第1話・異世界に落ちる
努力は報われるのか?
報われると言った奴は大体、報われている奴らだ。
だけど、報われない努力でも立ち上がらなければいけない。
星は告げている
僕の戦いの始まりを――
***
なぜ、人は生きているんだろう。
生きる意味というのはどこにあるんだろう。
そして、この世の誰しもに生きる意味があるとすれば僕の意味は今、失われた。
「やめろ、やめろぉぉぉぉぉ!!」
目の前にいるのは、妹のサクラに馬乗りになりながら首を絞めている父親だった。
既に、妹の息遣いは聞こえず、細腕は力なく地面に垂れている。
頭が沸騰したように熱くなるのを感じる、殺さなければいけないと全身が震えている。
ボロボロの体に何とか鞭を打ちすぐさま、僕は台所から取り出した包丁を思いっきり奴に突き刺す。
「ッ、何しやがる!!」
だが、動揺して手が震えていたせいかそれともビビッていたせいかは知らないが、切っ先がぶれてかすり傷くらいにしかならなかった。
包丁を向ける僕を父親は心底恨めしそうにのぞき込み僕の手から易々と包丁を奪い取る。
「ちっ、邪魔だ!」
そして、父親の手に渡った包丁は僕の胸に深々と突き刺さった。
風船が割れたような衝撃だった、僕の指先から力が抜け始めるのがわかる。
割れた風船が元に戻らないように、瞳輝きも、胸の鼓動も、これまでの人生が流れ落ちていった。
刺さった直後はバタバタと手足を動かしていたはずなのにもう指一本も動かなくなってきた。
「ふぅ、やっと死んだか……さて、死体でも顔は悪くないし、このままヤっちまうか」
だが、父親の何気ない一言が流れていくだけのはずだった僕に火をつけた。
「あああああああああああああああああああああ!!」
「な、なんだ!?」
やぶれかぶれな叫びと共に、最後の力を振り絞った僕は今一度立ち上がった。
目線の先に敵を見据え、残りの力を総動員することで両手で胸に刺さった包丁を抜きとり、父親に飛び掛かる。
「妹に、触れるなぁァァァ!!」
「や、やめ……!!」
その包丁を、油断した父親の首元に向け一瞬のうちに血管を切り裂いた。
その時だった、人形を操っていた細い糸が切れるように、テレビの電源が切れた時のように僕の体も力を失い地べたに落ちた。
「……」
もう、終わる。
やっと、父親から逃げてまで掴んだと思った幸せも踏みにじられて妹も殺された。
必死に逃げた、自分が考えうる精一杯の努力もしたよ。
必死に働いたよ、父親に見つからないように静かに生きてたよ。
それなのにたった二年しか妹を守れなかった。
輝きを失いつつある瞳が既に動かない妹を写した。
もしも普通に生まれて普通に生きていたなら今頃、中学では高嶺の花なんて言われてきっとちやほやされていただろう。
もっと成長すれば母親に似てきっと美人になっていたはずだ。
本当にいい子だから、最後まで僕に文句ひとつ言わずついてきてくれた。
その結末がこれなんて、笑えない。
いや、何もかも僕のせいだ。
いや、もし兄が僕じゃなければ父親からの脱走だってもっとうまく行ったかもしれない。
もっと、彼女も幸せに笑顔に健やかに過ごせていたのかもしれない。
もっと、別の結末もあったのかもしれない。
もっと、もっと、もっと、もっと、もっと――
考えても埒が明かない、顔が歪むだけだった。
「頼むよ。こんな、ゴミみたいな命だけど僕は地獄にでも何でも落ちてもいいから……」
力なく、僕は呟いた。
もう、妹の姿すら瞳は写さなくなった。
「こんな屑の分際で今更神頼みなんて都合のいい話かもしれないけど……お願いだから、妹だけは、せめて天国か来世で……」
それでも、縋るように口先はゆっくりと祈りを綴った。
「し、あわせ……」
さっきまで幸せに暮らしていただろう平穏は打ち破られた。
希望亡きアパートの中で、消されることがなかった天井の光だけが死した彼らを見つめていた。
***
僕は度し難いほどの無念、抱えきれない後悔、ひたすらに自分を呪いながら人生を終えたはずだった。
だが、気づけば僕は一面真っ白な部屋で目を覚ましていた。
「僕は、どうして……サクラは?」
それだけじゃない、異変は僕にもあった。
最後の記憶では寸前は烈火の如く怒っていた覚えがあるが、不思議と冷静になっていたのだ。
「君が、影山阿歩炉君じゃな」
突然変わった景色に呆然と、見回していると僕以外にも、もう一人この場に立っている老人がいた。
見た目は、白髪で立派な白いひげを蓄え、顔には深いしわが刻まれており只者ではないのはすぐわかった。
「そ、そうですけど……どちら様ですか?」
神様にも見えたが、正直ヤクザにも見えたので思わず身構えてしまう。
「うむ、そこまで緊張する必要はない。儂は賢神キロン、簡単に言えば神じゃよ」
「神様……?」
神様に会えるくらいの善行を積んだ覚えはない。
むしろ、生前はろくでもない、最終的には妹一人も救えない生涯だった。
