第3話・初めての出会い
夜更けから日が出始めたころ、この森に住む魔物たちも目覚めたのか物音がし始めた。
「……はぁ、終わった。もう朝だよ」
昨晩、僕は倒した兎の解体作業を行っていたが結局一睡もできず、気づけばお日様が見え始めていた。
角は信じられないぐらいがっちりと固められて頭蓋骨から伸びていたので引っこ抜くなんて真似はできず、矢じりで必死に削る羽目になった。
「ごめんな」
途中で気づいて血抜きはしていたものの、それでも一晩中放置していたようなものだ、どうしても腐ってしまう。
僕は、赤く光るこの角だけは回収してポケットに入れた後、死体を丁寧に埋葬して歩き出した。
「確か、ここら辺で見つけたような?…あった」
当てもなく森の中を歩いていたわけではなく、休憩ついでに周りを歩いていた時、少し歩いたところで森が斬り開かれたような道を見つけたのだ。
つまり、これを辿って行けば人が集まる場所、すなわち街につくことができるだろうということだ。
***
道を歩くこと数十分後、遠くに石塀のようなものが見えてきたころやっと森を抜けることができた。
そのまま、少し歩くと荷台を馬に引かせている商人のような格好をしている人、武器を持っている人などちらほら人も見えてきた。
だが、僕はこの世界では根無し草であるため、服装も違う。
明らかに周囲から見れば浮いている。
だけれど、異世界の常識によれば流石に不審な行動をしなければ、捕縛などされるはずはない、はず――はずだ。
「通行証や冒険者カードはお持ちですか?」
少し並んだ末に、一番優しそうな衛兵さんにありつくことができた。
「じ、実は!!ここに来るまでの森で荷物をどこかに落としてしまいまして……」
「落ち着いてください。でしたら通行料として大銀貨一枚を徴収することになっているのですが、問題ありませんか?」
思わず声が裏返ってしまったが怪しまれることなく冷静に対応してくれた。
流石にバッグも何もなしで現れたら怪しまれるのは確実だ。
そのためについた嘘もバレていないようで思わず心の中で胸を撫でおろす。
「はい、そのくらいなら……これでお願いします」
そう答えると、僕はポケットから大銀貨一枚を取り出し支払いを済ませる。
それを確認すると兵士さんは頷き、道を開けてくれた。
「はい、確かに受け取りました。冒険者ギルドで、冒険者に成ればそれが今度は通行証代わりになるから戦いに何か心得があるなら行ってみるといいよ」
「ありがとうございます。その、ちなみにギルドってどちらにあるんですか?」
「ギルドはこの門を入ってまっすぐ進めば大きな目立つ建物があるからそこがギルドだよ」
常識があるとはいえ冷や冷やしたが、森の中で荷物を落とした間抜けで済ませることができてラッキーだった。
こうして僕は無事に街へ入ることができた。
「ええ……?」
街に入った瞬間に、思わず口から驚きの声が漏れる。
視界に入っただけでも、僕と同じ人間、動物の耳が生えた獣人、山羊のような角が生えている魔族、耳が長いエルフ、背が小さく髭が大きいドワーフ――などなど、言っていてはきりがないほど場内の種族がバラエティに富んでいた。
「お、そこの兄ちゃん。その反応はどうやら田舎からの出か?」
驚きながらそのまま街を歩いていると露店で果物を売っている赤髪の魔族のお兄さんに声をかけられた。
「あはは、まあそんな所でして……ところで、アナタは?」
「俺の名前はフルド。見ての通りここで露店を開いてる。それで、大体この街に来たばかりの奴は同じ反応するからよ。どうだ、昔話ついでにリンゴ一つでも」
気の良いお兄さんは、店に並べられたリンゴを一つ僕に投げ渡してくる。
「っと、是非お願いします!僕はか……アポロと言います。お代はいくらですか?」
