第21話・真実に伸ばす、手
翌日――
僕は、一足早く起床しルームメイトを起こさないように慎重に訓練場に足を運んでいた。
一応、ここは昼夜問わず訓練をする者には開放されている。
何故ここに来たのか
というのも、色々ありすぎてとにかく頭がごちゃごちゃしているのでそれを整理するためというのもあるが、新しいスキルの実験のために来たのだ。
とりあえず、弓と矢を作り出して新スキルを詠唱する。
「【スナイプショット】」
詠唱と共に僕の左目にレーダーのような円状のウィンドウが展開される。
それと同時に狙おうと思っていた200mほど向こう側にある的に集中する。
***
――昨日、僕はプロンとの話し合いを終わった足で団長室に訪れていた。
用件は、もちろんプロンのことについてだ。
「失礼します。アポロです」
「入れ」
扉の向こう側にいる団長の声は、訓練の時とは数段低くなっており、一瞬だけ訓練の光景が脳裏にフラッシュバックするが深呼吸した後入る。
「もう今日は起きないと思っていたが、まさか盗み聞きをするまで回復したとは、明日はもっと訓練を増やしてもいいみたいだな」
「……バレてたんですね」
なら、もう僕がなぜここに来たのかもわかっているはずだ。
「当たり前だ……それで、用件は聞くまでもないか」
「はい、プロンから聞きました。団長が、彼女の父親を殺したって本当……なんですか?」
「本当だ」
即答だった。
迷う間もなく、きっちり簡潔にそう言い放った。
「それは、つまりやらなくちゃいけない仕方のない事情があったってことですか?」
「……そうだ。だが、それ以上は言えない」
「言えない?」
「ああ、これ以上はプロンにも話してない」
プロンの両親を殺さなくてはいけない理由は確かに存在してた。
だが、その原因を僕はまだしも関係者であるプロンにすら話すことができない。
何というか、裏を感じる。
「それは、何か事故とかでは……ないんですか?」
「事故か……確かに、事故のようなものだった。人類が入り込む余地がないくらいの……だが、私が故意に殺したことに変わりはない」
「っ、人類が入り込む余地のない?」
その言い方だと、まるで人類以外なら入り込む余地があったように聞こえる。
それこそ、僕をこの世界に転生させてくれた神々のことを指しているようにも感じた。
それと同時に、この世界の決定的な違和感というか何かに手をかけているようにすら思えた。
その時だった。
最近、神様と話してきたワードと作戦が僕の脳裏によぎった。
「それは、その……例の取り返しのつかないアレのことですか?」
その発言の直後、目にも止まらぬ速さで僕の胸倉は掴まれ宙に浮かぶ。
「それをどこで知った?」
「それは……」
団長の眼光は鋭く、ここで僕が発現を間違えれば命ごと刈り取られそうだった。
だが、これで確信した僕は今、間違いなくこの世界の何かヤバい真実に手を届かせてしまっている。
「カマを、かけただけです。別に何も知りませんよ」
「本当か?」
「本当ですよ。何なら、冒険者ギルドにある嘘がわかる魔道具を使ってもらっても構いません」
一秒、二秒?いや、体感は数分とも感じられる無言の間が僕と団長の間には流れていた。
「……いや、いい。急に襲ってしまって悪かったな」
「いえ、こちらこそ変なこと言って申し訳ありません」
スッと降ろされた僕は掴まれた胸倉辺りを直しながら謝罪した。
ともかく、これである程度の考察は立てられる。
プロンの父親は人類ではどうにもならない、取り返しのつかないことをやってしまったから団長に殺されたと考えていいだろう。
「それにしても、仲間のためとはいえ私にカマをかけるとはな」
「……まあ、もちろんプロンのため、というのもありますけど……少し、団長のためって言うのもあります」
「私のため?」
「僕には、どうしても団長が自分を悪者にしようとしているように見えるんです。誤解ならそれを解きたいと思うし、理由を話せずに苦しんでいるなら……それを救いたい。って言うお節介です」
本当にプロンのためだけならこんな方法を取らなくても、もっと間接的な方法があるだろう。
だけれど、やっぱり僕にはあの団長が部下を殺すなんて考えられない。
じゃあ、何か事情があるんじゃないかと勝手な考察をしてしまった。
そう思ったなら、僕はそれを誰にも話せず苦しむなら僕が何かしなければいけない。
「……お節介か。よく出会って間もない私にやろうと思ったな」
「それは、出会って間もないとか関係なくて……僕が助けたいって思った。ただ、そういう性分ってだけです」
「損する性分だな」
「互いにですね」
何かしら理由があるのに、それを話せず全て自分で責任を引き受けようとする団長には言われたくない。
