本日の『遭難者』(その十四)
おばけ屋敷の中で、ムーちゃんが小型無線機に告げた。
「七番です。これから外に向かいます」
このおばけ屋敷では、『遭難者』がいる場所で、『遭難者』という言葉を使わないようにしている。
売店にいるキョータローは、今の無線を聞いて考えた。
もうすぐムーちゃんが戻ってくるから、店番は交替だ。自分はおばけ屋敷の中に戻ることになる。
ミイラ人形の包帯を、三分の一ほど外していたが、
(元に戻しておかないと・・・・・・)
急いで包帯を巻き直すキョータロー。
「本部から七番へ」
珍しいな、と思った。『遭難者』を保護したあと、外に連れ出すのが最優先。そんな時に、本部の「梅雄」さんから指示が出るなんて、これまでになかったような・・・・・・。
「『外に出たら、俺の弁当を買ってきてくれ』」
キョータローは緊張した。
(これって、たしか・・・・・・)
おばけ屋敷というものは、基本的に「つくりもの」だ。心霊スポットとは違う。
しかし、ごくたまにあるのだ。「本物の怪奇現象」が発生する場合が。
どうやら、本部のモニターで何か「異常」を見つけたらしい。
本部からの、『外に出たら、俺の弁当を買ってきてくれ』。
これは、そんな非常時における『避難誘導』の一つだ。
本当の意味は、『来た時とは違う場所から、外に出ろ』。
つまり、今回ムーちゃんが移動したルート、そのどこかに「本物」が出たらしい。