「あの、どうして僕をここに呼んだんでしょうか?」
「うむ、単刀直入に言おう、儂は君を異世界に転生させるつもりなのじゃ」
「異世界に転生!?」
どこからか使いまわされているように見える『転生チャーンス』と書かれたプラカードを出してくる。
だが、そんなことよりも一つ気になることがあった。
「……異世界って何ですか?」
「そこからかい!……まあ、よい。そういう事もあるじゃろ。要するに違う世界ってことじゃ」
「違う世界?お金持ちになれるってことですか?」
「そういう意味の違う世界じゃないわい!」
生前、中学校で周りが漫画や小説の話題でそんな話をしていたような気がする。
だけれど、本よりも明日のご飯の方が大事だったから一度も読むことはなかった。
「話が進まんな……とにかく、別の世界に行くってことじゃ!!わかったな!」
「まあ、わかり……待ってください。その、妹が僕と同じくらいの時に亡くなって……それなら、僕の代わりに妹を転生させるって言うのはダメなんですか?」
最初はあまりピンとこなかったが要するに別の世界で生き返ることができるチャンスということだ。
それなら、妹を守れなかったダメな兄ちゃんよりも、妹が転生すればきっと今度こそ幸せな日々を掴み取れる、そう思ったのだ。
「ダメじゃ、同じ時間に何人の人間が死んでおると思っておる。そこから、君の妹だけを探すというのは砂漠の中からネジを探すようなものじゃ」
「そんな……」
「君の気持がわからんわけじゃない、儂の力では君の妹を転生させることはできんのだ」
ついさっき感じたばかりの無力感と無念、後悔が再び僕に沸き上がってくる。
それにより、思わずその場に膝をついて項垂れてしまった僕に神様は優しくそう言った。
「あの、ごめんなさい。無茶言ってしまって」
「いいんじゃよ、それじゃあ説明を再開するかの。君が転生する世界の名は『ゾディアック』本当に星が綺麗な世界じゃよ」
「星、ですか」
そういえば、何人目か忘れたが母親がまだ生きていた頃にはよく星座図鑑を読んでもらっていた。
子供ながらコップ座とか、定規座など不思議な星座をよく見ていたものだ。
「そして、ただ転生するとすぐ死んでしまうから相応の力を与える。ほら、手を出せい」
「は、はい……ッ!?」
言われた通り、手を差し出すと僕の中に何か入ってくるような感覚がした。
決して不快というわけではなく。
不思議と懐かしい気持ちになりながら僕は力を受け取った。
【射手座】の加護を取得しました。
「ふぅ、こんなもんじゃな。かなり高位の加護だから、そう簡単に死ぬことはないはずじゃし、その気になれば世界最強になるかもしれんの」
額の汗を拭いながら神様は僕に加護を渡してくれた。
確かに、生前とは比べ物にならないくらい力が溢れてくる感覚がある。
「ありがとうございます……でも、その……異世界に行って僕は何をすればいいんでしょうか?正直、僕はもう何かしようとか……そういうのも全然何も考えられません」
「じゃろうな、だが儂からは特に何もない。じゃが、せっかく転生するんじゃから幸せになるんじゃぞ」
「幸せに……でも、僕の幸せは……」
「わかっとる。だからじゃ、お前はちと妹に囚われすぎている。じゃから、妹以外の幸せも探してみろ」
妹以外の幸せと言われても、そんなの僕には考えつかない。
妹と出会ってからのこれまでの人生は彼女を守るためにあったと言っても過言じゃないし、それ以外には何もなかった。
「お前の妹への気持ちはわかっとる。じゃが、妹もお前が幸せになることを望んでいるはずじゃ。わかったな」
「……わかりました」
神様の言う通りだ、妹は口は悪いが誰かの不幸を願う人間じゃない。
だとすれば、僕がすべきなのは彼女の分まで異世界を生き抜くことだろう。
「それと、異世界の常識も頭に入れておくから、あまり品位品格を欠いた行動はするんじゃないぞ。儂が責任に問われかねないからの」
「はい!!でも、本当に至れり尽くせりありがとうございます」
僕は、神様に向けて頭を下げながら心の底から感謝を伝える。
そして、顔を上げると神様は真剣な表情で僕を見つめていた。
「うむ、お前が転生しても父親を殺したことに罪悪感を感じているなら、それを償う旅に出ればいい、のんびり暮らしたいなら、冒険をしたいなら……何でもいいのじゃ。もう一度の人生を、幸せにするんじゃぞ」
「はい!行ってきますぅぅぅぅ!?」
神様の言葉に返事をしたその直後、僕の足元が急に頼りないものに変わり僕は真っ逆さまに下に落ちていった。
異世界メモ:アポロ
この一話から、始まる阿歩炉での異世界での冒険を少しだけここで解説しようと思うよ!!
用語に?って思っても、ここを読めばだいじょーぶ!…多分
12月9日現在で、総合評価が4しかないよ!頼む、モチベのためにブックマークでも何でもしていってね!




