本日の『遭難者』(その十七)
おばけ屋敷の入り口で、すべてのランプが赤く点灯する。
それに気づいて、雪女コスプレのタモちゃんは考える。
どうやら、怪奇現象が発生したらしい。
(これは解決に時間がかかるかも)
問題区画への「お経」放送、スプリンクラーを使った「聖水」散布、「閃光発生装置」の起動など。
(それらの準備で、本部は大忙しのはず)
サングラスの奥から、タモちゃんはお客さんたちの行列を見る。なかなかの数だ。このおばけ屋敷、今日は繁盛している。
(でも、怪奇現象が発生したのなら仕方がない)
これは不可抗力だ。
タモちゃんは行列のうしろまで歩いていくと、待ち時間がどのくらいかを示す案内板、それに変更を加えた。「四〇分まち」だったのを「六〇分まち」に。
並んでいるお客さんたちに、「しばらく中には入れない」ことを伝える。
予想はしていたものの、お客さんたちが一斉に不満顔へと変わった。
(そんな顔をされてもね)
とりあえず、行列の横にある扇風機を、「強風モード」から「最強モード」にした。暑さを和らげることで、少しでも不満を抑えるのだ。
でも、お客さんたちの目的は、「早くおばけ屋敷の中に入れやがれ!」だ。
本格的に騒ぎ出すのは、時間の問題だろう。
(どのくらいもつかな・・・・・・)