「要らねえよ。昔は兄ちゃんみたいな反応しているやつがたくさんいて面白かったんだが、最近はあんまり見なくてな。久しぶりに、面白いもん見せてもらった礼だとでも思ってくれ」
「そうですか、ならお言葉に甘えて」
お金に余裕はないのでありがたくご厚意に甘えることにしよう。
受け取ったリンゴを人齧りすると、中から果汁があふれ出し転生してから何も食べていなかった僕の胃袋にしみわたっていのがわかる。
思わず感動で体が震える感覚があったが、それにばっかり集中しているわけにはいかない。
「おう、それじゃ聞いてくれよな!古くに伝わる伝説をな!!」
***
この世界『ゾディアック』には、かつて魔王と呼ばれる魔族の王が存在していた。
超強力な山羊座の加護を持ち、あらゆる国を侵略し人々を混乱と絶望の渦に叩き込んだ。
しかし、その他の種族たちも黙っていなかった。
獅子座の加護を受けた獣人族の王
水瓶座の加護を受けたエルフの賢者
加護はないが勇猛果敢に戦いに挑んだとされるドワーフの勇者
そして、射手座の加護を受けた名もなき人間の4人が中心となり立ち上がった。
後に英雄と呼ばれる彼らは魔王を打倒し、彼らが行った侵略行為の背景を知った。
それを知ってなお、皆々は魔族を一人残らず滅ぼすべきだと口々に揃えて言った。
しかし、そこで声を上げたのが射手座の名もなき人間だった。
『確かに、魔族を滅ぼせば彼らから次の憎しみが生まれることはないだろう。だが、虐殺を行えばこの世界の平和を望んで散った英雄たちに示しがつかない』
ならば、どうすると他種族に問いかけられた時――
***
何か決め台詞なのかフルドはやたら芝居ががった口調でこう言った。
「『誰もが皆、手を取り合える。そんな、理想郷を作るためにこの生涯をささげる』…ってな!」
「じゃあ、もしかしてそれで生まれたのが……」
歴史マニアなのか、それとも相当語っているのか慣れた話し方で物語を語ってくれた。
異世界の常識には魔王のことはあったが、その後のことは特になかったので意外と興味深く話に聞き入ってた。
「その通り!生まれたのがこの街『ルクバト』ってわけよ、ここを治めている領主様もその意志と加護を継いで代々ここを守っているのさ」
「加護を継ぐ?」
「ああ、なぜかはわからないが領主様の『サジタリウス家』は代々【射手座】の加護を受け継いでいるらしいぜ」
「何だかロマンを感じますね」
フルドの話が本当なら、その無謀とも言えた理想は叶っていると僕は街を見る限りそう感じた。
「分かってるじゃねぇか!!そうだ、兄ちゃんは何のためにこの街に来たんだ?」
「あー……この街には、とりあえず冒険ギルドに行って冒険者登録をしようかなって思ってます」
冒険者、それはこの世界では命知らずの馬鹿どもすら呼ばれる職業だ。
冒険者はギルドから、魔物の討伐から猫探しまで依頼を受ける何でも屋に近いが危険な仕事も多くその死亡率は高い。
「冒険者か……なら、一つ頼まれごとをしてもいいか?」
「頼まれごと……ですか、いいですよ。リンゴの分くらいは働きます」
「ありがたい!ならちょっとそこで待っててくれすぐに戻るからよ」
「はい!?」
だが、答えるとすぐに彼は僕を露店に一人残して街へ走り去ってしまった。
***
店主のいなくなった露店で、わけもわからず案山子に徹して数分後、フルドは土煙を上げるほどの全力疾走を見せながら露店へ帰って来た。
「ちょ、お兄ちゃん離して!恥ずかしいよ!!」
「えぇ…?」
ただ、彼は一人ではなく彼と同じ二本の山羊の角が生えた赤髪の少女を脇に抱えていた。
彼女は、手足をバタバタさせて脱出を試みているがフルドさんにがっちりホールドされているせいか全く脱出できていない。
