第22話・意地の戦い
模擬戦の始まりと同時に、挨拶代わりの一射を放つ。
「直線的すぎるな!」
だが、アッシェラは足を止めることなく矢を軽々と弾いて見せる。
どうやら、矢を防ぐうちにもう少し距離を取ろうとしたかったがそれも難しそうだ。
だからって近距離では話にもならないだろう。
「【セカンドアロー】」
なら、勝機があるとすればこの距離感を保ったまま攻め切るしかない。
「だから、直線的すぎるって……うおっ!?」
もちろん、先ほどと同じ一射ではない。
相手に当たる直前でセカンドアローを発動し、平行な位置に二本目の矢を作り出し彼を襲った。
そのおかげで、一本は軽々と弾かれるが、二本目は彼の肩に命中する。
「へぇ、面白いスキルだな。本物の矢なら今頃肩が使いものにならなくなってたぜ」
「いやいや、先が潰れてるとはいえ当たったら相当痛いはずだろ!?」
「ああ、痛い。だが、団長の訓練の方が痛いし辛い」
「……あ、そう」
訓練を受けたのは昨日だけだが、何となく納得できてしまうのが悲しい。
というか、よく考えたらこの戦いが終わるタイミングを決めていないことを思い出した。
「あのさ、この戦いっていつ終わるの?」
「そんなもん、どっちかが戦えなくなるまでだ!!」
「最初に聞いておけばよかったよ!」
降参しても、ぶん殴ってきそうだしどうやら迎え撃つしかないらしい。
なら、話は早い。
「【セカンドアロー】」
一射目は当然のように木剣で弾かれてしまう。
だが、セカンドアローを使えば相手の意図しない場所に二本目を作り出すことができる。
「増えるとわかっていればどうってことねえな!」
なんと、到底反応できる距離ではないはずだが横に分身した矢を躱して見せた。
だが、そんなこと気にせずすぐさま次の一射を放つ。
「【セカンドアロー】」
「だから、もうネタは割れてんだよ!」
「割れちゃいないよ」
一射を放って次を躱すのはわかっていた。
だが、それができるのはあくまで矢が増える先がわかっているからこそできる芸当だ。
「うぉっ!?……ってじゃねえか」
なら、単純だが分身する先を変えてしまうのが一番効果的だ。
「痛いじゃ済まないと思うんだけどね……」
今度当たったのは太ももだが、足が不自由になっているようには見えない。
「はっ、認めてやるよ。この距離で俺はお前に勝てない」
「それじゃあ、降参する?」
「いや、この戦いに降参はない。どっちかが倒れるまで続くぜ。あと、この距離ならって言うのは俺がスキルを使わなかったらの話だ」
「……」
そう、これまで僕はごちゃごちゃと勝機だのなんだの考えていたがアッシェラにはまだ通常スキルがある。
「覚悟しな、これが俺のスキルだ【キルクムイレ!】」
「消え……!ったぁ!!」
文字通り、目の前で忽然と姿を消した直後、僕の後頭部に鈍い衝撃が入る。
すぐさま、反応して距離を取り振り返るとニヤニヤ顔のアッシェラが立っていた。
「なんだ、まだ動けるのか。少し手加減しすぎたみたいだな」
「し、瞬間移動?」
「限定的だけどな。指定した相手の背後に瞬間移動するのが俺のスキル。キルクムイレってわけよ」
「っ、だけどよかったの?そんなネタバラシして、背後から来るとわかっていればどうってことないけど」
「ま、かもな」
理解している、このネタバラシこそ罠であると。
スキルの発動はその名前を言わなければいけないが、言ったとして発動させるかは使い手次第だ。
「【スナイプショット】」
だが、こちらだって一方的にやられるつもりはない。
覚えたばかりのスキルだが、今なら十二分に活躍してくれる。
スキルの詠唱と共に、目の前にレーダーのような円状のウィンドウが展開される。
そして、それほど距離が空いていないからかすぐさまロックオン状態に入った。
「あ?なんだそのスキル」
「さあね?それよりも、その間合いで僕に勝てるのかな」
「はっ、挑発か。いいぜ、乗ってやるよ」
今度はすぐさまスキルを使うのではなく、僕に対して真っすぐ向かってきた。
もちろん、その理由は僕にスキルを使うか使わないのかの二択を叩きつけるため。
詠唱した瞬間に振り向けば、使わなかった時に対応できなくなる。
逆に振り向かなければ反応が遅れるため後頭部をぶっ叩かれる。
だが、これは反応を視覚に頼っている前提での話だ。
僕は、わざと矢を弓に番えて今にも放とうと構える。
「撃てるのかよ!」
「……」
撃てば相手は確実に僕の背後に回るだろう。
そうなれば、矢を放った反動で僕が素早く反応するのは不可能だ。
タイミングは僕が相手の間合いに完全に入ってスキルを発動したタイミング――
「【キルクムイレ!】」
スキルを詠唱し、アッシェラは僕の背後に――
移動しなかった。
つまりは彼はそのままの突っ込んで僕の眼前に木剣は迫ってきている。
「結局、そのスキルは何の意味もなかったな!」
違う、あのスキルは僕が覚悟を決めるためのものだ。
ロックオン状態になった後、それが解除される条件は僕の視界から消えることというのがある。
つまり、視覚に頼っている状態ではどうしても視覚を経由するため消えたと認識するまで時間がかかる。
だけど、スキルなら解除された瞬間が刺激となり視覚を経由する分だけ脳が早く体に行動を促すことができる。
「ふぅ……」
鈍い音が僕の左肩でなったのがわかる。
同時に、痛みと衝撃が全身を回るのを感じる。
たとえ、前や後ろから来るとわかっていても避けられるわけじゃないし、迎撃が間に合うわけじゃない。
なら、どうするか?
