本日の『遭難者』(その七)
おばけ屋敷の入り口で、ランプの一つが赤く点灯する。
雪女のコスプレをした女の子が、ランプの点灯に気づいて、
(また『遭難者』が出たのか)
このサングラスをかけた女の子は「タモちゃん」。
サングラスの奥から、タモちゃんはお客さんたちの行列を見る。なかなかの数だ。このおばけ屋敷、今日は繁盛している。
(でも、『遭難者』が出たのなら仕方がない)
おばけ屋敷の中にお客さんを入れる、そのペースを落とすことに決めた。少なくともあと三分くらいは、誰も中に入れないようにしよう。
タモちゃんはお客さんたちの列に向かって、
「申しわけございません。現在、中が混み合っておりますので、もうしばらくお待ちください」
無表情で告げると、手元にあったリモコンを操作する。
行列の横にある扇風機が全部、「強風モード」に変わった。
さらにタモちゃんは動く。
行列のうしろまで歩いていって、待ち時間がどのくらいかを示す案内板、それにも変更を加えた。「三〇分まち」だったのを「四〇分まち」に。
その直後に、タモちゃんは気づく。
「とつげきー!」
そんな声を発しながら、ラジカセをかついだ女の子が今、おばけ屋敷の裏口から突入していった。