第25話・第二フェーズ
入った直後、僕の視界に否が応でも入り込んできたのは巨大な顔、そして鋭利な牙だった。
体中は蛇のようなまだら模様で覆われ、その姿はワームというよりは水蛇のようにも見えた。
直径は僕が通っていた学校の校庭を優に超え、後から知ったが200mを超えていたらしい。
これこそ、この世界に88種類存在する魔王の一体。
魔王スプリームハイドラ・ワームである。
「【スナイプショット】」
そして、開幕と同時に狙いを定めてスキルを起動する。
その圧倒的な威圧感を前に誰かが喉を鳴らす音がした。
「行くぞ、作戦開始!!」
だが、全く臆する気配のない団長の一言で僕たちの体は自然と切り替わった。
だが、その時魔王がこちらを認識した。
その直後、額や体のあちこちに埋め込まれたごく小さい水晶のようなものに光が集まり、巨大な水弾が形成された。
「初撃来ますわ!プロン、行きますよ!【ギルティ・アンカー!】」
「はい!【ホーン・フォートレス!!】」
その初撃を防ごうと僕たちの前に出てスキルを詠唱する。
ナビリアスは『カシオペア座』の加護スキルであるギルティ・アンカーを発動させると地面から次から次へ鎖を伴った錨が現れ魔王に突き刺さる。
そして、プロンは新スキルのホーン・フォートレスを発動させて僕たちの前に巨大な角で出来た要塞が出現する。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
魔王の雄たけび、そして次の瞬間にはフォートレスを写していた視界が全て光に包まれた。
数多の水晶によって収束した水弾は一極集中のレーザーへと変わり僕たちを消し炭に使用と向かってくる。
やがて体を溶かしつくすような光は止み、ボロボロになったフォートレスがすぐ目の前に現れる。
とてつもない攻撃だったが防げた裏にはナビリアスのスキルギルティ・アンカーの効果があった。
ギルティ・アンカーはこれを発動された対象者がどれほどの罪を犯しているかによって様々なマイナスの効果を与えることができる。
魔王なんて呼ばれるくらいだ。
罪なんて文字通り山のように犯しているだろう。
今回であれば、水弾のレーザーの威力減衰となる。
そう言うことで何とか初撃は防ぐことができた、なら次は僕の番だ。
「アポロお願い!!」
「ああ、【パワーアロー!!】」
スナイプショットでさっきからロックオンをしていたのは魔王の額に埋め込まれているあのレーザー攻撃の源となっている個所。
その大きさは僅か20㎜、僕の目でなければ視認すら難しい。
だが、スナイプショットでロックオンすれば必ず当てることができるというわけだ。
攻撃が止んだ直後、真っすぐ何物にも遮られることなく進んだ渾身の一射は水晶のど真ん中を貫き砕く。
「よし、散開!!」
「っ」
団長の号令と共に僕はアッシェラと共にその場から離れる。
ここからが本格的な魔王討伐作戦となる。
そして、この魔王討伐戦は次の工程に分かれている。
1.初撃をプロンとナビリアスが防ぎ、額に埋め込まれている水晶を破壊する。
2.僕とアッシェラが別行動をして制限時間内に他の水晶をできるだけ破壊する。
3.破壊出来た後、レーザーが弱っている間に我々の総戦力をもってして外皮を破壊する。
4.団長が超巨大な弱点部位である脳を完全破壊するまで守り切る。
というわけだ。
なぜ、初撃の際わざわざ危険を冒してまで額の水晶を破壊するかと言うとあれがレーザーを放つさいに最も威力を増幅させるのだ。
結局、他の水晶がある限り危険なレーザー放射は止まらないが、アレを破壊するだけでも危険度はかなり激減する。
では、他の水晶は一体どこにあるのか?
