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第11話・仲間になるということは



 まだ僕は理解していなかったんだ、世界は残酷だという事実は前世と今世でそう変わるものじゃない。

 むしろ、異世界の方が何倍も危険で、残酷で惨くて絶望に近かったんだ。




 先輩の頭が食われた――


「……っ!!」


 その出来事に動揺したのは僅か1秒程度、すぐに正気に戻った僕は隣で呆然としているプロンさんを連れて横穴に隠れた。



「できるだけ奥に行こう。なるべく見つかりにくいように、体制を立て直そう」

「……はい」


 流石にプロンさんもこの状況に参ってしまっている。

 僕は、彼女に奥に行くように促してから少し様子を確認するため穴から顔を出す。


 どうやら先輩の頭に齧り付いてすぐに逃げたおかげで僕たちのことは見失ったらしい。



(何で、何がどうなって……!?)


 だが、そんなことはどうでもよかった。

 つい漏らしてしまいそうになる口を押えながら、その光景に視線が釘付けになる。


 間違いなく、先輩は死んだ。

 そりゃそうだ、頭を食われたら人間は死ぬ。



(なのに、何で先輩の体が動いているんだ……!?)



 頭が食われて糸が切れたように地面に落ちた胴体に、再び蛇が巻いたような跡が浮かび上がり動き出したのだ。


 決して、幻覚などではない。

 右腕が上がり、地面を押し上げ今にも立ち上がろうとしている。



 だが、頭を食い終わったワームが次は胴体に齧り付き口の中に納める。


「……」


 僕はその光景を直視することができず、背後から聞こえてくる咀嚼音に歯を食いしばりながらプロンさんがいる横穴の奥に戻った。




 ***




 横穴を進んでいくと予想以上に先が長く、奥には少し手狭だが2人くらいなら十分入れる空間があった。

 これならあのケーブ・ワームに簡単に見つかることはないだろう。



「あ、アポロさん。よかった、無事でよかったです」

「はい、ワームには僕たちのことは気づかれていないみたいです。とりあえず、ここで一息付けそうです」

「そう、なんですか……」


 わかってる、一息なんてつけるはずがない。

 ついさっき、僕たちの恩人である先輩が死んだのだ。


 しかも、あんな無惨な死に方を目の前にしてショックを受けなかったと言う方が無理がある。



(あのワームがボスなのは間違いない。あれを倒せば、脱出の扉が現れるんだろう)


 だが、問題はどうやって倒すかだ。

 僕の【パワーアロー】を優に超える火力を持つ先輩の【アルファード・ボム】を食らっても無傷の上に空を飛ぶ能力を持っている。


 見た目は完璧にケーブ・ワームなのだが、中身が違いすぎる。



「あ、あのアポロさん。実は、先輩が……た、食べられた時に【鑑定】スキルを発動しててあの魔物の正体がわかったんです」

「本当ですか!?それじゃあ、やっぱりあれケーブ・ワームじゃないんですね」

「はい、鑑定だと『ネスト・ストラクチャーワーム』って出てきてケーブ・ワームと似ているんですが、体が何個もの層になっていてダメージを受けてもその層が内部を守るようになっているみたいです」

