわよ【トゥ・ノース】」


 先輩がその名前を呼ぶことで、彼女に強い北側への力がかかる。

 それによって、彼女に抱えられたプロンさんとしがみついている僕も共に、つまり北側に移動する。



「アポロ、矢を!」

「はい【クリエイトアロー】とうぉりゃあ!」


 北側への移動によって壁に叩きつけられる寸前に先輩と僕はそれぞれ短剣と何本も重ねた矢の束を突き刺し壁に張り付くことができた。



「……これで、しばらく落下はしなさそうですね」

「ええ、だけれど……上がれもしないわね」


 上を見上げてみると、僕たちがさっきまでいた場所には巨大な穴が開いていた。

 その上、この空洞は壺の形になっているらしく、上の方は返しのようになっていた。



「ごめんなさい、私のホーン・ドライブで上に運べたらよかったんですけど…」

「仕方ないわよ、あんな小さな角じゃ私たちを持ち運ぶには役不足だもの……アポロ、まだ矢は作れる?」

「はい、大丈夫です」

「そう……なら、下に行くわよ。どっちみちここにいてもいずれ落ちるだけだし……アポロ、クリエイトアローでプロンの分の矢を作って、もし何か起きたらフリーズアローでサポート、出来る?」

「了解です」


 先輩に言われ通りクリエイトアローで矢を生成しプロンさんに渡す。


「ありがとうございます!!」


 渡された矢を壁に突き刺し彼女もぶら下がることができた。


 元気に返事をしているが、震えている。

 それでも笑顔で振舞うことができる彼女を見て僕も少しばかり勇気が湧いて来た。



「一応、何本も重ねているから簡単には折れないはずだけど、過信はしないでください。それと、これ僕が先に下りた方が良いですよね」

「ええ、夜目が効くあなたが先頭に下りて偵察してもらいたいけど……大丈夫なの?」

「はい、行けます」


 これ以上、プロンさんを危険な目に合わせるわけにはいかない。


「……わかったわ。だけど、もし何かあればすぐに叫びなさい。駆けつけるわ」

「ありがとうございます。それじゃあ、行ってきます」

「アポロさん、気を付けてくださいね…!!」


 心配そうなプロンさんに笑顔で頷きながら深く刺した矢から手を放し、落下する。

 もちろん、普通に落下すれば深さによってはぺちゃんこだ。


 それを避けるため、僕は再びクリエイトアローで矢を生成し壁に深くは突き刺さず削るように刺して減速しながら下って行った。



 ***




「【フリーズアロー】【クリエイトアロー】」


 そうして下っていくうちに段々と底が見えてきた。

 一旦、停止するためにフリーズアローで手元の矢を空中に固定しブレーキをかける。


 クリエイトアローで矢を作り再び壁に深く突き刺し宙ぶらりん状態で停止した。



(ケーブ・ワームが七匹、マトルケーブ・ワームが二匹……)


 まだ僕の存在が気づかれていないのは不幸中の幸いと言えるだろう。



 確認できるだけで見えた魔物は総勢九匹、全て難なく一撃で倒せる敵とはいえ一度に倒せるのは二匹だけ。

 狙うべきはマトルケーブ・ワームだが、片方が岩場の影に頭を隠しているため倒せない。



 今すべきことは二人を呼ぶことだが、矢を放とうが落ちる石礫で気づかれてしまうだろうし、大声で叫べば十分だろう。

 だとしても、呼べたとしてもここにまで来るのはどうしても時間がかかる。



「……ふぅ」



 何をしようとも僕の存在が気づかれるのは確定している。

 ならば、矢を上空に放った直後に矢をワームたちに放って先制攻撃を仕掛ける。


 その後は、攻撃を仕掛けてくる残りの7体を何とか凌ぐか、それとも倒しきるしかない。



「っ、限界か【クリエイトアロー】」


 だが、こんな宙ぶらりんが長く持つわけもなく足場を作るため矢を生成し掴まっている手元の矢の近くに何本か突き立てる。

 それによって、出来た足場に残りの力を振り絞った状態で何とか体を引き寄せ何とか矢の上に立つ。


(これで、足場は確保……案外、気づかれないな。すぐ、来るのを覚悟してたのに……)


 なら、最初からこうしておけばこうしておけば腕力で宙ぶらりんすることもなかったなと後悔しながらも少し冷静になることができた。



(よく考えてみれば、ここで待っているのも……いや、それも危険か)


 二人もどうせ下っていることだから何もせずとも来るのを待てばいい。

 なんて思っていたが、降りてきたときにワームたちに気づかれる可能性もある。


 それに、いざ戦闘になったとしてこんな不安定な足場で戦えば先輩もプロンさんも十分な力は発揮できない。

 きっと、二人とも無傷では済まないだろう。



 だが、僕がある程度ワームたちを倒していれば生存確率はぐっと上がる。

 問題は、七体のワームどもから逃げ続けられるのか、倒しきれるのか、どちらかだ。



 別に複雑に考える必要はない、後からみんなで命を懸けるか、僕がいち早く命を懸けるか、その違いしかない。


 脳裏にちらつくのは、震えていたプロンさんの姿。



「【クリエイトボウ】」



 懸けるのがたかが僕の命一つで済むなら、どれだけ安上がりなものか。

 もちろん、神様に助けてもらったからには簡単に死んでやる気はない。



「【クリエイトアロー】」



 だが、妹の分も生き返ってしまった僕はその責任を果たさなくてはいけない。



 命を懸けて



 矢を番え、弓を引く――その一連の動作に無駄はなく、アポロの表情には機械のように色が抜けていた。



「【パワーアロー】【セカンドアロー】」



 正確に放った二射は、マトルケーブ・ワーム、ケーブ・ワームを一体ずつ打ち抜き撃墜した。



「下にはマトルケーブ・ワームが一匹、ケーブ・ワームが六匹いました!!」



 大声で叫ぶと、声は洞窟内を木霊し上に登っていく。

 だが、そんなことをすれば下のワームたちも黙っていない。



「来い、ワームども!!」



 二人が降りてくるまでに、出来るだけ蹴散らすと心に決め矢で出来た足場から飛び降りた。





異世界メモ:通常スキル

この世界で生まれた人間なら誰しもが必ず一つは持っているものだよ。

プロンの【鑑定】からポラリス先輩の【トゥ・ノース】だったり、人それぞれって感じだね。

ちなみに、後からスキルを得る方法もあるみたいだよ。

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