「行くぞ【キルクムイレ!】」
僕に触れながら彼がスキルを発動させると、次の瞬間には魔王の背中に瞬間移動していた。
そう、他の水晶があるのはまさにここ、魔王の背中の上である。
「アポロ。頼んだ!」
「うん【スナイプショット】」
詠唱と共に僕の左目にレーダーのような円状のウィンドウが展開される。
狙うは背中にとんでもない数埋め込まれた水晶たち。
だが、スナイプショットによって視認できる範囲ならロックオン状態になりほぼ確実に当てることができる。
「【パワーアロー】【セカンドアロー】」
だからこそ、こういう風に二枚抜きなんて芸当も可能になる。
文字通りの団長との必死の特訓によって習得した早打ちを加えれば相当な数の水晶を砕くことができるだろう。
「くっ、集まって来やがったか」
「アッシェラ!!」
「こっちは気にすんな!お前のとこにはこいつらは一匹も行かせないからな!」
だが、それは相手が何もせず一方的にやられてくれたらの話だ。
当然、そんなわけもなく魔王は自身の眷属でもある魔物たちを次々と召喚してくる。
普通のケーブ・ワームを始め、マトル、メタル、ヒュージ、ハイドラなどなど揃い組だ。
それに、制限時間というのは何もこの場だけの話じゃない。
当然、魔王は生物なので動き出すし、放っておけば僕たちに容赦のないレーザー攻撃が降り注ぐだろう。
「【ヒュブリス・アンカー!!】」
「【ホーン・ダウン!】」
それが起こらないのは、ナビリアスがスキルを併用して魔王の動きと能力を無理やり封じ込めているのと、プロンが魔王をその場に繋ぎとめているからだ。
「【パワーアロー!!】」
団長は力強く拳を振りかぶり、水晶から放たれるレーザーを拳でかき消す。
これによって、水晶から凝縮されるレーザーを団長自身が囮になることで何とか戦線を持たせている。
誰かが限界を迎えた瞬間、それがタイムリミットでありその中で出来るだけ水晶を破壊するのが僕の仕事だ。
「っ!【パワーアロー】【セカンドアロー】」
だが、いかんせん数が多い。
いくら同時に二つ破壊できたとしても、いくら撃つスピードが速まったとしても多いものは多い。
なおかつ、いつ仲間が倒れるかわからない緊張感が僕を振るわせ始めていた。
次々と現れる魔物たち、それこそ普通のケーブ・ワームが何体も集まろうが雑魚は雑魚だが、ここでは平気で上位種が現れる。
普通に考えても、神の加護を持っていないアッシェラでは力不足だ。
「ハアッ!魔道具起動【ショック・ドライブ!!】」
だが、それを埋めるために彼は発想を転換した。
倒すのではなく、あくまで自身が行うのはアポロが水晶を壊すまでの時間稼ぎ
そう考えた彼は騎士団の倉庫から魔道具を引っ張り出し鍛冶屋に頼み込み急ピッチで仕上げさせた剣を己の相棒していた。
「アッシェラ!!」
「こっちは気にすんな!それよりも、一個でも多く水晶を破壊しろ!!【ショック・ドライブ】」
発動すれば、剣先に衝撃波を出現させて敵を吹き飛ばすという代物。
一歩間違えればその衝撃で自分が吹っ飛ぶし、攻撃力はほぼ皆無の為敵は溜まり続ける。
別に攻撃系の魔道具がないわけじゃないので、それに換装させれば十分この状況を打開することだってできただろう。
(だがな、これが良い!)
この時、アッシェラは自身の身に何かあればアポロは反射的に自分を助けに来てしまうだろうと確信していた。
そのため、正々堂々なんて気にせず、出来るだけ安全で傷つかない戦い方を選ぶ必要があった。
「っ、【ショック・ドライブ!!】……ネストも出てくるのかよ!」
ケーブ・ワームかと思い刃を振るったが、その感触が明らかに違ったためすぐさまショック・ドライブを発動させたと思えばすぐに脱皮を始めていた。
脱皮直後、加速して飛び掛かって来てなおかつ空を飛んでこれるネストとはとびきり相性が悪い。
(……こりゃあ、そろそろ時間稼ぎも限界かもな)
滴る汗を拭いながら、周囲を囲むように現れるワームたちを睨みつけるのだった。
異世界メモ:キルクムイレ
対象に取った相手の背面に瞬間移動するスキル。
毎回、簡単に背中に恥を負わせることができる。
今回の魔王戦ではアポロに触れながら発動することで水晶だらけの背中に瞬間移動している。