(こいつ、頭を避けて左肩で攻撃を受けやがった!)
致命傷を避ければいい。
今の木剣の一撃で僕の左肩はもう使い物にならないだろう。
そうなれば、僕はもう弓を持てない。
実質的にアッシェラの勝利だ。
だが、それは僕が近接戦を挑まないという前提の上に立っている。
もちろん、近接戦をしないのは剣の間合いで弓使いに勝ち目がなく、単純に訓練を重ねている相手が数段上にいる。
それが、驕りとなる。
慢心となる。
「【パワーアロー!!】」
「なっ、弓使いが近接だと!?」
左手に持っていた弓を捨て、番えてた矢で殴りかかる。
無謀にも思えたその行動、しかし彼にはその奇襲に対して反応するすべを持たない。
そして、僕は知っている。
パワーアローというスキルが別に弓で放った矢以外でも発動するとワームの口内で意図せず成功してしまったことを
手に持った矢は、アッシェラが持つ木剣と激突しまるで鈍器で殴ったような音共に吹っ飛ばした。
思わず、その攻撃に奴も僕から距離を取った。
「はぁ、はぁ‥‥‥」
「おいおい、射手座が矢で殴りかかってくるって正気かよ」
「団長に言えよ」
「それを言われたら何も言い返せないな」
全くだ、あの人は弓矢で発動するスキルを拳で放っているのだ。
僕が矢を持って殴りかかるなんて可愛いものである。
「ほら、もう武器ないだろ。降参しろ、降参」
「何言ってんだ?言っただろ、どっちかが戦えなくなるまで続けるってな」
「……戦闘狂め」
「その通りだ。最後まで付き合ってくれよ!【キルクムイレ!】」
詠唱の直後、僕のロックオン状態が解除される。
つまりは、背後に移動した。
「おせぇ!」
「そら、間に合わないだろうな!」
背後にはもう拳を放っているアッシェラがいた。
たとえ、スキルを使って素早く反応したとしても、先に振りかぶられてからスキルを使われれば間に合うわけない。
だが、殴られるタイミングさえわかれば致命傷を避けることは容易だ。
(こいつ、殴られ慣れてやがる!?)
こめかみや顎、喉、後頭部、首の横の頸動脈、経静脈、胸の中心などなど、殴られちゃいけない場所は前世で嫌というほど理解している。
腕での防御が間に合わなくても顎を引いて少し角度を変えれば衝撃を大きく減らすことができる。
「【パワーアロー】【ダブルショックアロー】」
そうなれば、反撃もそう難しい事じゃない。
「ごほっ!!」
威力を強化して、なおかつ衝撃を二倍した一撃をアッシェラの腹部にぶち込んだ。
普通に考えて食らったらしばらく悶絶して動けないくらいの痛みが襲っているはずなのだが、少し後退する程度で全く倒れる様子はない。
「これでもまだ倒れないのかよ」
「はっ、倒れない奴が一番強いって知らないのか?」
「実際の戦闘だったら腹に穴が空いてるけどな」
「実戦だったら、俺は最初からスキルを使ってお前の体を真っ二つにしているけどな」
互いにバチバチとにらみ合いは止まらない。
というか、二人とも耐久力が高すぎて勝敗が中々つかない。
互いに拳と矢を強く握り込み、僕たちの戦いは模擬戦から一気にガキ同士の喧嘩くらいの規模に落ち込むのだった。
――結局、僕たちの戦いは騒ぎを聞きつけて現れた団長の拳骨によって強制終了するのだった。
異世界メモ:弓使い
何言ってんだ!アーチャーが弓使うわけないだろ!
みんなは殴られ慣れないようにしようね!神様とのおやくそくだぞ!




