本日の『遭難者』(その一)
おばけ屋敷は大変だ。
ある遊園地のおばけ屋敷、その薄暗いモニタールームに一人の男がいた。
戦国武将のような兜を、男はかぶっている。こちらに背を向けているので、どんな顔かはわからない。
男の正面には十以上のモニターがあって、それを順番に見ている。どのモニターも、おばけ屋敷の中だ。
このおばけ屋敷は、「廃校になった小学校」を題材にしている。モニターに映っているのは、「教室」や「廊下」といった場所が多い。
その中の一つだけが、テレビの天気予報を流していた。
今日は「晴れ」だ。しかも「猛暑日」。
モニタールームの壁には、八月のカレンダーがかかっている。
この部屋のエアコン、その温度は「二〇度」に設定してあった。
が、ここにいる男は暑がりだ。エアコンだけでは足りない。
それで、非常用の蓄電池を使い、二台の扇風機も動かしていた。
こうするのは当然、と男は自分に言い聞かせる。
モニタールームのような、「おばけ屋敷のバックヤード」は、客にのぞかれては困る場所だ。
だから、基本的には「閉めきった状態」になる。
また、部屋の蛍光灯も消していた。十以上のモニターが今、明かりの代わりになっている。
そうやって減らすのだ。部屋の外にもれる光の量を。
そこで男は気づく。二つのモニターだけを交互に見た。
片方の画面には、Tシャツ姿の男の子が映っている。
Tシャツの前面には、大きく「1」の数字がプリントされていた。たぶん、小学三年生くらいだろう。
この男の子はペンライトを持っている。どこかの廊下を前へ前へと進んでいた。
もう片方の画面にも、Tシャツ姿の男の子が映っている。
Tシャツの前面には、大きく「2」の数字だ。こっちは小学一年生くらいだろう。
この子はペンライトを持っていない。どこかの教室の前にうずくまって、「泣きべそ」状態だ。
うずくまっている男の子の画面を見ながら、モニタールームの男はつぶやく。
「見ーつけたー」