「層が、内部を……」


 言われてみれば、初めて見た時と先輩が攻撃した後では少し小さくなっていた気がする。

 それが、何層もある外装を破壊したことによるものなら一見無傷に見えるのも説明がつく。


 要するにマトリョーシカのような構造になっていたのだ。



「……私のせいです。私がもっと早く【鑑定】を使っていればあの魔物の正体もわかって先輩が死ぬこともなかったんです」

「違う、あれは……どうにもできなかった。その…とにかく今は無事に家に帰ることだけを考えよう!」

「本当に家に帰れるんですかね…ごめんなさい……」

「それは、その……」


 慰めの言葉をかけようと思ったが、喉の奥で引っかかって出てこなかった。

 それよりも未来のことを考えよう的なことを言おうと思ったのだが、むしろ彼女を落ち込ませてしまった。


 絶望、それが僕たちの間に流れていた。


 この絶体絶命の現状で、頭の中も勝手に追い込まれるのは非常にマズい。

 だから、何か変えられるような話題を頭の中から絞りだそうとしたとき。


「……何で、プロンさんは冒険者になったんですか?」

「え?」

「あ……」


 あまりにも唐突すぎるその問いかけに、プロンさんは驚いて目を大きく見開く。

 対する僕も、話題を考えていたらつい口に出してしまっていたというだけのため思わず口を手で塞ぐ。



「ごめんなさい。なんというか、つい口から漏れてしまって…」

「ふふっ、なんですか漏れたって……いいですよ、ここならお兄ちゃんもいませんし」

「え?……じゃあ、ぜひ聞かせてください。プロンさんのこと」


 口を滑らせた直前は自身の語彙力のなさを呪ったが結果的に完全にたまたまだが彼女の笑顔を引き出すことには成功できた。



「私は、昔は冒険者じゃなくて騎士を目指してたんです」

「騎士?」

「はい、騎士学校に落ちちゃったから成れなかったんですけど…」


 騎士、先輩との会話でも少し出てきていたが僕の常識内にも入っている。

 曰く、国と民に奉仕する勇敢な者たちであり、一般的には街やその周辺に現れた魔物を倒す仕事を担っているらしい。


「実は、私の両親も騎士だったんですけど……子供の頃、ワームを率いる魔王種『スプリームハイドラ・ワーム』が街を襲ったんです」

「……魔王種、ポラリス先輩が言ってましたね。それじゃあ、まさか……」


 この会話の文脈と、魔物の種族ごとに一体しか存在していない最強の魔物が街を襲ったという事からおそらく彼女の両親はもう――



「お察しの通り、その魔王に殺されたんです。だから、私も騎士になって両親の仇を討つ……なんて、思っていたんですけど」

「落ちてしまった。でも、それならどうして冒険者に?」

「お兄ちゃんには止められたんですけど、どうしても騎士になるって言う夢が諦められなくて……噂だと優秀な冒険者が騎士に勧誘されたという話を聞いて冒険者になったんです」


