第23話・挫けない心
「痛い、痛い……」
「回復してもしばらく痛みが残るのが難点なんだよな」
少し体を動かせばあの時の戦いの痛みが戻ってくる。
この戦闘狂と終わりの見えない稚拙な争いを繰り広げてくる最中、僕たちは団長からの突然の拳骨によって気絶した。
そのまま僕たちは医務室に引きずられ直してもらった後、騒ぎを聞いて現れた副団長にめちゃくちゃ叱られてしまった。
そして現在はアッシェラと肩を並べて食堂に向かっていた。
「副団長ってあんなに怖いんだね……」
「まあな、俺は騎士学校上がりだがあの人は冒険者からのたたき上げって聞いたぜ。そのせいかもな」
「お前が騎士学校なのかよ!?」
「あ、なんか文句でもあるのか?」
てっきり、プロンが言っていた冒険者から騎士になった人がいるという噂の正体はこの戦闘狂かと思っていた。
だが、まさかあの団長を諫めてくれた副団長の方が冒険者上がりなのは意外だった。
「あら、体は治ったのね。戦闘狂と問題児」
「ナビリアスか。言われてるぞ、問題児」
「お前は戦闘狂だってよ」
食堂に訪れると、怪我の治療で遅れたからか人はまばらだった。
そして、僕たちを不名誉な名で呼んだのは『カシオペヤ座』の加護を持つ騎士である”ナビリアス”であった。
彼女との出会いは昨日、団長との話しを終えて食堂に向かっていると出会った。
何でも、団長と同じ射手座の加護を持つ僕に興味があるらしく食事中ずっと話しかけられ続けていた。
「というか、どうして俺たちが戦ってたって知ってるんだ?」
確かに不思議だ。
団長から拳骨をもらい、副団長から強烈なお叱りを受けたとはいえ別に知れ渡ったというわけじゃないはずだ。
「私がずっと見ていたからに決まってるでしょ」
「……もしかして、突然団長が現れたのって」
「さあ、タイミングが良かっただけじゃない?」
嘘だ、確実にチクりやがった。
「見てたっていつから?」
「あんたがアッシェラの肩に矢を当てた時くらいね」
「ほぼ、最初からじゃないか!!……もっと早く止めてほしかったね」
あの戦いは途中から、片や左肩が使い物にならず矢で殴りかかる状態に、片や木剣が弾き飛ばされ拳で殴りかかるという泥沼の戦いに発展していた。
そんなに早く見ていたなら僕が木剣を吹っ飛ばした辺りで止めて欲しかった。
「そんなもったいないことするわけないじゃない。団長とは違って真っ当な射手座の戦いが見れるんだから」
「真っ当……?」
「ちゃんと弓使ってただろ」
途中から矢で殴りかかっていたのは忘れるものとする。
異論は認めない。
少なくとも拳で戦う団長よりはマシなので真っ当と言えるだろう。
「それにしてもやるわね。アッシェラと引き分けるなんて」
「引き分けじゃない。あと、数分あれば俺が勝ってた」
「逆です。僕があと少しで勝ってた」
「はいはい、二人とも負けず嫌いなのはよくわかったから。ほら、さっさと朝ごはん食べてきなさいよ」
少し納得できないことがあるが彼女に促され朝ごはんを取りに行くのだった。
***
「ほら、さっさと起きろ!」
「うげぼらっ」
突然、僕は蹴り飛ばされ地面を転がる。
何故だろう、記憶が途切れている。
さっきまで、僕は食堂で朝ごはんを食べていたような気がするが気づいたら訓練場で倒れている。
「っ、くぅ……」
「起きたか。ほら、訓練再開だ」
流石にまた蹴られたくはないので力を振り絞り起き上がる。
相変わらずというか基礎訓練が続いている。
団長曰く、僕に何か戦術的指導や技能的指導をするよりも根本的な能力を伸ばすべきとのことだ。
それで、やっていることというのが、ひたすら走ったり、ひたすら筋トレという単純に辛い事ばかりしている。
「あの、そういえば魔王ってどこにいるんですか?」