まあ、これでプロンを説得する材料を得ることができた。
そして、話を聞き終わった僕が部屋を出ようとドアノブに手をかけた時、団長が突然口を開いた。
「魔物と人類の境界線はどこにあると思う?」
「……え?」
「独り言だ。気にするな」
「……」
――僕は何も聞かず、外へ出た。
***
さて、少し昨日のことを思い出していたがやっとロックオンに成功したらしい。
200mほどなら数えてはいないが体感、数秒程度と言ったところか。
「はっ」
短い声と共に矢を放つと、その一射は放物線を描き吸い込まれるように的の中央に突き刺さった。
これが僕の新しいスキル、スナイプショットだ。
自分が視認できる範囲ならロックオン状態になることで命中率を上げることができるスキル。
ただ、どうやら距離や物体が動いているとその分だけ時間と力の消費が激しくなる。
それに、ホーミングというわけではないので避けられるし、遮蔽物には弾かれる。
逆を言えば、視認できるかつそれらの問題さえなければ宇宙にだって矢が届くというわけだ。
本当にスナイプ向きのスキルと言った感じだろう。
「……これが、必要な場面ってくるのかな?」
ぶっちゃけ、このスキルを使わなくても視認できる範囲なら大体当てられる。
使うとすれば、超遠距離からの暗殺ということになるだろう。
「魔物と人類の境界線か……」
もちろん、この二つは異なる存在だ。
だが、境界線と言われると、強いて言うならば“理性”ではないだろうか。
我々人類には、己の感情や本能を制止し、操る力がある。
――だとすれば、理性の失った人間は魔物と大差ないのではないだろうか。
よぎったのは理性なんてとっくの昔に失っていそうな父親の顔だった。
「おい、新入り。朝錬には少し、早すぎるんじゃないか?」
その時、後ろから声がかかる。
振り向くと、そこには僕の寮のルームメイトのアッシェラが立っていた。
「アッシェラ!?悪い、起こしちゃったか?」
「いや、俺もいつもこの時間に起きて朝錬してんだ。だが、まさか先を越されるとは思わなかったぜ」
「あー、少し考え事があってね。頭を空っぽにしたかったんだ」
「そうか……なら、少し俺に付き合ってくれねえか?」
そう言って彼は訓練場の倉庫から木剣を一本取りだしてくる。
「俺と戦ってくれ」
「……どうして?」
「俺が戦いたいからだ。それに、これから背中を預けるってやつの実力も知らないってのは怖いだろ?」
彼の言い分に脳裏をよぎったのは、ポラリス先輩が僕たちを試すためにボアの群れをけしかけたことだった。
あの時と同じシチュエーションだ。
「そうだね、なら胸を借りさせてもらおうかな。ところで、僕は弓を使ってもいい?」
なら、僕がやるべきはここで実力を示して信頼を掴むことだ。
「ああ、射手座の加護って言うのは矢も作れんだろ?なら、矢の先端を丸くしたのとか作れないのか?」
「矢の先端を……?やって見るか【クリエイトアロー】」
団長は言っていた。
スキルは己のイメージで意外と融通が利くのだと、ならばクリエイトアローで先端が丸い矢を作れない方がおかしい。
と、イメージすることで僕の手の中には確かに矢じりが丸い矢が数本出来上がっていた。
「でも、これ当たったら相当痛いよね」
「だな、だがそれは俺も同じだ。安心しろ、うちの医者は【乙女座】の加護を持っているから死ななければ大体直してもらえる」
「ルールは?」
「殺しはなし、殺傷目的じゃなければスキルを使ってもいい。これでどうだ?」
「のった」
登り欠けていた朝日が僕たち二人と、広場を赤く染め始めていた。
ついさっきまで鳴いていた風は奇妙なほど静かになり、集中がより深くなるのを感じる。
数歩、数歩、歩いた後、互いに向き合う。
自分の喉を鳴らす音が聞こえた。
緊張している、だが目の前の彼は飄々とした風体で今にも動き出しそうだった。
「……行くぞ」
「ああ」
広場に生えた木から今にも葉が一枚、落ちそうになっていた。
互いに示し合わせたわけではない。
だが、二人とも漠然とそれが開始の合図だと感じ取っていた。
風のいたずらか、葉は宙を舞いそして――
「来い、新入り!」
地へ落ちる。
「一方的にやられる気はないですよ!!」
戦いは今、幕を開けた。
異世界メモ:真実
おっかしいなぁ?
そんなものはないよ。この世界は、よくあるナ―ロッパだよ。
うん、ないよ。ないって言ったらない。うん、ない。偉大なる神がいる世界にそんな後ろ暗い話があるわけないでしょ?
12月9日現在、総合評価が”4!!”しかなかったので辛口でも何でもいいので是非とも評価していってください!!