 確かに、この理由を話せばフルドさんもいい顔をしないだろう。

 妹が両親の仇のためとはいえ、魔王種の討伐に命をかけようなんて言っているのだ。


 だが、妹の仇を討って転生した僕にはフルドさんの気持ちもプロンさんの気持ちも痛いほどわかる。



 でも、それと同時に兄なら妹にはのびのび生きて幸せになってほしいという願いも等しく持っている。


「……プロンさん。僕たちは今、ものすごくピンチです。命の危機です。ですが、きっと騎士になってもこういうピンチは起こると思うんです」


 だから、今僕がすべきことは彼女の夢を否定することじゃない。


「まだ、プロンさんが夢を諦めていないなら、ここで死んでいいはずがない。むしろ、ここが夢の始まりになるはずです」


 ましてや、彼女を一人突き落とすわけがない。


「なら、あの魔物を倒して一緒に帰りましょう。一緒に成長しましょう、そしていずれプロンさんが騎士になった姿を見てください」

「アポロさん…」


 僕がすべきなのは彼女を一人にしないこと、彼女の夢の完成系を待ち望む視聴者の一人として。



「ですよね……ですよね!!これから、騎士になるですからあんな魔物にひるむわけにはいきません」

「はい、その意気です!」


 別に、何か事態が好転したわけじゃない。

 だけれど、これは大きな一歩になる。


 今だけじゃない、これから先に続く道の大きな一歩だ。




 ***




「それじゃあ、何か対策を考えましょう。とりあえず……「待ってください」どうしたんです?」

「これから、私たちはお互い命を預けるんです。運命共同体何だか、なのに堅苦しいままってなんか…嫌です」

「え……じゃあ、プロンって呼んだ方がいいんですか?」

「うん、私はアポロって呼ぶから。堅苦しいのはなしですよ!」


 僕も敬語を使い慣れているわけではないので助かるが、妙にプロンさんはプロンさんと呼びたくなる雰囲気があったので違和感がすごい。


「……はい「え?」うん、わかったよ」

「それでよろしい……何だか仲間って感じが出て来たね」

「僕も、プロンさ……プロンと心の距離が縮まった気がする」


 仕事場の先輩が、敬語は相手への敬意を示すと同時に距離も作ると言っていた意味が何となく分かる気がする。

 確かに、気安い間柄の方が僕も安心して会話できる。


「それじゃあ、改めて対策を話し合いたいから自分のスキルで出来ることを教え合おう」

「うん、と言っても私は二つしかないんだけどね」

「僕も取れる策はあんまりないからなぁ…『ステータスオープン』」


 スキルの数は多いと言っても現時点の僕の腕では応用を効かせられるのは多くない。

 と言っても、頭の中で考えるのも厳しいのでステータスウィンドウを開く。


 ステータス

 名前:影山阿歩炉

 種族:人間

 称号:なし

 加護:【射手座(レベル4)】

 加護スキル:クリエイトボウ、クリエイトアロー、パワーアロー、セカンドアロー、フリーズアロー、ダブルショックアロー

 通常スキル:なし



 これが、現時点の僕のステータスなのだが――


「レベルが上がってる!?」


 僕の記憶が正しければ、昨日のボアとの戦闘によってレベル3に上がったのが最後のはずだ。

 しかし、ステータスウィンドウには間違いなく加護レベル4と記されている。


「そういえば、魔物を倒したすぐに気絶したりするとたまにレベルが上がっていることに気づかないって聞いたことありますね」

「あの時か……!」


 穴の底にいたワームの突進攻撃を前に渾身を一射を放ったが、突進の勢いを殺すことができず巨大な胴体の激突を食らって気絶した覚えがある。


 あの後に、レベルが上がったから気が付かなかったのだ。


(でも、ダブルショックアローってなんだ?)


 取得できた新スキルは説明などを確認できるわけではないので名前で推測する必要がある。

“ダブルショック”なのだから、二回とか二倍とかの衝撃を加えるのはなんとなくわかる。


 ただ、横穴の奥とはいえスキルを試すなんて勇気も余裕もない。

 残念ながら、不確実なことを作戦に盛り込むわけにはいかないのでこのスキルの出番はないだろう。



「そういえば、プロンさんのスキルって角なら何でも動かせるんだよね。これって、どう使える?」


 そう言って、僕が取り出したのは異世界に来て初めて出会った兎のドリルのような鋭利さを持つ角を差し出す。



「これ……【鑑定】って、やっぱり!?ロール・シャープラビットの角じゃないですか!?」

「すごいの?」

「すごいですよ、希少な上にホーン・ラビットと似ているからうっかり殺される人も多いんです。これなら、私が今持っているどの角よりも強いです」


 確かに、僕も異世界に来て初めての魔物で警戒していなければ、あっさり貫かれて死んでいただろう。


「なら、これはプロンが使って欲しい」

「いいんですか?」

「うん、だって運命共同体なんでしょ」


 それに、一晩中かけないと取れないほど強固な角だ。

 きっと、プロンの助けになってくれる。



「それじゃあ、ありがたく使わせてもらいますね。でも、この角があれば私もあのワームの討伐に貢献できます」

「それはありがたいね。おそらく、僕一人だとどうにもならなかったと思うから」


 こうして、僕たちは今回の真のボス、ネスト・ストラクチャーワームの討伐のための作戦会議を始めるのだった。




 ***



「それじゃあ、プロン。手筈通りに、気を付けてくださいね」

「うん、そっちこそ気を付けてね。私たちは運命共同体なんですから!!」


 横穴を出ると、僕たちを見失ってもずっと待ってくれていたのか苦衷を泳ぐ2、3mほどの巨大な影

 先輩はもういないけれど、その仇を討って家に帰るために――



「行くよ」

「うん!」


 僕たちのネスト・ストラクチャーワームとの戦いが始まった。






異世界メモ:騎士

領主や国が保有する私兵のことだよ。

有事の際には命を懸けて民を守るために戦うよ。

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