「ああ、そういえば言っていなかったな。現在、魔王は最近発見されたワームダンジョンのすぐ近くに現れた。そのダンジョンは……って、そういえばお前らが最初の発見者だったな」
「あそこなんですか!?」
この街からではそれらしい気配も姿も感じないからてっきりかなり遠くにいるのかと勘違いしていた。
だが、あのダンジョンは街から歩いて行けるくらいの距離にある。
「でも、魔王って大きいんですよね。だけど、全く見当たらないのはどうしてなんですか?」
あの近くに魔王が隠れられるような場所はダンジョン内部くらいしかない。
だが、近くと言っているということはダンジョンの中ではないんだろう。
「それはな、魔王は常に姿を現しているわけじゃない。現れてからしばらくは巣にこもる。この巣は空間を超越していてな、内部は外と比べてとてつもない広さになっている」
「じゃあ、もしもその巣から魔王が出てきたら」
「辺り一帯も、ルクバトもタダでは済まないだろうな」
「……その作戦で僕が重要な役目を背負っているってことですよね」
最初の会話で副団長が団長以外の射手座の加護を持つ方が必要だったと言っていた。
なおかつ、最初の拉致紛いの行動からしてその重要度がビシバシと理解できる。
「そうだ。もし、お前が失敗すれば隊は全滅し、ルクバトは滅び。人類は大きな打撃を被るだろう」
「っ、責任……重大ですね」
「その通りだ。私も一つ聞いてもいいか?」
「は、はい」
これまで、僕が質問してばかりで逆に聞かれるなんて魔王を討伐に誘われたときくらいだったため思わず背筋が伸びる。
「お前は何のために戦っている?」
「……何のために」
「ああ、富か?名声か?仲間の為か?それとも、うちにいる戦闘狂と同じく戦いたいためか?何でも良い。教えてくれ」
何のために、僕はプロンのためとすぐに言おうとしたが喉に引っかかって詰まってしまう。
最初は、プロンの両親の仇を共に討ちたいとそう思っていたはずだ。
それは、決して嘘偽りはない誓いのはずだ。
だが、今となっては話が違う、そもそも仇は魔王じゃなくてまさかの団長だった。
「僕は、平和な毎日を誰にも奪わせたくない、もう誰も……目の前で失いたくないから。だから、守るために戦うんです」
「……守るか。顔も知らない誰かのためにか?」
「それで、誰も悲しまずに済むのなら」
「そうか……」
僕もやっと騎士らしい答えを得ることが出来たのではないかと思う。
だけれど一瞬、団長の僕を見る目が変わった気がした。
***
――もう皆が寝静まった夜。
数人が団長室に集められていた。
「各々、報告を頼む」
団長は深く椅子に腰を下ろし、その場にいる他の三人に報告を促した。
そして、最初に口を開いたのは副団長のスピカだった。
「では、私から魔王の巣の内部の偵察は完了しました。ですが、情報によれば三日ほどで巣を破って現れる可能性が高いという事です」
「次」
「例の新人、プロンの方は問題ないです。だが……」
次の報告はアポロのルームメイトであるアッシェラであった。
「アポロか」
「ああ、この街に来た以前のことは不明。まるで突然現れたみたいです」
「……それで、戦ったんだろう。どうだ奴は?」
「……それが」
彼女はアッシェラに実際に戦ってみての見解を尋ねるも、彼の口が止まる。
顔には苦悶の表情が浮かび、言葉を迷っている。
「どうした?」
「いえ、なんというか。初めてだったんです。勝てないじゃなくて、アイツは負けないと思ったのは」
「負けない?」
「はい、俺はあの戦いで何度も何度もぶん殴ったんです。当然、急所も狙いました」
左肩がやられ弓が持てず矢で戦うアポロ。
木剣が飛び拳で戦うしかないアッシェラ。
この戦いは実質的にアッシェラの勝利と言っていいだろう。
だが、おかしなことにアポロは負けなかった。
もちろん、それはアポロが殴られ慣れているのもあるがそれでも相当なダメージのはずだ。