「悪いな、待たせちまって」
「それはいいんですけど、妹さんですか?」
「ああ、妹のプロンだ。頼みたいってのはこいつ……「待って!私がちゃんと言うから!お兄ちゃんは黙ってて!」……はい」
到着の直後に、彼女が自分で声を上げて兄の腕を振り払い地面に下りた。
身長は僕と同じくらいで、少し幼さを残す顔立ちと魔族特有の角と風に揺れるポニーテールの長い赤髪。
だが、街娘にしては今から走りにでも行くのかと思うくらい動きやすい服装に身を包んでいた
「……コホン、初めましてこの愚兄の妹のブロンです。愚兄が迷惑をかけたようで本当にごめんなさい!」
「いえいえ、こちらも聞いてて楽しかったので気にしなくていいですよ。それで、僕の名前はアポロと言います」
「アポロさんですね!よろしくお願いします!!」
話してみるとプロンさんは元気溌剌の少女という感じで、少しばかりだけれど妹の影を感じた。
「それで、あの頼み事って何ですか?」
礼儀正しさもありつつ、兄の行動に謝罪を示している姿から素晴らしい妹さんに見えるが、僕に彼女を任せる必要があるのだろうか。
「ああ、実は妹は昔から冒険者になるって言ってきかなくてな。ちょうど、今日冒険登録をしに行くんだが……冒険者ってならず者が多いって聞くだろ?だから、一緒にギルドに行って登録しに行ってやってくれないか!?」
「……はあ、私は大丈夫って何度も言ってるのに……アポロさん、別に断ってくれても大丈夫ですよ。この、愚兄が心配性なだけなので」
「愚兄って……」
「その、どうしてプロンさんは冒険者に?仕事って言ってももっと安全な仕事はあると思いますよ?」
二人の身なりを見るに特に困窮しているように見えないし、冒険者は死亡率も高い。
相手の夢に口を出す資格なんて僕にはないが、どうしても妹と姿が重なってしまい心配せざるをえなかった。
「それは、その……私………い、色々あるんです!!」
「悪いな、アポロ。これの一点張りでな、俺にもちっとも理由を言おうとしねえんだ」
今、一種だけど理由を話そうとした瞬間にフルドさんの方をちらりと見ていた。
もしかしたら、彼には言いにくい理由なのかもしれない。
「……そうですか、ちなみに戦えるんですか?プロンさんは」
「もちろんです!コレでも、私の加護レベルは4ですからね」
「えぇ!?」
僕の加護レベルは2、どのくらいのペースでレベルが上がるのかは知らないが少なくとも僕よりは戦闘経験が豊富ということだ。
「そして、見てください。これが私のスキル【ホーン・ドライブ】です!」
彼女は懐から何やら動物の角のようなものを取り出しスキルを詠唱する。
すると、持っていた角は次々と浮かび上がり僕の周りを旋回し彼女の手の中に納まった。
「角なら大体何でも操作できるスキルだが、鋭利な物や回転させれば相当の威力を発揮する代物ってわけよ。よっぽど固い装甲を持つ魔物じゃなければ一撃だぜ」
「でしょうね……」
ついさっき、鋭利すぎる角を持った兎と戦った僕はその時の戦闘で刻まれた木の穴を思い起こさずにはいられなかった。
「って、ことで頼めるか?」
「えぇ、もちろんです。妹さんは絶対に守って見せます」
「え、アポロさん!?別に、断っていいんですからね?」
「いや、命に代えても守ります。行きましょうプロンさん」
「なんでそんなに覚悟が決まっているんですか!?」
こうして僕たちは冒険者ギルドに向かったのであった。
異世界メモ:この世界について
この世界の名前は星が綺麗な世界『ゾディアック』だよ。
某宇宙来たーを想像した人は少なくないじゃないかな。
ネタバレになるからたくさんは言えないけど……神様が近い世界だよ。そういうのって碌なのないよね