だが、倒れない。
一発だけ、目を狙ったことがある。
普通、そこを狙われればどれだけ強い意志を持っていたとしても反射的に閉じてしまうものだ。
「初めてでした。目元付近を殴られてもずっと視線だけは俺を見続けていたんです。はっきり言って普通じゃない」
あれは、視線を切ればすぐさま追撃が来ると理解している目だった。
それも覚えているのは意識ではなく、体自身。
それは、追撃が来るのが当たり前の生活でもしない限り身につくものじゃない。
勝機を手繰るためならば、己の肩や致命傷にならなければなんだって差し出すその姿勢は明らかに常人のものではない。
「普通じゃない、ね。けど、私が話した時は普通の少年に見えたわよ」
「私もそう見えました」
実際に戦ってみたアッシェラと戦いを傍観していたナビリアス、話しかしていない副団長のスピカの意見は奇妙なほど真っ二つに割れていた。
「そりゃあ、話しかしてない副団長と見ていただけのナビリアスにはそう見えるだろうな」
「いや、それは私も少し感じ取っていた」
「団長も?」
「ああ、少し気になってな。二人の冒険者としての活動を調べてもらっていた」
そこに二人から取られていた調書に書かれていたのは冒険者登録二日目で突然現れたダンジョンで遭難してしまったこと。
そこで、先輩冒険者を失いながらもボスであるネスト・ストラクチャーワームを撃破し帰還したというものだった。
「ネスト撃破って……二人ともまだスチールランクですよね。ネストは弱点をついたゴールドランクが倒せるかどうかというレベルのはずですけど」
冒険者上がりで騎士になっている副団長はすぐさまその異常性を理解した。
少なくとも冒険者登録二日目の初心者冒険者が倒せるような相手ではない。
「ああ、何でもアポロがネストの歯を破壊してその口内に突入し体内から脳を破壊したらしい」
「ネストの中に!?ありえません、アレの口内の中には大量の溶解液があります。もし、口内に入ればすぐに体が溶けてしまいますよ」
「そうだ、だが調書によればアポロはためらうことなく飛び込んだらしい」
「自殺行為です!!いや、命を溝に捨てるようなものです!」
ここにいる人たちは知る由もないが、アポロは本当に死んでもいいかなと思って飛び込んでいた。
だが、その行為は文字通りのダイナミック自殺である。
「そうだな、私もそう思う。実際にアポロは全身が溶解液によってドロドロに溶かされ瀕死に重体になった後、たまたま出現した宝箱に入っていたポーションを飲むことで生き延びたらしい」
「なんですかそれ!?それって、運が悪ければ死んでたってことじゃないですか」
「ああ……だが、負けないか。確かにアッシェラの言う通りだ」
分が悪くとも、大雑把な戦術、スキル、加護、そして自分の命を常に賭けられる覚悟。
それらが、アポロを決して敗北させない。
「無意識か、それとも意識してやっているのか……」
報告が終わり、静まり返った団長室で一人物思いにふけっていた。
「……アポロ」
その名前を聞いて、思わず運命を感じた。
それは、300年前に魔王と呼ばれる魔族の王を打倒した射手座の加護を受けた名もなき人間。
と、一般的には呼ばれるもの
だが、サジタリウス家の人間にとってその名はそれ以上の意味を持つ。
かつて存在していたという人間の王国を滅ぼしつくし、虐殺の限りを尽くしたのちに、数多の屍の上に平和を作り上げた怪物。
「射手座。サジタリウスのアポロ……か」
300年前と同姓同名の人物が射手座の加護を持って現れたことに自然を私は運命を感じていた。
それが、魔王撃破の活路になることを信じて――
異世界メモ:英雄
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。
英雄に苦しみあれ、英雄の道筋に絶望あれ!!




